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23.信じる者は救われる

秋季東京都大会1回戦

10月8日(土) 昭島市民球場 第2試合

創唖高校―都立富士谷高校

スターティングメンバー


先攻 創唖高校

中 ⑧島崎(1年/右左/168/63/小平)

右 ⑨石坂(2年/左左/170/73/立川)

遊 ⑥宮原(2年/右左/181/78/会津)

左 ⑦菊川(2年/右右/174/80/日立)

一 ③浪江(2年/右右/171/81/諏訪)

三 ⑤河合(1年/右右/173/75/横浜)

捕 ②竹中(2年/右右/168/69/目黒)

投 ①畑森(2年/右右/185/80/柏)

二 ④谷野(2年/右左/160/62/所沢)


後攻 富士谷高校

中 ⑧野本(2年/右左/178/70/日野)

二 ④渡辺(2年/右右/174/68/武蔵野)

遊 ⑥津上(1年/右右/180/78/八王子)

投 ①柏原(2年/右右/180/76/府中)

右 ⑨堂上(2年/右右/180/80/新宿)

一 ③鈴木(2年/右右/179/75/武蔵野)

左 ⑦中橋(1年/左左/170/60/八王子)

捕 ⑫駒崎(1年/右右/179/74/小金井)

三 ⑤京田(2年/右右/165/59/八王子)

 秋晴れに照らされたマウンドで、俺は投球練習を行おうとしていた。

 ふと客席を見上げてみる。ファールゾーンが狭いからか、生徒達の顔がよく見える気がした。


 昭島市民球場の両翼は97m。中堅も121mあり、収容人数も約5000人とされている。

 何れも東京にしては良い数字。にも関わらず――球場全体がコンパクトに見えるのは、狭いファールゾーンと便所すらケチられた客席のせいだろう。


「創唖ブラバン来てるなー」

「応援もアレっすね」


 そう言葉を溢したのは、三遊間の京田と津上だった。

 本日は両校ブラバン有り。また、創唖スタンドの選手達は、色付きのメガホンで青黄赤の三色旗を表現している。

 この三色旗だが、創唖学会の象徴とも言われているらしい。


 さて……そんな光景に包まれながら、俺は淡々と投げ込んでいった。

 その間にベンチ入りも確認しておこう。本大会のメンバーは下記の通りである。


①柏原 ⑪梅津

②近藤 ⑫駒崎

③鈴木 ⑬中道

④渡辺 ⑭大川

⑤京田 ⑮戸田

⑥津上 ⑯卯月弟

⑦中橋 ⑰上野原

⑧野本 ⑱藤島

⑨堂上 ⑲松井

⑩芳賀 ⑳高松


 藤島はBチーム出身の右投手。

 ブロック予選では打たれていたが、本大会でも引き続き登録されるに至った。

 使わない控え野手よりも、投手の数を優先したのだろうか。


『1回表 創唖高校の攻撃は 1番 センター 島崎くん。背番号8』


 やがて投球練習を終えると、先頭打者の島崎が左打席に入った。

 応援曲は某鉄道999のテーマソング。よく見ると、白いソックスにも青黄赤の線が入っている。

 宗教絡みの強豪校は多いが、ここまで宗教色を出す高校は非常に珍しい。


「(フライは絶対ダメ。センターに返すぞ)」


 島崎は左打席でバットを構える。

 正史では彼の一打で中里が負傷交代した。今回は俺なので関係ないと思うが、警戒するに越した事はない。

 何せ歴史は変更を嫌う。配球はもとより、強襲打には十分に気をつけよう。


「(最初は定石通りでいいでしょう。外ストでお願いします)」


 初球、駒崎のサインは外角低めのストレート。

 俺はサインに頷くと、セットポジションから腕を振り抜いた。

 白球は構えた所に吸い込まれていく。そして次の瞬間――。


「(……打てる!)」


 島崎はバットを振り抜くと、捉えた当たりは俺の右足元に迫ってきた。

 咄嗟に右手が出そうになったが――その衝動をグッと抑える。

 流石に左手は間に合わない。打球はそのまま二遊間を抜けていった。


「わああああああああ!」

「ないばっち島崎!」

「石坂ー! 一発で決めろー!」


 一塁側から大歓声が湧き上がる。

 まさか本当に打たれるとは。今のは恵の記憶と自分の直感に感謝するしかない。


 続く打者は2番の石坂。ここは手堅く送ってきた。

 無理せず一塁に投げて一死二塁。得点圏のピンチを背負うと、ブラスバンドが奏でるサンライズが聞こえてきた。


『3番 ショート 宮原くん。背番号 6』


 ここで迎える打者は大型ショートの宮原。

 左打席でバットを構えると、応援曲がライディーンに切り替わった。

 サンライズからライディーン。創唖の伝統的なチャンステーマである。


「(初回からチャンスを頂けるとは。これも小作先生のお陰……ありがとうございます)」


 さて……この宮原は東京レベルの好選手だ。

 尤も、強豪の中軸なら自ずとそうなるのだが、警戒するに越した事はない。

 初球からスプリットを解禁しよう。幸い、もう球数は気にしなくて良い。


 初球、俺はセットポジションから腕を振り抜いた。

 白球は手元で鋭く落ちていく。宮原はバットを振り抜くが――。


「ットライーク!」


 バットは空を切ってストライクになった。

 やはりスプリットは打たれないな。球数制限が消えたのは非常に大きいと言える。


「ストライーク、ツー!」

「ファール!」


 二球目、ストレートに手が出ずストライク。

 三球目はボール球のストレート。何とか当ててファール。

 そして――。


「……ボール!!」


 四球目のスプリットは、バットを止めてボールになった。

 駒崎がスイング判定を求めるも覆らず。ハーフスイングにも見えたが、ここは宮原に軍配が上がった。


「(判定にやられたけど勝ち確っすね。次で決めましょう)」

「(判定に助けられたけど、これは打てる気がしない……)」


 素早くサインを出そうとする駒崎。

 一方、宮原は打席を外して、レフトのポール辺りを見上げている。


「(ああ、小作先生。私に力を貸してください……)」


 そして――唐突に祈りだしたのだから、俺は思わず顔を歪めてしまった。

 早くも教祖頼みかよ。レフト方向に信濃町の本部があるのだろうか。


「バッター急いで」

「……はい」


 主審に促されて、宮原はバットを構え直した。

 駒崎の要求は外角のスプリット。カウントには余裕があるので外す構えだ。


 五球目、俺はセットポジションから腕を振り抜く。

 その瞬間――白球は僅かに甘く入ると、宮原のバットが白球を捉えた。


「セカン!」


 鋭いゴロは二遊間、ややセカンド寄りに飛んでいる。

 渡辺ならギリギリで捕れそうな当たり。しかし――。


「(よし、捕れ……えぇっ!?)」


 打球は盛大にイレギュラーすると、渡辺は後ろに逸らしてしまった。

 島崎は迷わず三塁を蹴っている。野本はバックホームする……が、間に合いそうにないのでカットに入った。


「よっしゃあああああああ!」

「勝てるぞおおおおおおお!」

「創唖大勝利や!」


 島崎がホームを踏んだ瞬間、一塁側からは割れんばかりの大歓声が湧き上がった。

 まさかの先制点献上。思わぬ展開に、俺はつい呆気に取られてしまった。


「事故でしたね。3番の会心打がアレなら今日は楽っすよ」

「お、おう……」


 駒崎は一言だけ残してホームに戻っていった。

 別に毎試合完封できるとは思っていない。ただ、初回から神頼み……ならぬ教祖頼みの奴に打たれるとは思わなかった。


「ットライーク! バッターアウト!」


 結局、後続は連続三振で1点止まり。

 駒崎の言う通り、強豪にしては楽な打線のように思える。


 しかし、先制された事実は変わらない。

 この失敗は打つ方で取り返す。そう心に誓いながら、俺は1回表のマウンドを降りた。

創_唖1=1

富士谷=0

【創】畑森―竹中

【富】柏原―駒崎

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