47.微かな希望
秋季東京都大会準決勝
11月5日(土) 明治神宮野球場球場 第1試合
都東大学第三高校―都立富士谷高校
スターティングメンバー
先攻 富士谷高校
中 ⑧野本(2年/右左/178/70/日野)
一 ③鈴木(2年/右右/179/75/武蔵野)
遊 ⑥津上(1年/右右/180/78/八王子)
投 ①柏原(2年/右右/180/76/府中)
右 ⑨堂上(2年/右右/180/80/新宿)
二 ④渡辺(2年/右右/174/68/武蔵野)
左 ⑦中橋(1年/左左/170/60/八王子)
捕 ②近藤(2年/右右/170/73/府中)
三 ⑤京田(2年/右右/165/59/八王子)
後攻 都大三高
中 ⑧篠原(2年/左左/182/77/杉並)
三 ⑤木田(2年/右左/181/78/飛騨)
捕 ②木更津(2年/右両/177/73/南房総)
一 ③大島(2年/右右/180/91/前橋)
投 ①宇治原(2年/右右/185/82/大津)
右 ⑨雨宮(2年/右左/179/76/郡上)
遊 ⑥荻野(2年/右左/168/65/船橋)
左 ⑦高山(2年/右左/179/80/西東京)
二 ④町田(2年/右右/175/72/菊川)
メンバー表の交換を終えると、俺達はグラウンドインしてアップを始めた。
空は相変わらず曇り模様。本来であれば秋は神宮第二を使ってた時代なので、肌寒い神宮というのは新鮮な気がする。
尤も、俺は一周目で神宮大会に出ているので、初めての経験ではないのだけれど。
「ノック上手すぎだろ。成律や創唖ですら小学生に見えるわ……」
「マッチさん(町田)が特にヤベーっすね。控えめに言っても異次元クラスっす」
「ブルペンの音も凄くない? 木更津くん痛くないのかなぁ」
ノックが始まるや否や、選手達は都大三高に圧倒されていた。
無理もない。大社経由を含めれば7人がプロ入りする超絶タレント軍団である。
夏は勝ったとはいえ、その実力差はノックの時点で明白だ。
しかし、それでも勝敗が分からないのが高校野球というもの。
情報では此方が勝っているし、ゲームメイク能力は宇治原より俺の方が評価されている。
ロースコアに持ち込んでワンチャンスをモノにすれは、決して勝てない相手ではない……と、今は信じるしかない。
「かっしー」
「ん、なんだよ」
ふと、恵に声を掛けられた。
どうでもいいけど、二つ結びで帽子を被る姿には違和感を感じてしまう。
恵は基本的に髪を結ばない。スタンドに居た頃は何時もの髪型で帽子を被っていた。
「緊張してる?」
「そうでもないかな。過労死するほど働くよりは楽だろ」
「ふふっ、さっすがエース様」
「おまえは?」
「も〜緊張しまくり! 寒いし緊張するしで琴ちゃん並に頻尿だよ〜!」
「琴穂を指標にするのやめろ」
恵は饒舌に語っていたけど、今日は結構な頻度で姿を消しているので、本当に緊張しているのだろう。
父親と挑む最後の都大会。その最難関を迎えているのだから、緊張するなと言う方が無理な話だ。
まあ、寒いのは太もも丸出しなのが原因だと思うけど。
「ベンチ前!」
「っし、行って来るわ」
「がんばって〜」
そんな会話をしている内に、グラウンド整備が終わっていた。
選手達はベンチ前に並ぶと、主将の俺はその先頭に立つ。
「集合!」
「しゃい!!」
「これより、都東大学第三高校と、都立富士谷高校の試合を始める。礼!」
「おっしゃっす!」
そして――ホームを挟んで一礼すると、都大三高の選手達は守備に散っていった。
さて……先ずは攻撃だ。今まで都大三高戦は全て後攻だったので、先攻で挑むのは初めての事になる。
先に攻めるからには先制点は必須。
どうか初回からチャンスメイクして俺に回して欲しい。
そう心で願いながら、1回表の攻撃を見守る事にした。
※
富士谷の先攻で始まった試合だが、序盤は夏と同様の展開で進んでいった。
先制したのは都大三高。3回裏、一死無塁という場面で、木田哲人のソロアーチが飛び出した。
打たれたのはアウトロー一杯のストレート。単打は仕方がないという気持ちで勝負したが……相手としては、さっそく敬遠対策が的中したと言える。
一方、富士谷は4回表まで無得点。4回裏も無失点で切り抜けて、4回終了時点のスコアを0対1とした。
ここまで数字だけ見た展開は夏と変わらない。しかし、中身という部分では、夏と比べて希望が見える内容だった。
どうやら「ウジハラEX」の再現率は相当な物だったようだ。
選手達は思ってた以上にストレートに食らいつき、変化球の見極めも出来ているように見える。
4回を終えた時点で3安打5四死球5三振(1併殺)。全てのイニングで走者を出した他、宇治原の球数は早くも80球を超えていた。
練習の成果は勿論、徹底したストレート一点張りも功を成している。
やはりというべきか、木更津はストレート狙いに秒で気付いて、変化球中心の組み立てに変えてきた。
しかし、宇治原の変化球はキレるが暴れる。となると、必然的に球数は嵩んでくるし、富士谷の攻撃が長くなるのも当然だった。
『5回表 都立 富士谷高校の攻撃は 2番 ファースト 鈴木くん。背番号 3』
そして――5回表の攻撃は、2番に打順を上げた鈴木からである。
点差は負けているが勢いでは押せている展開。その中で。鈴木から中軸に繋がる好打順を迎えた。
「いけー夜の三冠王! 昼も支配してやろうぜー!」
「ピッチャー疲れてるよー! 球は速いけどバテるのも早いんじゃなーい?」
ベンチにいる選手達も元気よく声を出している。
これは……もしかしたら勝てるのではないだろうか。
そんな期待が、三塁側の富士谷ベンチに漂いつつあった。
富士谷000 0=0
都大三001 0=1
【富】柏原―近藤
【三】宇治原―木更津