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27.○暮らしのどのえってぃ

「堂上、ちょっと待てよ……!」


 堂上が作文を読み終えた翌日、私は帰宅しようとした彼を呼び止めた。

 理由は他でもない。どうしても、昨日の堂上の態度が気になってしまったのだ。


 本当は当日に話し掛けようと思ったけど……昨日は夜間練習の後で時間も押していた。

 という事で練習の無い月曜日、二人になれる放課後を選んで話し掛けるに至った。


「ふむ……何の用だ?」

「昨日の作文を聞いて思ったんだけどさ」


 私はそこまで言い掛けると、堂上は鋭い目付きで睨みつけてきた。

 この表情は以前にも見た事がある。だからこそ分かるけど、本当は触れてはいけない事なんだと思う。

 けど、私は真実を知りたい。そして――出来る事なら彼の力になりたかった。


「前に言ってた秘密って、もしかして家族の事なんじゃないか……?」


 私は勇気を振り絞って問い掛けてみた。

 以前、堂上に「秘密はあるか」と問い掛けた時、彼は物凄く怖い表情で「無いと言ったら嘘になる」と答えている。

 恐らく、その秘密というのは家庭の事。だから畦上先生に対して、あの時と同じ表情を見せた。


「……余計な詮索はするなと忠告した筈だが」


 堂上は冷たい視線で睨んできたが、私は視線を逸らさずに見つめ続ける。

 正直に言えば物凄く怖い。もう体中汗でびっしょりだし、生きた心地がしないし、心なしか体も震えている気がする。

 けど、それでも……私は一人で抱え込む堂上を放っておけなかった。


「ふむ……今日は絶対に退かないという事か。仕方がない、そこまで意地になるのなら、自分の目で真実を確かめるといい」


 私の根気に負けたのか、堂上はそう言って鞄を持った。

 そのまま背を向けてきたので、私は慌ててその背中を追う。


「ちょ、どこ行くんだよ……!」

「秘密を知りたいのだろう? ついてこい、俺の家に招待する」


 そして――堂上はそんな事を言うものだから、私はポカンとした表情を浮かべてしまった。

 あれ、普通に家に行っていいのか。てっきり家族との仲が悪いのかと思っていたが……。


 なんにせよ、これで堂上の秘密が明らかになる。

 まぁ……思ってたよりは重くなさそうなので、なんとなく肩の荷が下りた気がした。

 

 



 舞台は変わって東京都新宿区。

 私は堂上が暮らす落合という場所に案内されていた。

 

 新宿と言えば大都会の印象があるけど、この場所は閑静な住宅街が広がっている。

 むしろ地価が高いからか、一軒家のサイズは全体的に小粒だ。

 なんだろう、都会への幻想が一つ消えたな。新宿区民と言ったら物凄く裕福な印象があったのに。


「着いたぞ」


 ふと、堂上はそう言って民家の門に手を掛けた。

 どれどれ、堂上の住居はどれ程の物なのか……。


「って、でけぇえええええええええええ!」


 その瞬間、私は思わず叫んでしまった。

 目の前に現れたのは不自然にデカい大豪邸。庭には芝生が広がっていて、敷地内には蔵みたいなやつも建っている。

 嘘だろ……ガチガチのお坊ちゃまじゃねぇか。とても都立に通っている人の家には思えない。


「……やべっ!」


 私は苦し紛れにスカートを少しだけ下げてみた。

 富士谷基準の短さだと下品に思われるかもしれない。下手したら猥褻物陳列罪で捕まる説まである。

 いや、実際はそんな事ないんだろうけど、私はそれくらい動揺していた。


 しかし凄い家だな……思わず惚れ惚れしてしまう。

 中は一体どうなっているんだろう。上品であろう家族も含めて好奇心を擽られてしまう。

 そう思った次の瞬間――。


「どこへ行こうとしている。俺の家はこっちだ」

「……へ?」


 堂上は庭にある蔵っぽい建物に向かっていった。

 流石に冗談だと思いたい……が、堂上はそのまま扉に手を掛ける

 そして「早く来い」と言わんばかりに睨んできた。


「あの時のママチャリあるじゃん……」


 蔵の横には、見覚えのあるママチャリも停めてある。

 これは……忘れる訳が無い。年末の夜、堂上が「年賀状を手渡して配る」という奇行を取った時に使っていた自転車だ。

 わざわざ蔵の横に置いているという事は、そこに置くのが一番便利なのだろう。


 正直、訳が分からないし、未だに理解が追いつかない。

 ただ一つ言える事は――彼は今、この倉庫みたいな蔵で暮らしていた。

本日も2話投稿です。

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