2.おみやげちょーだいっ
キューバ行きが決まった日の放課後、一部の部員達は2年1組の教室に集まっていた。
「残された俺達の為にも土産は豪勢に頼む!」
そう頼んできたのは言うまでもなく京田である。
どうやらこの土産乞食は、土産を依頼する為だけに俺達を招集したらしい。(まあ堂上は帰ったが)
「って言われてもなぁ。キューバって何が名物なんだよ」
「どうなんだ野本!!」
「キューバと言えばラム酒じゃない?」
「酒は飲めん! 他は!?」
「うーん、あとコーヒーとカカオ……まぁチョコレートだね」
「私チョコがいいっ」
「同じくチョコを所望する!」
琴穂の希望はチョコレートか。これは買ってこないとな。
被せてきた京田にも与える事になるが、ここは富士谷の代表として全員に買って帰ろう。
「そろそろホムペに出る頃じゃね〜」
「うおおおおおお! キューバが俺達を呼んでいる!」
「陽介は選ばれてないけどね……」
さて、そろそろ高野連HPでも発表される時間だ。
そう思って確認すると、既にメンバーのPDFがアップロードされていた。
【スタッフ】
監督 米原 貴博(関越一高)
助監督 大倉 義政(都大三高)
コーチ 前澤 光男(帝皇)
コーチ 泉 稔(早田実業)
【選手】
①宇治原 繁(都大三高)
②木更津 健太(都大三高)
③松岡 周平(関越一高)
④久保 健吾(八玉学園)
⑤木田 哲人(都大三高)
⑥宮城 亮平(国修館)
⑦勝吉 敦(都大亀ヶ丘)
⑧柏原 竜也(富士谷)
⑨堂上 剛士(富士谷)
⑩北潟 栄人(成律学園)
⑪伊東 拓真(帝皇)
⑫土村 康人(関越一高)
⑬大宮 光太郎(早田実業)
⑭二俣 大貴(徳修)
⑮相沢 涼馬(都大二高)
⑯新井 誠也(二本学舎大附)
⑰本多 俊英(東山大菅尾)
⑱後田 宗一郎(明神大仲野八玉)
⑲小西 誠治(東栄学園)
⑳大海 諒(国秀院久山)
【補欠】
投 竹下 裕太(駒川大高)
投 日暮 潤(大山台)
捕 舞岡 秀太(明神大仲野八玉)
内 吉原 大成(佼呈学園)
外 折坂 陸人(都大二高)
メンバーは上記の通り。
尚、選出メンバーから辞退者が出た場合は、補欠から補充される仕組みになっている。
「思ってたより三高すくねーな」
「堂前くん選ばれてないんだね」
「うーん。同じ外野専なら小西より大越だと思うけどなぁ」
一部の選手は選考に異議がある様子だった。
無理もない。本当に実力順であれば、メンバーの半分くらいは都大三高の選手で埋まる筈だ。
その他にも、落選した有力選手は幾らかいる。順を追って一つずつ解説していこう。
先ず、この行事はU―18ワールドカップのような大会ではない。
あくまで海外、そして他校との交流を目的とした親善試合である。
その為、ルールとして明記はされていないが「極力いろいろな高校から選ぶ」という暗黙の了解があるのだ。
次に、この時代の東京選抜は、選手権終了時点で一次選考を実施している。
そうなると当然、下級生時代からの活躍がマストとなる為、秋に台頭した選手は選ばれ辛いのだ。
尚、2018年から選考会で選ぶようになる為、このシステムは将来的には改善されている。
他にも、一次選考の時点で監督から選出を拒否される選手も存在する。
正史の俺はそのパターン。これは故障持ちだったので仕方が無かったと言える。
また、八玉学園が誇るコミュ強オタクこと横溝は「彼が八玉学園の代表だと思われたくない」という理由で、監督から選出ストップが掛かっていた。
「それにしても豪華なメンツだね」
「殆ど東京オールスターだしな〜」
「くそっ! 木田と相沢が居なければサードは俺だったのに……」
「ねえよバカ」
そんな感じで、選手達は呑気に雑談を続けていた。
すると突然、机を蹴飛ばしたような物音が響き渡る。
慌てて振り返ると、そこでは不貞腐れ気味の津上がふんぞり返っていた。
「控え目に言ってもクソみたいな選考っすね。つまんねーし帰ろっと」
彼はそう吐き捨てて立ち上がると、雑に扉を開けて教室から出ていった。
恐らく、代表好きの津上としては、選ばれなかった事が不服なのだろうが……これも仕方がない。
当時の選考システム上、選ばれるのは2年生のみ。1年生は来年も開催される事を祈るしかないのだ。
「(気まずい……)」
「(てか選ばれてないの分かってたのに何で来たんだよ)」
「(西本くんの席がっ)」
気まずさから来る静寂は暫く続いた。
すると突然……いや再び、机と椅子の動いた音が響き渡る。
またか、と思いながら俺達は振り返った。
「おっ、起きたか恵」
「おはよう」
「居たんだ……」
どうやら、机に突っ伏していた恵が顔を上げたようだ。
物凄く眠そうな表情で此方を睨んでいる。そして口を開くと――。
「……私はラム酒」
「おおう、買えたらな」
そう言い残して再び突っ伏してしまった。
恐らく、瀬川監督へのプレゼントだとは思うが――今の恵は二日酔いのOLさながらの表情だった。
自分で飲まないか心配だ。そもそも、未成年の俺が酒を買えるのかも謎だが……。
まあ、どのみち先の話。先ずは皆で行く修学旅行である。
という事で、琴穂と同じ班という事に感謝しながら、来週を待ち望むのだった。
・U-17東京代表について補足
作中では東京高野連の気まぐれで開催されると語られていますが、現実だと記念年に開催される仕様となっています。
例えばミャンマー遠征(2014年)は日本ミャンマー外交関係樹立60周年、キューバ遠征(2018年)は都大会100周年記念です。
尚、現実の2011年はロサンゼルス遠征だったのですが、筆者がキューバと勘違いをしていた為、作中ではキューバ遠征になってしまいました。
後から訂正しても良かったのですが、何方も野球先進国であり展開にも影響がない為、このまま進めさせて頂きます。