11.お約束
2011月12月4日。東京選抜の面々は明治神宮野球場を訪れていた。
本日は都東大学との練習試合。また、東京高野連のお偉いさんからの挨拶もある。
まあ……例によって長い挨拶は省略するけど、事実上の開会イベントとなっていた。
「高校生の僕達にボッコボコにされた大学生はどんな顔するんだろうね! あはははははははははははは!」
そう叫んでいるのは西のキチガイ様こと木田哲人。
相変わらず頭が可笑しい。相手が大学生だろうとお構い無しだ。
「ゴホンッ! えー、昨日も言ったが、野手に関しては全員試す。投手も可能な限り使うから、そのつもりで準備するように」
米原監督(関越一高)からそう告げられると、選手達は白板に書かれたスタメンを確認した。
尚、スタメンは下記の通りである。
【U―17東京選抜】
遊 ⑥宮城(国修館)
中 ⑲小西(東栄学園)
三 ⑤木田(都大三高)
一 ③松岡(関越一高)
右 ⑨堂上(富士谷)
左 ⑦勝吉(都大亀ヶ丘)
投 ⑧柏原(富士谷)
捕 ⑫土村(関越一高)
二 ④久保(八玉学園)
【都東大学】
中 篠井(2年/作誠学院)
右 村川(1年/高山都大)
三 安田(1年/都大三高)
一 有島(2年/酒折学院)
遊 島袋(2年/諫早都大)
左 大槻(1年/都大蔵王)
DH 岡本(1年/浦環学院)
捕 佐野(2年/塩原都大)
二 樋口(1年/比野)
(投) 小高(1年/都大亀ヶ丘)
相手で面識があるのは安田さんのみ。
彼は1年夏の5回戦で、5番ライトで出場していた選手だった。
「安田くん懐かしいなぁ! 僕に負けてライトに左遷されてたよね! あはははははははははははは!」
「色んな意味で天才くんの被害者やったな。無情にも移設された鳥の巣を夜な夜な元に戻しとったし」
「(それ俺もやらされたわクソが)」
三高の面々が何やら懐かしがっているが……色々とツッコミ所が多すぎる。
先輩を「くん」呼びするのもどうかと思うし、何をどう間違えたら鳥の巣を移設する事になるのだろうか。
とまぁ、色々と思う部分はあるが、そろそろ試合に移っていこう。
先ずは開会宣言と始球式から。とはいっても、喋るのも投げるのも東京高野連のおじさんなので、どうでもいいし割愛させて頂く。
そして肝心の試合の方だが、此方も小刻みに選手交代が行われた為、俺が試合に出たのは僅か3イニングだった。
投げては1回を無安打無四球2奪三振。2回からはセンターに入り、1打数1安打1四球の内容を残した。
此方は金属、相手は木製バットとはいえ、大学生相手と考えたら十分な内容ではないだろうか。
一方、俺以外の投手陣も順調に結果を残していった。
宇治原、堂上、北潟は1回無失点。伊東は無死満塁のピンチを背負ったが、ここから粘って犠牲フライの1点で留めた。
本多、後田の左腕コンビも自責ゼロ。
後田は自身の連続バントエラーで失点したものの、投球自体は無安打で終えている。
二俣と新井は2点ずつ取られたが、彼らは内野手として招集されている為、あまり痛くはない内容と言えるだろう。
そして野手陣は9回16安打で9得点。
此方は金属、かつ相手も継投が多かったとはいえ、2~3学年の差を物ともせず打ち崩している。
やはりと言うべきか、東京の精鋭が集っているだけに戦力は本物。このメンツなら都大三高より強いのでは、とすら思わされてしまった。
東京選抜203 001 201=9
都東大学002 210 100=6
【選】柏原、宇治原、新井、二俣、伊藤、堂上、後田、本多、北潟―土村、木更津、大海
【都】小高、小嶋、河村、戸谷―佐野、小笠原
※
日付は変わって12月12日、本日は東山大菅尾(3年生のみ)との練習試合が行われる。
という事で、俺達は会場である多摩一本杉球場に足を運んでいた。
「あーあァ! クソみたいな田舎まで来ちまったなァ!!」
そう叫んでいるのは東のキチガイこと土村康人。
関越一高は参加校最東端(寮は千葉県白井市)なので、随分と遠くに来たと言いたいのだろうが……彼自身は自宅通いの府中市民だ。
大した移動距離ではないし、勘違い都会マウントも良い所である。(そもそも江戸川や白井も都会ではないが)
「ウォッホン! えー、本日も可能な限り全員試すが、バッテリーや二遊間の組み合わせは弄っていく。前回と違う相手と組むと思うが、コミュニケーションをしっかりとるように」
米原監督は大袈裟に咳払いすると、何時ものように語り始めた。
尚、スタメンは下記の通りである。
【U―17東京選抜】
三 ⑮相沢(都大二高)
二 ④久保(八玉学園)
遊 ⑯新井(二本学舎)
一 ③松岡(関越一高)
右 ⑦勝吉(都大亀ヶ丘)
左 ①宇治原(都大三高)
中 ⑲小西(東栄学園)
捕 ⑳大海(国修院久山)
投 ⑪伊東(帝皇)
【東山大菅尾】
二 奥原
左 大里
中 堀江
一 小寺
三 高瀬
投 板垣
捕 岩井
右 瀬戸口
遊 金沢
此方は二度も対戦しているので見覚えのある名前が多い。
瀬戸口さん、金沢さんは富士谷戦では出ていないけど、何れもベンチ入りには登録されていた選手だった。
さて、国内最後の練習試合だが、本日も東京選抜のペースで進んでいった。
文句の付けようがない試合展開。ただ一つ思うのは、バッテリーや内野手に比べて外野手が少ない気がする。
その為、小西や勝吉、外野兼任の投手陣は、他の選手に比べて試合に出ている時間が長かった。
なんだろう……偏見かもしれないけど、この手の選抜系は外野手が軽視されている気がする。
もう一つ、一三塁手も手薄になる印象だが、今回に限っては一三塁手兼任の投手が多い為、人材不足は外野だけに留まっていた。
「柏原、最終回は任せた」
「うっす」
そして迎えた9回裏、俺の出番が回ってきた。
現時点でのスコアは10対4。捕手は木更津で、相手の攻撃は奥原さんからの好打順である。
「(あるぇ、スプリットの落差って嬬恋キャベツ何個分だっけかなぁ)」
そういえば、夏の奥原さんの最終打席は四球だったな。
このままだと勝ち逃げされるので、たかが練習試合とは言わず本気で三振を取りに行こう。
という事で、奥原さんにはスプリットを出し惜しまずに追い込んだ。
この人は非常に目が良い。夏はスプリットの落差を的確に把握して、最終回の土壇場で四球を選んでいる。
だからこそ――同じ球種がもう一つあれば、有効に活かせるという事だ。
「(思い出した。嬬恋キャベツ3個分だ)」
2ストライク2ボールから迎えた5球目、俺はセットポジションから腕を振り抜いた。
白球は構えた所に吸い込まれていく。奥原さんは鋭くバットを振り抜くが――。
「ットライーク! バッターアウト!」
「(あれ? フォーク??)」
バットは空を切って空振り三振。
木更津の捕球技術にも助けられたが、やられっぱなしだった好打者を気持ちよく仕留めた。
続く中岡さん(途中交代)はサードゴロ。
二死無塁となり、ラストバッターで三振する事に定評がある堀江さんの打席を迎えた。
俺との対決では3回連続のラストバッター。もはや呪われているとしか言いようがない。
「二度ある事は三度あ……いや、三度目の正直あるぞ!」
「これぞ神様がくれたロスタイム!!」
「(また俺かよ!! けど今度こそ……!)」
チームメイトに弄られながら、堀江さんは左打席でバットを構える。
まぁ……最後くらい打たせても良いけど、木更津のリードに従っておくか。
「ットライーク!」
「ボール!」
「ットライーク!」
木更津の的確なリードもあり、あっと言う間に追い込んでしまった。
しかし、堀江さんは此処から粘っていく。計9球を投じて、気付けばフルカウントになっていた。
「(ふぅー……今度こそアウトローのストレートだろ。来るならこいよ!)」
堀江さんは公式戦さながらの表情でバットを構えている。
今までの未練を晴らすと言わんばかりの気迫。恐らく、今回も「あの球」を待っているのだろう。
これは公式戦ではないし、点差的にも打たれても問題ない。
堀江さんがそれ以外全部カットすると言うのなら、此方も期待に応えるのが礼儀でありノリというもの。
そう思ったのだが――。
「(これサークルチェンジかインハイのストレートで終わるだろ)」
木更津はサークルチェンジを要求してきた。
俺は首を振ってみる……が、意地でも外角のストレートは要求しない。
結局、此方が折れて外のスプリットを投げる事になってしまった。
九球目、俺はセットポジションから腕を振り抜く。
白球は構えた所に吸い込まれると、堀江さんは迷わずバットを振り抜くが――。
「(よし、アウトローのストレ――えぇ!?)」
一点張りだった堀江さんは、無様に空振りしてゲームセット。
空気の読めない木更津の配球で、あっさり打ち取って勝利した。
東京選抜300 102 130=10
東山大菅100 011 100=4
【選】伊東、堂上、後田、本多、北潟、宇治原、柏原―大海、土村、木更津
【菅】板垣、豊岡、鈴木、鶴巻―岩井、小寺




