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15.さよならキューバ

 12月27日。キューバ選抜との親善試合3試合目が行われた。

 本日の先発は成律学園の北潟。4回から堂上が登板し、7回からは帝皇の伊東が締める事になっている。

 尚、スタメンは下記の通りになった。


【東京選抜】

遊 ⑮相沢(都大二高)

左 ⑲小西(東栄学園)

中 ⑯新井(二本学舎)

三 ⑤木田(都大三高)

一 ⑬大宮(早田実業)

投 ⑩北潟(成律学園)

右 ⑦勝吉(都大亀ヶ丘)

捕 ⑳大海(国秀院久山)

二 ④久保(八玉学園)


【キューバ選抜】

右 モンテシーノ

二 モニエル

中 モリーナ

左 フェレーノ

一 A.マルティネス

投 バルデス

三 ティアント

捕 ガルシア

遊 ミランダ


 

 2試合連続でスタメンだった俺は流石にベンチスタート。

 途中出場もないと思うので、試合は割愛して見ていこう。


 先制したのは今までとは打って変わってキューバ選抜。

 1回表、二死無塁からモリーナがライトへのソロアーチを放った。

 彼は3試合連続でのスタメンだが、よほど信頼が高いのだろうか。


 一方、東京選抜も負けてはいない。

 2回裏、今日まで全く出番がなかった大海は、満塁で走者一掃の逆転ツーベースを放った。

 捕手は3人いるのでどうしても出番が分散する。外野兼任の選手は全員2試合出場できたというのに。


 先制点こそ許したが北潟だが、それ以降は走者を出しながらも無失点。

 そして堂上も3回1失点の試合を作り、終盤までは最少失点で凌いでいった。

 打線も着実に点を重ねて本日も東京選抜ペース。しかし、7回から登板した伊東が捕まり、9回裏を迎えた時点で5対5の同点になってしまった。


 この伊東という選手は、以前に少し説明したファーストミット四天王の一人である。

 1年夏に148キロを記録した宇治原と並ぶ逸材。ただ、宇治原とは違い伸び悩み、今の最速も変わらず148キロだった。

 宇治原が160キロ、俺がサイドで148キロ、そして堂上も147キロを記録する中で、148キロはインパクトに欠けてしまったのだろう。


「さーてと、一人出れば天才の僕に回るね! 主人公がカッコよく決めるから皆は邪魔しちゃダメだよ! あははははははは!」


 そう叫んで高らかに笑ったのは木田哲人。

 お前みたいな主人公がいてたまるか、と出掛かった言葉は何とか飲み込んだ。


「柏原、小西の所で代打な」

「うっす」


 米原監督の一声で、俺はネクストバッターサークルに向かう。

 結局、3試合共に出場する事になってしまった。外野手兼任は役得だと痛感する。


 9回裏、東京選抜の攻撃は相沢からだったが、左中間へのツーベースを放って無死二塁となった。

 昨日のホームランから調子が良いな。初見の投手は苦手とはいえ、何十年も同じ体を使っているので上手いのは当たり前か。


「柏原決めたれや~」

「打てば愛しのマネージャーに自慢できるぞ!!」

「打っちゃダメだよ柏森くん! ノーマンで天才の僕に回してね♪」


 ここで迎える打者はピンチヒッターの俺。

 ちなみに余談だが、富士谷の面々は日ごろからマネージャーが可愛いネタで弄られている。

 尤も、堂上は言うまでもなく全く動揺していないのだが。


「(クソ、ジャパンに二敗もしてたまるかよ)」


 マウンドには3番手のペレス。

 昨日と一昨日はショート出場した選手で、投げても最速146キロのストレートを記録している。

 それ以外に見所は無いが、高校レベルなら十分な好投手だ。


「ボール!」

「ファール!」

「ボール!」


 ペレスは変化球中心の組み立てで2ボール1ストライクにしてきた。

 サヨナラの走者が出て一塁も空いている。ボール先行になるのは当然か。

 ただ、木田の為に一塁を空けておきたいという部分で、露骨な敬遠はやり辛いのだろう。


「(もう敬遠でよくないか? 一塁埋めればゲッツーもあるぜ)」

「(いいや、ダメだ。クレイジーボーイの為に一塁は空けておくべきだね)」


 バッティングカウントからの四球目、ペレスはストレートを放ってきた。

 もう親の顔より見た右腕からの140キロ台。腕が届きそうだったので、俺は合わせるようにバットを振り抜いた。


「oh……おわった……」

「マネージャーのオマケが打った!」

「いい土産話が出来たな〜!」


 打球はライト線への鋭い当たり。

 ライトは打球を追っているが、マウンドのペレスは両手を広げて諦めている。

 やがて相沢がホームを踏むと、三塁側ベンチからはバカにしているとしか思えない歓声が飛んできた。


「うふふふ……天才の僕を差し置いて目立つなんて許せないなぁ!」

「いいじゃねぇか不敗神話続行なんだしよ。これで俺ら3人が出た試合は秋以降無敗な訳だ」

「せやせや。練習試合もA戦は全勝やし、このまま勝率10割で卒業するで」


 木田はニコニコと不気味な笑みを浮かべていた……が、木更津や宇治原が宥めてくれている。

 なにはともあれ、これでキューバ遠征は2勝1分。野球先進国のキューバに対して、日本の首都がレベルの高さを見せつけた。



玖馬選抜100 001 003=5

東京選抜020 111 001x=6

【玖】バルデス、ペレス―ガルシア

【東】北潟、堂上、伊東―大海

 





 親善試合の全行程を終えた俺達は、キューバを適当に観光してから帰国する事になった。

 大して面白い出来事は無かったので詳細は割愛。ただ、キューバは一年を通して暖かいので、この時期に海に入れるのは新鮮だったと思う。

 それからキューバのプロ野球。日本ではオフに入る12月から行われるので、これは現地観戦も含めて毎日勉強させて貰った。


「柏原はいいよな~。帰ったら可愛いマネージャーが待ってるし」

「羨ましすぎるわ。一人くらいわけてくれよ」


 帰国前、空港で絡んできたのは小西(東栄学園)と勝吉(都大亀ヶ丘)だった。

 彼らに限らないのだが、こうやって女子マネの話で弄ってくる人は非常に多い。


「お前らの所でも女子マネが待ってるんじゃねぇの」

「可愛いって所が大事なんだよ~。俺の所はいっつも眠そうな顔してて愛想ねぇし」

「トレードしようぜトレード。瀬川だっけ? あの子が来るならこっちは2人出してもいいわ」


 コイツら普通に失礼だな。

 いや気持ちは分からなくもないが、ここは大人としてビシッと言ってやるか。


「おいおい、マネージャーを見た目で判断するなよ。失礼だぞ」

「ほう……まるで柏原は容姿を気にしていないと言わんばかりの発言だな」


 と、そう思って指摘すると、唐突に堂上が突っ掛かってきた。

 なんか久しぶりに台詞を聞いた気がする。顔は毎日のように合わせていたけれども。


「なんだよ急に」

「ふむ……時に柏原。今好きな人に惚れた切っ掛けは何だ?」

「……恐ろしく可愛いからで御座います」

「そうだろう。人を容姿で判断するのは人間に備わった本能、つまり不可抗力と言える」

「コレとソレとは話が違うだろ。今のはあくまでマネージャーとしての話でだな……」

「そのマネージャーに惚れているのだから切っても切り離せない話だと思うが」

「おいコラ堂上」


 そこまで言葉を交わすと、俺は堂上の口を塞ぐように掴んだ。

 プライバシーもクソもあったもんじゃない。こういう時、チームメイトがいると不利だと痛感する。


「え、なに? 柏原ガチでマネに恋してんの?」

「恵ちゃんか!? やっぱ恵ちゃんなのかぁー!?」

「恋愛の話は分からないなぁ。彼女がいた事もないから分からん」

「(ああ、羨まし……じゃなくてクソい……)」


 そんな感じで、長いようで短かったキューバ遠征は幕を閉じた。

 しかし――非常に男臭い一週間だったな。帰国したら取り敢えず琴穂に会いたいと心から思う。



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[一言] >「(ああ、羨まし……じゃなくてクソい……)」 木更津くんの本音をゲットっ!
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