27.○暮らしのどのえってぃ
「堂上、ちょっと待てよ……!」
堂上が作文を読み終えた翌日、私は帰宅しようとした彼を呼び止めた。
理由は他でもない。どうしても、昨日の堂上の態度が気になってしまったのだ。
本当は当日に話し掛けようと思ったけど……昨日は夜間練習の後で時間も押していた。
という事で練習の無い月曜日、二人になれる放課後を選んで話し掛けるに至った。
「ふむ……何の用だ?」
「昨日の作文を聞いて思ったんだけどさ」
私はそこまで言い掛けると、堂上は鋭い目付きで睨みつけてきた。
この表情は以前にも見た事がある。だからこそ分かるけど、本当は触れてはいけない事なんだと思う。
けど、私は真実を知りたい。そして――出来る事なら彼の力になりたかった。
「前に言ってた秘密って、もしかして家族の事なんじゃないか……?」
私は勇気を振り絞って問い掛けてみた。
以前、堂上に「秘密はあるか」と問い掛けた時、彼は物凄く怖い表情で「無いと言ったら嘘になる」と答えている。
恐らく、その秘密というのは家庭の事。だから畦上先生に対して、あの時と同じ表情を見せた。
「……余計な詮索はするなと忠告した筈だが」
堂上は冷たい視線で睨んできたが、私は視線を逸らさずに見つめ続ける。
正直に言えば物凄く怖い。もう体中汗でびっしょりだし、生きた心地がしないし、心なしか体も震えている気がする。
けど、それでも……私は一人で抱え込む堂上を放っておけなかった。
「ふむ……今日は絶対に退かないという事か。仕方がない、そこまで意地になるのなら、自分の目で真実を確かめるといい」
私の根気に負けたのか、堂上はそう言って鞄を持った。
そのまま背を向けてきたので、私は慌ててその背中を追う。
「ちょ、どこ行くんだよ……!」
「秘密を知りたいのだろう? ついてこい、俺の家に招待する」
そして――堂上はそんな事を言うものだから、私はポカンとした表情を浮かべてしまった。
あれ、普通に家に行っていいのか。てっきり家族との仲が悪いのかと思っていたが……。
なんにせよ、これで堂上の秘密が明らかになる。
まぁ……思ってたよりは重くなさそうなので、なんとなく肩の荷が下りた気がした。
※
舞台は変わって東京都新宿区。
私は堂上が暮らす落合という場所に案内されていた。
新宿と言えば大都会の印象があるけど、この場所は閑静な住宅街が広がっている。
むしろ地価が高いからか、一軒家のサイズは全体的に小粒だ。
なんだろう、都会への幻想が一つ消えたな。新宿区民と言ったら物凄く裕福な印象があったのに。
「着いたぞ」
ふと、堂上はそう言って民家の門に手を掛けた。
どれどれ、堂上の住居はどれ程の物なのか……。
「って、でけぇえええええええええええ!」
その瞬間、私は思わず叫んでしまった。
目の前に現れたのは不自然にデカい大豪邸。庭には芝生が広がっていて、敷地内には蔵みたいなやつも建っている。
嘘だろ……ガチガチのお坊ちゃまじゃねぇか。とても都立に通っている人の家には思えない。
「……やべっ!」
私は苦し紛れにスカートを少しだけ下げてみた。
富士谷基準の短さだと下品に思われるかもしれない。下手したら猥褻物陳列罪で捕まる説まである。
いや、実際はそんな事ないんだろうけど、私はそれくらい動揺していた。
しかし凄い家だな……思わず惚れ惚れしてしまう。
中は一体どうなっているんだろう。上品であろう家族も含めて好奇心を擽られてしまう。
そう思った次の瞬間――。
「どこへ行こうとしている。俺の家はこっちだ」
「……へ?」
堂上は庭にある蔵っぽい建物に向かっていった。
流石に冗談だと思いたい……が、堂上はそのまま扉に手を掛ける
そして「早く来い」と言わんばかりに睨んできた。
「あの時のママチャリあるじゃん……」
蔵の横には、見覚えのあるママチャリも停めてある。
これは……忘れる訳が無い。年末の夜、堂上が「年賀状を手渡して配る」という奇行を取った時に使っていた自転車だ。
わざわざ蔵の横に置いているという事は、そこに置くのが一番便利なのだろう。
正直、訳が分からないし、未だに理解が追いつかない。
ただ一つ言える事は――彼は今、この倉庫みたいな蔵で暮らしていた。
本日も2話投稿です。