27.開いた力量差
2011年10月16日。俺達は多摩一本杉公園野球場を訪れていた。
多摩センター駅からバスで15分。辺りは森に囲まれていて、蛇や蜥蜴といった爬虫類も生息している。
そんな首都東京とは思えない僻地で、都立大山台高校との2回戦を迎える事となった。
「日暮くん、だいぶ大きくなったね」
「うわー別人みてぇ」
大山台のエースは偽柏原こと日暮潤。
去年は細身の選手だったが、177㎝78㎏とガッチリした体格に成長している。
正史では患うイップスも回避しているので、本来よりも「少しだけ」強くなったと言えるだろう。
「ふむ……大した投手には見えないな。それに打線の方はどうなんだ? 一回戦はロースコアだったみたいだが」
「去年の方が強かったんじゃねーの。ノックもイマイチだったぜ」
堂上と鈴木はそんな言葉を交わしている。
彼らの言う通り、今年の大山台は本来よりは強いが、去年よりは総合力で劣る印象だ。
東京屈指の捕手だった森村さん、俺から唯一ヒットを打った宮原さんなど、野手の主力は殆ど抜けている。
エースの日暮こそ残ったが、チームとしては少し弱くなったと見て間違いない。
さて、そんな大山台との一戦だが、俺は4番ライトとして臨む事になった。
尚、他のメンバー及び大山台のスタメンは下記の通りである。
【大山台】
左 ⑦風間(2年)
二 ④森本(2年)
中 ⑧神戸(1年)
三 ⑤上州(2年)
右 ⑨白鳥(2年)
投 ①日暮(2年)
一 ③大松(2年)
捕 ②鳥居(1年)
遊 ⑥高取(1年)
【富士谷】
中 ⑧野本(2年)
二 ④渡辺(2年)
遊 ⑥津上(1年)
右 ①柏原(2年)
投 ⑨堂上(2年)
一 ③鈴木(2年)
捕 ⑫駒崎(1年)
三 ⑭大川(1年)
左 ⑦中橋(1年)
相手の残留戦力は日暮を含めて計3人。俊足好打の風間と巨漢の上洲が残っている。
また、本大会にしては楽な相手という事で、お試しで大川が起用された。
試合は大山台の先攻で始まった。
先ずは堂上の立ち上がりから。140キロ台中盤の速球を軸に、緩急やナックルカーブを交えて圧巻の投球を披露する。
大山台の打者は手も足も出ず、初回を三者凡退で切り抜けた。
一方、大山台の日暮も簡単には道を譲らない。
最速138キロまで伸ばしたナチュラルシュートを軸に、走者を出しながらも粘りの投球を披露する。
初回を三者残塁で切り抜けると、3回まで何とか無失点で切り抜けてきた。
三塁すら踏ませない堂上と、3回8残塁と綱渡り状態の日暮。
もはや力の差は歴然だった。得点が入るのは時間の問題だろう。
そして迎えた4回裏、先頭打者の中橋がセンター前ヒットで出塁した。
続く野本は二遊間への深いゴロ。ここで遊撃手の高取は二塁に投げるも間に合わず。
渡辺も三ゴ失で出塁して無死満塁。大山台に「都立らしさ」が続いて絶好の好機を迎えた。
「じゃ、一発で決めてきます」
「おうよ。思い切ってこい」
ここで迎える打者は3番の津上。
大山台の内野陣が散ると、右打席でバットを構える。
「(押し出し怖いですし、無難に外から入りましょう)」
「(鳥居のリードは投げてて楽だなぁ。森村さんはこういう時も内角を攻めたがるから……)」
日暮は1つ目のサインに頷いて、セットポジションの構えに入った。
初球はどう攻めてくるだろうか。去年の森村さんなら果敢に内角を要求したと思うが、今年の後輩捕手は果たして……。
一球目、日暮が放った球は――恐らく外角の速い球。
津上は強引に引っ張ると、ふらっと上がった打球はレフト線に飛んでいった。
やや打ち損じたようにも見えた当たり。
しかし――打球はグングン伸びていくと、両翼91mのフェンスを僅かに越えていった。
「おおおおおおおおおお!」
「グラスラきたー!!」
「大山台もここまでか……」
他球場ならギリギリ入っていないであろう、津上のグランドスラムで4点先制。
マウンドの日暮はガックリと項垂れる。捕手の鳥居も唖然とレフトスタンドを見上げていた。
「ナイバッチ。何打った?」
「シュートっすね。少し中に入ってきたんで、遠慮なく頂きました」
やはりと言うべきか、投げたのは外のナチュラルシュートだったようだ。
外から中に入ってくるので、津上としては打ち易い球になったのだろう。
直球勝負なら内角を攻めたかった場面。外から攻めるにしてもスライダーが無難だった。
押し出しもボール先行も嫌った結果の選択だと思うが……あまりにも甘い判断だったな。
こうなってくると、試合は富士谷ペースである。
4回裏は更に1点を追加して計5点差。5回裏は無得点に終わるも、6回裏から登板した2番手投手を滅多打ちにした。
どうしても都立の2番手は力量が落ちる。実際、大山台の2番手・安原は常時120キロ台の平凡な右腕だった。
一方、大山台打線は6回表に連打が出て1点を返してきた。
しかし、時既に遅しと言うもの。安原に富士谷打線を抑えられる筈も無く、再び一挙5点の猛攻で計9点差。
再登板の日暮に11点目は阻止されたが、7回表は芳賀が0点に抑えて、10対1の7回コールドゲームが成立した。
「いやー、余裕だったなー」
「陽ちゃんは何もしてないっすけどね」
「ま、俺が出るまでもなかったからな!」
「大川も戸田も打ちましたけど、そろそろマジでレギュラーやばいと思いますよ」
「その話はヤメロ!!」
選手達は余裕を持ってベンチから撤収していった。
大山台に7回コールド勝ち。やはり新チームの仕上がりは良いように思える。
これは――都大三高にも引けを取らないのではないだろうか。
そう期待しながら、他球場で行われていた試合を確認してみた。
【市営立川球場】
佼呈学園000 00=0
都大三高657 5x=23
【佼】前野、森、小林、重藤、斎藤、大貫、柴田―北本
【三】宇治原、大金―木更津
やっぱ三高ってクソだわ。
その事実を再確認した所で、先ずは次の比野戦に照準を合わせるのだった。
大山台000 001 0=1
富士谷000 505 x=10
【大】日暮、安原、日暮―鳥居
【富】堂上、芳賀―駒崎、近藤