39.秘密兵器の実力
西東京大会5回戦
2010年7月21日(水) 府中市民球場 第1試合
都東大学第三高校―都立富士谷高校
スターティングメンバー
先攻 都大三高
二 ④木代(2年/右右/175/74/文京)
中 ⑧金子(2年/右左/181/80/中野)
左 ⑦吉沢(3年/右左/169/77/横浜)
三 ⑲木田(1年/右左/180/74/飛騨)
右 ⑤安田(3年/右右/177/80/相模原)
一 ③崎山(3年/左左/180/81/新宿)
捕 ②山城(3年/右右/174/76/那覇)
投 ⑳宇治原(1年/右右/183/75/大津)
遊 ⑥石田(3年/右左/176/70/町田)
後攻 都立富士谷
中 ⑧野本(1年/右左/175/64/日野)
遊 ⑥渡辺(1年/右右/171/62/武蔵野)
投 ⑨金城(3年/左左/180/78/府中)
右 ①柏原(1年/右右/177/72/府中)
左 ⑦堂上(1年/右右/178/75/新宿)
一 ③鈴木(1年/右右/177/70/武蔵野)
捕 ②近藤(1年/右右/170/70/府中)
二 ④阿藤(2年/右右/170/58/八王子)
三 ⑤京田(1年/右右/163/53/八王子)
勝てばベスト8となる5回戦、都東大学第三高校との一戦は、雨空の中で行われる事となった。
舞台は引き続き府中市民球場。西東京では唯一バックネット裏に屋根がある球場で、今日は多くの高校野球ファンが集っていた。
「いやーごめん、表取れなかったよ」
「ここまで全敗じゃないですか……」
ジャンケンを終えた孝太さんは、残念そうに言葉を溢した。
今日の試合プランは先行逃げ切り。先制パンチで動揺を誘いたかったが、孝太さんはジャンケンで負けて、相手が先攻を選んだ。
今までは全部裏を取られたのに、本当にツイてない。
グラウンドインすると、俺達はいつも通りアップ等をこなした。
ひとつ違う点を挙げるなら、俺でも堂上でもなく、孝太さんがブルペンに向かったという事だ。
一塁側、都大三高のベンチでは、帽子からソックスまで、全身が白っぽいユニフォームの選手達が、こちらの様子を窺っている。
「え? 金城投げんのかよ」
「けっこう速そうだな……木更津先生、何か言ってたっけ」
「言ってなかった。2年前は何投げてたかなぁ、覚えてねーわ」
都大三高の選手達は、少し驚きを見せているものの、大袈裟には動揺していないように見えた。
さすが名門とでも言うべきか、憎たらしいくらい可愛いげが無いな。
「孝太さん、状態はどうですか?」
「うん。ストレートは全く問題ないね。変化球も今のとこは平気かな」
「わかりました。残りの投球練習はストレートのみ、試合も追い込むまではストレート系中心でいきましょう」
ブルペンの孝太さんにそう告げると、俺はベンチに引き下がった。
今日の鍵は、如何にして孝太さんを持たせつつ、選手生命を守り切るかに尽きる。
幸い、ストレートなら肘は痛まないらしいので、この系統の球を軸に打ち取るのが最善手だろう。
グラウンド整備を終えると、やがて両チームが整列した。
午前10時、小雨が降り注ぐ中、府中市民球場特有の激しいサイレン音と共に、試合開始が告げられた。
『1回の表 都東大学第三高校の攻撃は。1番 セカンド 木代くん。背番号 4』
俺はライトの守備位置に付くと、マウンドの孝太さんを見守った。
先頭打者は右打ちの木代さん。中肉中背のリードオフマン相手に、孝太さんはどんな投球を見せるのだろうか。
その初球――。
「……ットライク!!」
けたたましいミットの音と共に、木代さんのバットは空を切った。
球場全体が騒がしく響動めく。左腕から放たれたストレートは、140キロ中盤は出ているように見えた。
「ありゃ、吉田と同じくらい出てねーか」
「菅尾に続いてウチまで負けるとかねーよなぁ?」
一塁側スタンド、都大三高の帽子を被った爺さん達は、口々にそう溢している。
都立の背番号9がこんな球を投げるなんて、誰一人として想像していなかっただろう。
二球目、少し高めに浮いたストレート。
これも空振りしてストライク。再び客席から「おおっ!」と声が漏れた。
木代さんは頷きながら構え直す。粘られても面倒だ、三球で決めにいっていいだろう。
三球目、孝太さんが右足を上げる。
球の出所を隠すようにグラブを突き出し、スリークォーター気味に腕を振り抜いた。
そして――。
「ットライク!! バッターアウッ!」
高速域で沈む球は、バットの下を潜っていった。
空振りの取れるツーシームだ。この時代に、この球を打てる高校生はそう多くない。
西東京の名門・都大三高の選手達も、目を丸めて驚いているように見えた。
続いて左打者の金子さん。初球を見逃すと、二球目の直球を打ち上げてセカンドフライ。
3番は同じく左打者の吉沢さん。高校通算28本塁打の強打者だが、切れ味抜群のスライダーで空振り三振に切って取った。
「孝太さん、ナイスピッチです」
「孝ちゃんパイセンまじパネーっす!」
三塁側のベンチに帰ると、選手達は一人ずつハイタッチを交わした。
控え目に言っても完璧な立ち上がりだ。5回なんてケチ臭い事は言わず、行けるところまで行かせたい。
そう思わされるくらい、彼のピッチングに隙はなかった。
「うん、思ったより通じるね。けど0点じゃ勝てないから、何とかして点が欲しいな」
「そこは任せてください。打ち合わせ通りの作戦で、絶対に先制してみせますよ」
都大三0=0
富士谷=0
(三)宇治原―山城
(富)金城―近藤