38.魂の直球勝負
成律学200 000 0=2
富士谷110 000 0=2
【成】北潟―剣見
【富】堂上、柏原―駒崎
8回表、一死満塁という場面で、俺はマウンドを託された。
打席には4番でエースの北潟。1年夏から主力なだけあって、構えからは風格が感じられる。
……打者北潟を眺めるのも懐かしいな。
マウンドから見下ろすのは正史の2年夏以来。あの時、俺は既に肘を痛めていたので、万全の状態で挑むのは初めてだ。
果たして、俺のピッチングというのは、北潟に通用するのだろうか。
「(スプリットは……ダメですか。なら外ストっすね、外れても良いんで厳しくお願いします)」
サインを出す駒崎に対して、俺は2つ目のサインで頷いた。
流石に満塁かつ駒崎だとスプリットは多投できない。他の球種を軸に組み立てて、厳しくなったらスプリットを解禁しよう。
一球目、俺はセットポジションから腕を振り抜く。
白球は構えた所に吸い込まれると、北潟は悠々と見逃してきた。
「ットライーク!」
主審の右手が上がってストライク。
北潟はミットの位置を確認すると、納得げに頷いた。
「(速いな、続けてくるか?)」
「(一球目よりも厳しくお願いします)」
二球目、駒崎のサインは再び外のストレート。
手を出す気配が無かったので、狙い球ではないと判断したのだろう。
という事で、俺は再びストレートを放った。
白球は外角低めに吸い込まれていく。北潟はバットをピタリと止めると――。
「ボール!」
直球は僅かに外れてボールが宣告された。
駒崎はスイング判定を求めるも覆らず。一先ずは平行カウントとなった。
「ボール、ツー!」
三球目は外のサークルチェンジ。見送られてボール。
バッティングカウントとなり、駒崎はミットを内に構えてきた。
「(ベタっすけど対角にストレートいきましょう)」
駒崎の要求は内角高めのストレート。
異論は無いな。押し出しが怖い場面ではあるが、最も速度差を感じる球になる。
投げ切れさえすれば、そう簡単には打たれる球ではない。
「(インハイのストレートかツーシームか、それともフロントドアの高速スライダーか。……どのみち内寄りだな、ここは絞ってみるか)」
情熱大陸の音色が流れる中、北潟はバットを構え直す。
「ふぅ……」
そして――俺は一息吐くと、ロージンバックを投げ捨てた。
カウントは打者有利。早ければこの一球で、試合の明暗が分かれる事になる。
夏は全く同じ球を周平に打たれた。
しかし、北潟に周平ほどの打力はない。
怖いのは死球と失投だけ。当てる事を恐れず、全力で腕を振り切ろう。
四球目、俺はセットポジションから左足を上げる。
そして着地と同時に右腕を振り抜くと、白球は構えた所に吸い込まれていった。
「(……きた!)」
その瞬間、北潟はフルスイングで打ち抜いてきた。
バットの鈍い音が響き渡る。打球の行方は――。
「ピッチ!!」
ボテボテのゴロは、俺の真正面に転がっていた。
バットの根元に当たったドン詰まりの当たり。俺は落ち着いて捕りに行くと、流れるような動きでグラブトスした。
「アウト!!」
「(くそっ、タッチプレーなら……)」
先ずは本塁封殺でツーアウト。
打球が弱すぎてヒヤリとしたが、フォースプレーなので落ち着いて処理できた。
そして――。
「アウトォ!!」
「(……手いってぇ。これが世代トップクラスのストレートかよ)」
駒崎は一塁に送ってスリーアウト。
頭から滑り込んだ北潟は、苦笑いを浮かべながらゆっくり立ち上がった。
「うぇ~い」
「完璧っすね。150キロ出てたんじゃないっすか?」
「かっけー。こりゃ愛しの金城も今頃大洪水……痛い痛い!」
内野陣に煽てられながら、俺は京田の手首を握り締めた。
一死満塁のピンチでホームゲッツー。それも力で完璧に捻じ伏せた。
これは……長らく曖昧だった流れが傾くのではないだろうか。
「柏原ギブ! てか試合中!」
「陽ちゃんはこの回で代打だから大丈夫っすよ」
とりあえず打者北潟へのリベンジは果たした。
後は勝ち越して抑えるだけ。その為にも、次こそ投手北潟を攻略しよう。
成律学200 000 00=2
富士谷110 000 0=2
【成】北潟―剣見
【富】堂上、柏原―駒崎