13.俺達の本命は彼女達じゃない
合コンが始まってから暫くの時が過ぎた。
時折マイクを握りながらも、両隣の二人と言葉を交わす。
基本的にはその繰り返しだ。何か面白い事がある訳でもない。
「直線はアクセル踏みっぱよりも、左右にドリフトした方が速いんだよな」
「そうそう! みんな知らないから勝負にならないんだよねー」
騒がしく薄暗い一室で、伊織とそんな言葉を交わしていく。
やはりゲームの話題は食い付きが良い。一度は結婚している仲なので、共感を得るのは容易だった。
つい「琴穂で同じ事が出来たらなぁ」と思わされてしまう。
「かっしーくん次なに聴きたい? これとか?」
「特にないかな。好きなの歌いなよ」
一方、木更津(瑠)はやたらと好きな曲を聞いてくる。
俺は無難な反応を返すのだが――。
「あ、絶対これ好きな奴でしょ! いおりん歌える~?」
「聞いた事はあるけど……」
内心で反応した曲を絶妙に当てては、伊織に歌わせようとしてくる。
ちなみに今のは波乗りかき氷。先週、琴穂が歌っていた曲らしいので、つい意識が向いてしまった。
「……ふむ、なるほど」
「どのーえくんどうしたのー?」
「いや、何でもない。量子力学の話を続けてくれ」
「そんな話1ミリもしてないよ!?」
「どのーえくんウケる~」
ちなみにモブの周りは堂上ペース。案の定、京田は借りてきた猫みたいになっている。
まぁ仕方がない。京田には富士谷ギャルの方が合っているのだろう。
「温まってきたね~。それじゃあ始めるぜー、第一印象ゲェエエエム!!」
ふと、そう叫んだのは鈴木だった。
シラフでそのノリが出来るのは流石と言うべきか。素直に感心してしまう。
「えー、なになに?」
「知らな―い」
女性陣は困惑した表情を見せていた。
無理もない。この場にいるのは全員高校生、合コンの王道ゲームなど知る筈もないだろう。
第一印象ゲームとは何か。
一部ローカルルールもあるらしいが、俺の知っているやり方で説明しよう。
先ず、一人が適当な印象を指定する。例えば「頭が良さそうな人」といった具合だ。
次に、男性陣は女性の中から、女性陣は男性の中から、印象に該当する人間を一人指名する。
最後に、この投票で最多票を獲得した男女は、罰ゲームとして一気飲みをする。
これが俺の知っている第一印象ゲームだが……当然ながら酒を飲む訳にはいかない。
かといって、コーラで一気飲みでは盛り上がりに欠けるだろう。
そこで――。
「BGはこいつを飲んでもらうぜ~!」
鈴木はオレンジジュースの入ったジョッキに、口が二つ付いたストロー……カップルストローを刺し入れた。
代替案として二人でコレを飲んでもらう。ちなみに、このストローはアベックストローとも言うらしい。
「じゃあ俺から! この中でセックスが一番好きそうな人!!」
「いきなりフルスロットで行くのやめろ」
先陣を切ったのは安定の鈴木だった。
ノリが完全にギャルのレートなんだよな。進学校相手なのを考えろよ、と言いたくなってしまう。
「(えー……)」
「(そりゃもう……)」
そして――当然ながら、男性陣は木更津、女性陣は鈴木を指差した。
うん、絶対そうなるよな。問答無用で金髪の人である。
「え~酷くない? あたしめっちゃガード固いのにぃ」
「じゃールミちゃんは俺と飲んでもらうぜ~」
「マジでやるのー? うーん、しょうがないなぁ」
二人はそんな感じでストローに口を付けていた。
さて……二人の罰ゲームは置いといて、ここは少し考えなくてはいけない。
伊織との距離を縮めるには、二人同時に最多票を獲得する必要がある。
しかし、こればかりは正史の記憶が使えない。あくまで皆から見た「印象」を揃える必要があるからだ。
「じゃー次あたし! えーっとね~……」
悩んでいる俺を他所に、木更津は一人一人の顔をマジマジと見渡した。
そしてハッとした表情を浮かべると――。
「ツッコミキャラっぽい人!!」
そう宣言して俺を指差した。
他の女性陣も釣られるように俺を差す。一方、男性陣は伊織の事を指差していた。
「また満場一致じゃんー」
「うぇーい! さー飲もうぜー」
結果的に考える手間が省けたな。これは運が良かったというべきか。
「……すまない。少し厠に行ってくる」
ふと、堂上はそう言って席を立った。
俺に視線を送ると、わざとらしくコップを置き直してから部屋を出る。
……トイレで集合のサインだ。何かあったのだろうか。
「さー飲ーんで飲んで飲んで!」
「コールうぜぇ」
「えぇ……嫌だ……」
と、その前に罰ゲームである。伊織と至近距離になるのは久々だな。
そんな事を思いながらストローに口を付ける……が、伊織は飲むフリだけで全く吸い上げていなかった。
うん、やっぱ彼女とは分かり合えないな。結局、俺一人で全部飲み干した。
※
罰ゲームを終えると、俺は堂上が待つ男子便所へと足を運んだ。
「どうした?」
「単刀直入に言おう。席を代わってほしい次第だ」
どうやら堂上は席替えをしたいらしい。
周りの女子の不満があるのだろうか。
「というと?」
「個人的に木更津が気になっていてな。それに柏谷狙いなら俺の席でも問題ないだろう」
堂上は無表情で言い放ってきた。
今の配置は鈴木、木更津、俺、伊織、堂上、以下略だ。
堂上との交換なら支障もない。それはそうなんだが……。
「別に本気で狙ってる訳じゃねーけど……」
ふと、そんな言葉が漏れてしまった。
伊織の攻略はあくまで作戦である。本気で恋している訳ではない。
琴穂という好きな人がいる以上、そこは誤解して欲しくない部分だった。
「そんな事は分かっている。何か事情があるのだろう?」
「……まぁな」
「野暮な詮索はしないから安心しろ。しかし――」
少し困惑気味の俺に、堂上は相変わらず無表情で言葉を続ける。
そして――。
「俺達には想うべき人がいる。寄り道は程々にな」
そんな言葉を続けたのだから、俺は思わずニヤけてしまった。
「今"達"って言ったよな?? やっぱり夏美の事をお想いで??」
「そういう事ではない、マネージャー全員に言える事だ。彼女達の代わりに戦うと誓った仲だろう」
「はいはいそーですね」
畜生、相変わらず無表情だから、ボロが出たのか本心なのか分からないな。
しかし、彼の言う通りだ。あまり悠長にしている暇はない。
戻ったら早急にマンツーマンに持ち込んで、伊織との決着を着けに行こう。
急で申し訳ないのですが、約1週間ほど休載期間を頂きます。
尚、理由は100%私事なのでココでは割愛。一応、活動報告の方に記載しておきます。