26.てーさつっ!(続)
風邪で死んでて投稿間隔空きました。
創唖高校に快勝した翌日、俺は早めに富士谷高校グラウンドを訪れていた。
今日の集合は11時30分。にも関わらず、10時という早い時間に到着している。
当然、俺以外の2年生は不在であり、グラウンドではサッカー部が練習していた。
「柏原さん、おはようございます!」
「おざーす!」
「おう、おはよう」
そんな中、中橋を筆頭とした1年生達が挨拶してきた。
下級生は集合が早い。別に強要している訳ではないけど、彼らは凄まじく早い時間に集まっている。
俺達の世代もそうだったが、野球部の「性」として刷り込まれているのだろう。
「柏原さん、おはっす」
「おはよう」
そんな事を考えていると、俺の横に津上が座ってきた。
邪魔だなあ、と思いつつも、無視して聞き耳を立てる。
「何してんスか?」
「今日の俺は木だから」
「はぁ?」
俺は適当な言葉を返すと、津上は引き攣った表情で此方を見てきた。
早めに来た理由は他でもない。1年生だけの空間を観察して、彼らが上手くやれているか確認する為である。
俺も主将である以上、選手の仲は把握しておきたい。
特に虐めは厳禁だ。それだけでチーム崩壊どころか、シンプルに出場停止になる可能性すらある。
という事で、今日は風景に溶け込んで、1年生の「素」を観察する事にしたのだ。
「ま、やりたい事は分かりましたよ。しゃーないっすね、俺が1年を代表して解説してあげましょう」
「そういうのいいから」
「けど俺が居ないと一人で淡々と脳内ツッコミする痛い奴になるじゃないっすか」
「うるせえ」
津上は一歩も引く気配の無い様子だった。
出来れば津上も観察したかったのだが……仕方がない。ここは解説役を受け入れよう。
という事で、俺達は早速、1年生の溜まり場に視線を向けてみた。
「はい、コレは誰でしょう!」
「ぜってー夏美さんだわ。命の半分くらい掛けてもいい」
「落ち着け中道! 少しはやらせろし!」
輪の中心には夏樹が立っている。
モノマネでも始まるのだろうか。
「……」
夏樹は何処か素っ気無い表情を浮かべた。
そして斜め上に視線を逸らしながら、さり気無く尻を鉄柱に擦り付け始める。
「だから夏美さんだろ!」
「惜しい! けど少し足りない!」
真っ先に答えたのは中道だった。
何処に夏美要素を感じたのかは不明だが、なにはともあれ違うようだ。
「わかった! 言わせて言わせて!」
「答えたまへ大川くん」
「食い込んだパンツを直そうとする夏美さん!」
「正解! さすが甲子園でスタメン取った男!」
「うっそだろ! 見たことねーわ!」
次に答えたのは大川。
どうやら正解のようで、辺りからはドッと笑いが起きていた。
何やってんだコイツら……。夏美に聞かれたら半殺しにされるぞ。
「これはスーパー夏美クイズっすね。答えは100%夏美さんっす」
「くっだらねぇ……」
「ま、こんな感じで内野の三バカが騒いでる事が多いっすよ」
津上が言うには、夏樹、中道、大川の元気が良いようだ。
そういえば、2年生で騒がしいのも京田と鈴木である。
内野手の方が良く喋る傾向とかあるのだろうか。
「じゃ、次は芳賀いっとけ!」
「え……俺?」
「やれ芳賀ァ! 滑るのを恐れるなぁ!」
「骨は上野原が拾うから安心しろ!」
ふと視線を戻すと、芳賀にキラーパスが渡っていた。
芳賀は物凄く困惑している。隣の上野原は我関せずの姿勢だ。
「芳賀と上野原は大人しめっすね。この二人に無茶振りして弄るのが恒例っす」
「程々にしておけよ」
逆に外野陣は大人しい訳か。
確かに、2年生だと堂上も野本も騒ぐ方ではないな。
尤も、大人しい感じかと言われたら、少し違うかもしれないが。
「中橋はどうなん」
「あのカスは良い子ぶって勉強してる事が多いっすね」
隅の方に座っている中橋は、イヤホンを付けて参考書を開いていた。
流石は優等生と言うべきか。テストだけでなく受験も見据えているようだ。
「ま、機嫌いい時は喋る方だと思いますよ。俺を差し置いて仕切りたがりますし」
「お前より人望ありそうだもんな……」
「俺の方が野球は上手いんですけどね、どいつもこいつも見る目がねーっすよ」
ちなみに余談だが、学年主将は中橋である。
津上は主将に向いてないという部分で、満場一致で中橋が選定された。
「他は?」
「松井、高松、梅津、藤島は別グループって感じっす。上野原も割とそっち寄りな部分ありますね」
「そいつらはBチームにいた時間が長いからな」
「そっすね。あと駒崎と戸田は『俺はコイツらガキ共とは違う』感を出しながら、ちょこちょこツッコミ入れてくる感じっす」
「あー……駒崎は想像できるわ。戸田は意外だったけど」
「戸田は相手を選ぶんですよ。俺とか先輩が居ると口数減るから存在感薄いですけど」
と、そんな感じで、次から次へと解説させてしまった。
なんというか……2年生よりも高校生らしさがあるな。
もっと俺達も弄り弄られした方が良いのだろうか。
「てかさ、お前はどうなん」
「え、何がですか」
「友達いねーの? いつも俺とか京田に絡んでんじゃん」
ふと、気になった事を問い掛けてみた。
ここまで色々と話を聞いてきたが、津上と仲が良い1年生は居ないのだろうか……と。
「雑魚と群れる必要はありませんからね」
「ガチでボッチなのかよ……」
「そういう柏原さんだって友達いないじゃないですか」
「はい瀬川恵」
「それズルくありません? じゃ、俺も金野亜莉栖でイーブンっす」
「彼女は友達にカウントされないからな」
「は?」
「ん?」
「え?」
「いや……付き合ってるよな……?」
「まさか。世界を経験した俺とブスじゃ釣り合ってないっすよ」
金野にも似たような反応されたなぁ。
というか俺は普通に友達いる。琴穂だって現段階では友達だし、選手達ともそれなりに喋っている。
あと周平と昴と……ほら、多くはないけど居るよ。断じてボッチではない。
「ま、天才ってのは何時だって嫉妬されて理解されないモノですからね。友達が居ないのはしゃーないっす」
「いや俺は居るからな。協調性皆無のお前と一緒にしないでくれ」
「あの哲人さん(木田)も友達いないから恥じる事じゃないっすよ」
「アイツと同じカテゴリーに入れるのやめろ」
そんな感じで、津上のボッチ認定は暫く続いた。
なにはともあれ、1年生の仲は問題なさそうだ。後は津上が輪に入れるかである。
今回はふざけた感じで濁したが、津上は全ての世界線で育成に失敗する問題児だ。
今のままでも来年までは持つと思うが、野球選手として大成させるなら、選手達との仲は改善させた方が良いだろう。
「お前らおはよう! 先輩の俺が来たぞ!!」
「おざーっす!」
「おはよう陽ちゃん」
「津上テメー敬語使えや!!」
「無理っす」
と、やたらと先輩風を吹かせた京田の登場で、今回の観察は終わりとなった。
オフシーズンに親交会でもやってみるか。京田や金野が上手くアシストしてくれるだろう。たぶん。