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343/699

30.各駅停車打線

秋季東京都大会3回戦

10月22日(土) 市営立川球場 第2試合

都立比野高校―都立富士谷高校

スターティングメンバー


先攻 比野高校

中 ⑧工藤(1年/右左/175/67/日野)

二 ④細野(2年/右右/177/78/日野)

遊 ⑥吉野(2年/右左/169/67/八王子)

右 ⑦玉井(2年/右右/182/79/日野)

一 ⑨川島(2年/右右/178/78/立川)

三 ⑤大石(1年/右右/176/75/日野)

投 ③佐瀬(2年/左左/171/69/八王子)

左 ①足立(2年/右右/196/88/立川)

捕 ②高尾(2年/右右/180/80/八王子)


後攻 富士谷高校

中 ⑧野本(2年/右左/178/70/日野)

二 ④渡辺(2年/右右/174/68/武蔵野)

遊 ⑥津上(1年/右右/180/78/八王子)

投 ①柏原(2年/右右/180/76/府中)

右 ⑨堂上(2年/右右/180/80/新宿)

一 ③鈴木(2年/右右/179/75/武蔵野)

左 ⑦中橋(1年/左左/170/60/八王子)

捕 ⑫駒崎(1年/右右/179/74/小金井)

三 ⑤京田(2年/右右/165/59/八王子)


 試合は0対0のまま、4回表を迎えようとしていた。

 俺は比野打線を相手に3回1安打5奪三振の投球を披露。唯一の走者は併殺で仕留めたので、ここまで最少人数で切り抜けている。

 一方、佐瀬は毎回走者を出しながらも、要所でギアを上げて踏み留まっていた。


「アウト!」

「ああ〜……」

「富士谷は点が入りそうで入らないなぁ」


 3回裏、二死二塁の好機を迎えるも、俺が放った打球はセカンド正面のライナーになった。

 二遊間にしては動きが重い細野を狙ってみたが……そう上手くはいかないな。


「思ったより打ち易くないっすか?」

「右打席からだとリリースは見やすいな。ただなんだろう、珍しさ故の打ち辛さは感じるわ」

「そっすかねえ。球種も少ないんでそろそろだと思うんですけど」


 守備に入る前、津上とそんな言葉を交わした。

 実際、左のサイドスローというのは、右打席からだと球は見易い。

 そう言った意味では、右打者の多い富士谷打線は有利だと言えるだろう。


『4回表 都立比野高校の攻撃は。1番 センター 工藤くん。背番号 8』


 さて、佐瀬攻略の前に守らなくては。

 4回表、比野の攻撃は1番の工藤から。紅の応援曲と共に左打席に入った。


「(まるで打てる気配なかったしな……セーフティでもしてみるか)」


 工藤の一打席目は空振り三振。

 比野では唯一、足が使える選手なので、バスターやセーフティも考えられるだろう。


 一球目、俺はセットポジションからストレートを放った。

 予想通りのセーフティバント。工藤は何とかバットに当てたが――。


「……アウト!」

「(やべえ、ぜんぜん球が見れねえ)」


 高々と上がった打球は、駒崎が捕らえてファールフライになった。

 所詮はエリートでもない1年生。都立にしては良い選手なのかもしれないが、プロ注目クラスが相手だと歯が立たないな。


「おっしゃーす」


 続く打者は大型二塁手の細野。

 177cm78kgと体格が良く、とても「2番セカンド」とは思えない。

 実際、彼は打撃が売りの中距離打者で、小技とは無縁の選手だ。


 比野には細野のような大型の中距離打者が多い。

 一方、小技や走塁は苦手としていて、単打一本でワンベースがデフォルトだった。

 長打さえ許さなければ、そう簡単には失点しないだろう。


 という事で、単打まではOKという気持ちで低めに集めていった。

 細野は三球目を打ってショートゴロ。続く吉野には一二塁間を抜かれたが、4番の玉井を空振り三振で打ち取った。


「ナイピッチっす」

「いい流れだな!」

「うぇ〜い!」


 俺達は軽い足取りでベンチに撤収していく。

 正直、各駅停車の打線は楽だ。考える事が少ないので、守備も集中できている気がする。

 やはり問題は打つ方、佐瀬の攻略である。


『4回裏 都立富士谷高校の攻撃は。5番 ライト 堂上くん。背番号 9』


 4回裏、富士谷の攻撃は堂上から。

 ブラスバンドが奏でる怪盗少女と共に、右打席でバットを構えた。


「(陽介の所で休めるとして、二人までなら出しても何とかなりそうだな)」


 マウンドには左腕の佐瀬。

 ここまで3回3安打1四球ながらも、要所を抑えて無失点で凌いでいる。

 そろそろ先制したい所だが……果たしてどうなるか。


「ボール!」

「ボール、ツー!」


 初球、二球目は外れてボール。

 中軸という事もあり、比野バッテリーは慎重になっている。

 そして迎えた三球目、佐瀬はストライクを取りに行くと――。


「おおお!」

「ナイバッチ!!」


 堂上の放った打球は、レフトへの浅いフライになった。

 外角を強引に引っ張った当たり。レフトの足立は深めに守っていて、どう見ても打球には追い付けない。

 レフト前ヒットで無死一塁。本日4度目の好機を迎えた。


「(左サイドって外から入って来るっしょ? 流した方がいいんじゃねーの)」


 続く打者は広角に打てる鈴木。

 力任せの堂上とは違い、コースに逆らわない打撃を持ち味としている。

 実際、OPSでは堂上が勝っているが、打率は鈴木の方が良かった筈だ。


 ここで鈴木も続けば、中橋で送って一死二三塁を作れる。

 そう期待していたのだが――鈴木は五球目を捉えると、ファースト正面のライナーになった。


「惜しかったな」

「狙いは合ってたと思うんだけどな〜」


 当たり前だが10割打てる打者は存在しない。

 堂上より鈴木の方が器用とは言ったが、必ずしも鈴木の方が打てるとは限らないのだ。


「ットライーク! バッターアウト!」

「(うっわ、手が出なかったわ)」


 後続の中橋は見逃し三振。

 やはり左打者は佐瀬を苦にしている。打線に2人しかいないのは不幸中の幸いか。

 二死一塁となり打者は駒崎。ここで比野バッテリーは再び慎重に攻めてきた。


「……ボール、フォア!」


 ワンスリーからの四球で二死一二塁。

 これで得点圏まで走者が進んだが……相手としては想定の範囲内なのかもしれない。

 何故なら、次の打者とバッテリーは顔見知りだからだ。


『9番 サード 京田くん。背番号 5』


 某セーラーマンの曲が流れる中、ラストバッターの京田が右打席に入った。

 佐瀬、高尾のバッテリーとは同じチーム出身。お互いの事は嫌というほど分かっているに違いない。


 ちなみに佐瀬はエース、高尾は控え捕手、そして京田は控え三塁手だ。

 高尾は6番あたりで起用される事もあったが、京田は完全に守備要員として扱われていたらしい。

 駒崎相手に逃げ腰だったのにも頷ける。ここで切れるのは明白なのだから。


「(陽介だし外野はもっと前で良いよ。しっかしコイツが甲子園に行くとは……俺も富士谷にすりゃよかったわ)」


 捕手の高尾が手で指示を出すと、外野は極端な前進守備を敷いてきた。

 抜けたら確実に三塁打になりそうなシフトだが……京田は飛ばせないという判断なのだろう。


「おいおい、甲子園ベスト16のサード様だぜ? そんな前で大丈夫か?」

「大丈夫。何なら外野守備いらねぇまであるわ」

「あ?? 後悔させてやんぜ、そのシフト」

「はいはい」


 京田と高尾は何か言葉を交わしている。

 その間、高尾と佐瀬はバッテリーサインを交換。

 佐瀬は一つ目のサインに頷くと、セットポジションの構えに入った。


「(陽介だしな。力で捩じ伏せてやんぜ)」

「(っかー、いつまでも昔の俺だと思うなよ!)」


 一球目、佐瀬はセットポジションから左腕を振り抜いた。

 白球は外角に吸い込まれていく。その瞬間、京田は豪快にバットを振り抜いた。


「おおおおおおおおお!!」

「きたか!?」


 けたたましい打球音と共に、客席からは悲鳴交じりの歓声が沸き上がる。

 センター方向に上がった当たり。これは――と思ったのも束の間、センターの工藤は一歩も動かず白球を捕えた。


「……アウト!!」

「ああ~……」

「いいのは音だけだった……」


 客席からは安堵と落胆の声が漏れている。

 うん……京田は京田だった。そう簡単に打てたら苦労しないし、そう簡単に人は変われないのである。


 結局、5回の攻防も無得点。

 0対0の同点のまま、試合は後半戦に突入した。



比_野000 00=0

富士谷000 00=0

【比】佐瀬―高尾

【富】柏原―駒崎


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