25.去年の反省を活かして……
創_唖100 00=1
富士谷401 10=6
【創】畑森、菊川―竹中
【富】柏原―駒崎
※前回の柏原が祈る方向を密かに変更しています。(恵はスタンドではなくベンチにいる為)
初回から大きく突き放すと、試合は富士谷ペースで進んでいった。
打線は駒崎のソロアーチなどで2点を追加。一方、俺は5回まで完璧な投球を披露して、その差を5点としていた。
「柏原、この回からレフトで」
「うっす」
瀬川監督の言葉を聞いて、外野手用のグラブを準備する。
6回からは中橋が登板予定。瀬川監督から見ても、相手の逆転は「無い」と踏んだのだろう。
やがて5回裏が無得点に終わると、俺はレフトへ駆け出した。
マウンドには背番号7の中橋。創唖打線が苦手としている軟投派左腕だ。
「お、投手変わった。堂上ですらないのかよ」
「此方としては願ってもない好機。これも小作先生のお陰……ありがとうございます」
中橋が投球練習を行う中、宮原と菊川はヒソヒソと言葉を交わしている。
恐らく、舐められてるだとか、運が良いと思われているのだろう。
しかし――。
「……アウト!」
宮原、セカンドフライ。
「ットライーク! バッターアウト!」
菊川、見逃し三振。
「アウト!」
「あぁ〜……」
「柏原降りたのに三凡かよ」
浪江、浅めのセンターフライ。
中軸があっさり三者凡退に打ち取られ、一塁側スタンドからは落胆の息が漏れていた。
「調子いいな。このまま最後まで頼むぜ」
「はい! 仰せのままに!」
ベンチに戻った際、中橋の背中を軽く叩いた。
この分なら思う存分に休めそうだ。彼の好投には感謝の意を捧げよう。
その後も、中橋は危なげない投球で、創唖打線を手玉に取っていった。
彼は最速こそ130キロに届かないが、左サイドから安定して120キロ台後半の速球を放つ事ができる。
制球力も高く変化球は多彩。そしてキレと緩急も備えているのだから、中途半端な打線にはピッタリの軟投派左腕と言えるだろう。
一方、打線はチマチマとだが着実に点を重ねていった。
6回裏、代打の戸田がタイムリー二塁打を放つと、8回裏には駒崎の犠牲フライが炸裂。
8回表に1点献上した為、コールドゲーム成立とはならなかったが、9回表は難なく3人で締めて試合終了となった。
「集合! 8対2で富士谷の勝利とする。ゲーム!」
「ありがとうございました!!」
最強世代の強豪相手に、あわやコールドの大差で勝利。
流石に手応えを感じるな。このチーム、全国でも上位を狙えるのではないだろうか。
しかし――都大三高を倒さないと、その舞台にすら立てないのが現実だ。
都大三高の新チームは凄まじく強い。東東京5強の二本学舎に19点差だなんて、控え目に言っても理解できないスコアである。
この大魔王を誰かが倒さない限り、東京の球児に光は当たらないのだろう。
※
やがてベンチから撤収すると、外でスタンド組と合流した。
「かっしーおつかれっ! はい、これどーぞっ」
そう言ってスポドリを捧げてきたのは琴穂である。
うん、俺の天使は今日も最高に可愛いな。そう思いながらスポドリを受け取る。
「あ〜、ヤバ! それ完全に忘れてた! かっしー、テイク2しよ〜よ!」
「しねえよ」
一方、何時もの仕事を取られた恵は、俺の体をユサユサと揺さぶってきた。
仕方がない。彼女はずっとベンチに居たので、飲み物を買うタイミングが無かったのだろう。
それはさておき、今日は5回しか投げていないので、中橋も労ってあげて欲しい所である。
そう思っていると、中橋には1年生マネージャーの金野が駆け寄っていた。
「中橋くん、お疲れ様」
「おっ、サンキュー金野!」
「おいブス、俺にも寄越せよ」
「アンタは投げてないでしょー」
「けど頑張ったし。はー、萎えるわ〜」
「そこは柏原先輩と掛けて『ハッシー』って呼んで欲しかったッスねぇ」
「真奈も黙って」
とまあ、そんな感じで、何人かに囲まれながらドリンクを渡していた。
この恵が始めた謎文化も継承されるようだ。ちなみに余談だが、このドリンク、後から部費で立て替えても良いらしい。
「柏原主将、幾つか質問よろしいでしょうか?」
「高校野球ドットジェーピーの者です。一打席目に祈った場面について、その心境をお聞きしたいのですが……」
「かっしーくん、お疲れ様です! 今日の試合について『瀬川』というワードを使って一言お願いします!」
と、何時の間にか記者に囲まれていたので、取り敢えず対応する事にした。
ちなみに瞳さんの問い掛けには「瀬川監督と挑む最後の都大会なので〜」と言っておいた。
今大会は毎回コレで問題ないだろう。たぶん。
創_唖100 000 010=2
富士谷401 101 01x=8
【創】畑森、菊川―竹中
【富】柏原、中橋―駒崎、近藤
NEXT→2月17日(木)
実は昨日くらいまで風邪をひいてました。
その間、全く執筆できておらず、ストックも使い切ってしまった為、もう少しだけ時間をください。
すいません……!