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18.好奇心と良心の狭間で

祝!国学院久我山&二松学舎の選抜ダブル選出!

作中では脇役の2校ですが、選抜での活躍を願っています!


 ここは2年1組の教室。

 抽選会の結果も判明し、選手達は次々と帰路に着こうとしている。

 そんな中、私――卯月夏美は堂上を引き留めていた。


「なぁ堂上。この後ちょっと時間あるか?」

「ふむ……時間を作る事は可能だが、俺も暇ではない。柏原達の真似事をしたいだけなら他を当たってくれ」

「いや、真面目な話なんだ。正直、もう1ヵ月くらい1人で悩んでて……」


 堂上を引き留めた理由は他でもない。

 架空のスコアが書かれた恵のノートと、予知夢のような現象の件についてだ。


 あれから私は何度か同じ夢を見ている。

 全く同じ夢を何度も見るなんて……とてもじゃないけど偶然とは思えない。


 もう一つ。圭太(野本)に籤を引かせた事にも引っかかった。

 どうしても理由が釈然としない。あの夢では圭太がキャプテンだったから尚更だ。

 これも何か関係しているのでは――と、つい勘繰ってしまった。


「なるほど、様子を見るに深刻な話のようだな。いいだろう、少しだけ付き合うとしよう」

「……ありがとう。飲み食いした分は出すよ」


 さすが堂上。真面目な時は頼りになるな。

 物凄く変わった人だとは思うけど、こういう部分は彼の良い所だと思う。


 さて、場所はどうしようか。例の喫茶店だとブッキングするな。

 という事で、日野市にある親戚の店を訪れる事にした。





 場所は変わって日野市内にある喫茶店。

 大城華恋(比野台)の両親が経営していて、小さいながらも落ち着いた雰囲気の店だ。


「遂に夏美ちゃんにも彼氏か! いい男じゃないか〜」

「華恋にも見習ってほしいわぁ」

「違うって。ほら、堂上だよ。前に話しただろ」

「おお、表情が変わらないと噂の!」


 華恋の両親に茶化されながら、私達は隅にある席に座る。

 脱線している暇はない、早急に本題に入ろう。そう思ったのだが――。


「ふむ……もしかして、普段から俺の話ばかりしているのか?」

「そーなのよぉー。堂上くんのモノマネまで交えて……」

「してねぇよ!!」


 堂上も便乗してきたので、思わず素が出てしまった。

 いやまぁ、堂上の話題が多いのは確かだけど、そういう言われ方をすると語弊があるというか……なんか嫌だな。


「じゃ、本題に入るぞ。先ずはこれを見てくれ」


 やがて注文を済ませると、私は携帯に映し出された写真を見せた。

 例の恵のノートだ。あの後、私はもう一度だけ恵のノートを拝借して、富士谷のページだけ写真を撮った。


 次に夢の話。

 私は話が上手い方ではないけれど、出来る限り丁寧に内容を解説していく。

 10年後の世界で婚活に失敗した事、富士谷の野球部員がノートと同じになっていた事、そして――私は恵と仲違いしていて、恵は学生時代に命を落としていた事。

 長くはなったけど、必要だと思う情報は全て話していった。


「……という事なんだよ」

「ふむ……つまるところ、別の世界線が存在していて、恵はそこから来ていると?」


 全てを語り終えると、堂上は無表情のまま首を傾げていた。

 無理もない。我ながら意味不明な事を言っているのは分かっている。

 けど、あのノートといい例の夢といい、どうしても頭から離れなかった。


「いや、そんな非現実的な事があるとは思えないけどさ。少なくとも恵は何か隠していると思うんだよ」


 そうは言ったものの、私は「ある」と思っている。

 だからこそ、私は堂上に打ち明けて味方を作りにいった。

 しかし――。


「なるほど。そういう事ならこの話は終わりだな」


 話を理解されないどころか、話題そのものを終了されてしまった。

 どうか待って欲しい。意味不明な事を言っているのは分かっているけど、もう少し掘り下げてくれてもいいだろう……!


「なんでだよ。いや気持ちはわかるけども」

「理由は三つある。一つは、あまりにも非現実的すぎて、考えるに値しない内容だからだ」

「デスヨネ」


 堂上の言葉に、私は思わず肯定してしまった。

 うん、やっぱ理解されないよな。少なくとも立場が逆だったら絶対に信じない。


「二つ目。ノートは恵が書いた物だと分かるが、夢の方は物的証拠が無い。極端な話、大袈裟に話を盛る事も、ゼロから話を作る事もできる訳だ」

「んな事しねぇって」

「夏美は非日常が好きだからな。俺を下らない妄想に巻き込もうとしている、という見方もできる」

「まてまてまて! 私ってそんなバカそうに見えるか!?」

「今はな」

「ウィッス」


 くそ、内容が内容だけに強くは言い返せない。

 そんな事を思いながら、三つ目の理由に耳を傾ける。 

 

「そして三つ目だが……誰にでも知られたくない秘密はある。恵が隠そうとしているのならば、野暮な詮索をすべきではないだろう。少なくとも俺はそう考えている」


 堂上はそう言い放つと、私は少しだけ言葉に詰まってしまった。


「……まぁそうだけどよ」

「好奇心旺盛なのは結構だが、相手の視点に立つ事も忘れない方が良い。夢と同じように関係が破綻するぞ」

「うっ……」


 御尤もすぎる言葉に、私は再び言葉を詰まらせる。

 この件で恵と仲違いしたら本末転倒だ。堂上の言う通り、穏便に済ますなら忘れるべきなのかもしれない。


 ただ、夢は何度も繰り返し再現されている。

 だからこそ――好奇心を満たすよりも、不安や不信感を取り払うために真実が知りたい。

 結局、自分の為ではあるけれど、このまま引き下がる訳にはいかなかった。


 ……と、そんな事を思いながら沈黙していると、堂上は無表情のまま顎に手を当てた。


「ふむ……夏美の気持ちも十分に伝わった。俺にも信条がある以上、行動として加担する事は出来ないが――幾つか知恵を貸すとしよう」

選抜といえばもう一つ、静岡県民は怒っていいと思いました。

境遇で抜ける高校が優先されるのはよくある事ですが、今年は数十年に一度クラスの珍選考だと思います。

1年早かったら作中のネタにしていたかもしれない……。

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