7.役立たずのラジコンvs足手まといのシスコン(前)
とある月曜日の放課後。
西八王子にある某喫茶店で、俺は瀬川瞳さんからインタビューを受けていた。
もう何度目かも分からないが、また俺の記事を出すらしい。
「……じゃ、野球の話は終わり! 今日はプライベートの事も教えてよ~」
「殆ど野球しかしてないんで語ることないっすよ」
やがて野球の話を終えると、瞳さんはプライベートの話を要求してきた。
とは言っても、富士谷には夜間練習もあるので、趣味らしいことは殆どできていない。
せいぜい友人とのメールを楽しむくらいだ。
「いやいやいや、あるでしょ! 好きな人とか性癖とか!!」
「性癖????」
瞳さんは唐突にぶっこむと、俺は思わず言葉を溢してしまった。
俺の性癖を全国に発信する気かよ。正気の沙汰ではないな。
「イエス性癖! 風の噂で聞いたんだけど、かっしーくんはおっぱいより太もも派なんだって~?」
「まさかとは思いますけど、それ記事にする気ですか????」
「いや個人的に聞きたいだけ! 流石に記事にしたらセクハラだよ~!」
今でも十分セクハラだけどな、とは言わなかった。
しかし根も葉もない噂だな。発信者は間違いなく恵だと思うが。
「まぁ胸のサイズに拘りはないっすね。男は99%巨乳好きですけど、俺は残りの1%なんで」
「やっぱり! それについて、恋愛マスターの私から助言があるんだけど」
「助言?」
「そう助言! かっしーくんにはまだ分からないと思うけど、何度もエッチすると考えたら彼女は巨乳の方が絶対に飽きないよ!?」
「あんまデカい声でそういうこと言わないでくれます??」
静かな喫茶店に瞳さんの声が響き渡った。
控え目に言っても恥ずかしい。そして謎の巨乳推しは何が目的なのだろうか。
「まぁ口で言っても分からないよね~」
「理解する気もないですからね」
「そこで! 今日は特別に私のおっぱいを揉んでもらって、実際に巨乳の良さを知ってもらおうと思うんだけど――」
「すいません待ってください。言いたいことしかないんですけど」
瞳さんはそこまで語ると、俺は言葉を遮ってしまった。
今のところツッコミどころしかない。人前で高校生に胸なんて揉ませるなよ……というのもそうだが、今はそれよりも言ってやりたいことがある。
それは――。
「アンタ別に巨乳じゃないだろ……」
瞳さんは断じて巨乳ではない。
それどころか、どちらかと言うと貧乳寄りの人間である……と。
そこまで言うと怒られそうなので、心の内に留めておいたけども。
「ふっ……ふふっ……かっしーくん、まだ私の真意に気付けていないみたいね……」
「いやまぁ気付きたくもないでんすけど」
「そう邪険に扱わないでよかっしーくん。私の胸を揉めば絶対に貧乳はダメだと分かる筈だよ? 私も身をもって体験してきたし……!」
「あ、そっち??」
瞳さんは半泣きになりながらも、再び胸を触るよう強要してきた。
本当にこの人どうしたんだろう。婚期のリミットが迫ってきて頭が狂ってしまったのだろうか。
或は、元から痴女だったのか、俺を青田買いしようとしているのか……。
「もう帰っていいっすか? 貴重なオフなんで」
「ああ! せめて元カレからパクってきた巨乳モノのAVだけでも……!」
「元カレさんに返してあげてください」
「(ダメだ……ごめんね恵。かっしーくんと落とすには生まれ変わるしかないよ。琴ちゃんみたいな子にね……)」
そんな感じで、俺は逃げるように喫茶店を後にした。
後日、恵に事情を尋ねたところ、全く目を合わせずに「きっと婚活に疲れてるんだよ」と告げられたが、それはまた別の話である。