表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

315/699

2.変わる東京

 2011年8月20日。

 選手権の全日程が終了し、全ての高校が新チームに突入した。

 尚、準々決勝以降の結果は下記の通りである。


【準々決勝】

(福島)聖輝学院2―4桐輝学園(神奈川)

(群馬)前橋英徳5―1関越一高(東東京)

(大阪)大阪王蔭9―7明秀義塾(高知)

(青森)亘星学院6―5西海大姫路(兵庫)


【準決勝】

(神奈川)桐輝学園0―4前橋英徳(群馬)

(大阪)大阪王蔭3―1亘星学院(青森)


【決勝】

(群馬)前橋英徳2―1大阪王蔭(大阪)


 結局、燃え尽きた関越一高は準々決勝で敗退。

 瀬川徹平を擁する聖輝学院も敗退し、最終的には正史通り前橋英徳が優勝した。


 やはり甲子園優勝の壁は厚い。

 名門に転生者を1人加えた程度では、簡単に覆せない偉業なのだと痛感させられる。

 


 一方、甲子園決勝の裏側では、東京の転生者一同が都大二高Gに集まっていた。


「よーお竜也! こうやって話すのマジ久しぶりだなぁ!」

「さんざん引っ張ったのに軽すぎねぇ??」


 軽いノリで絡んできたのは松岡周平である。

 敗退後、とりあえず電話してみたら秒でアポが取れた。

 今までの駆け引きは何だったのだろうか……。


「さて、みんな集まったし要件を話していくよ」


 相沢が語り出すと、俺達は耳を傾けた。

 今日の集会は他でもない。相沢から色々と話があるので、それを聞いて欲しいとの事だった。


「先ず一つ目。これは確認済みの人もいるかもだけど、秋以降の東京のスケジュールが変わったよ」

「そうなん? なんか変わったっけ?」

「使用球場が変わったんだよ。渋川とかから聞いてないのか」

「あと東西再編もね〜」


 俺達は言葉を交わしていく……が、一つずつ説明していこう。

 今秋から東京の高校野球が少し変わる。その内の一つが、使用球場の一部変更だ。


 今秋からは準決勝から神宮球場が使用される。

 今までは神宮第二球場だったので、良い環境でプレーできるだけでなく、沢山の集客を見込めるようになった。


 この神宮球場の使用は、正史通りなら2012年に決勝のみ採用され、2013年から準決勝にも適用される。

 つまるところ、決勝は1年、準決勝は2年も前倒しにされたのだ。


 恐らく、これは富士谷の仕業だろう。

 都立が高確率で勝ち上がるとなれば、都立贔屓のミーハー達を収めるだけの球場が必要になる。

 集客を確保するという意味で、神宮球場の使用は前倒しにされたのだ。


 ここで一つ注意したいのは、神宮球場の使用に伴い、秋季大会の日程は後ろ倒しになる事だ。

 神宮球場は大学野球優先の場所。大学野球の秋季リーグが終了してからではないと高校野球では使えない。

 その分、寒い中で試合を行う事になるし、神宮大会とのスパンも短くなってしまうのだ。



 もう一つ、来年の夏から西東京と東東京の境界線が再考される。

 これは本来なら2013年の夏に行われる再編。どのような経緯かは見当も付かないが、1年前倒しで東西再編が行われる事になった。


 尚、これで富士谷と都大三高が分かれて両方甲子園に出る……なんて、都合の良い展開は待っていない。

 八王子市と町田市はどう足掻いても西東京。そして強引に南北で分けたとしても、どちらも南東京になるので分かれようがないのだ。


 ちなみに、この再編では世田谷区が西東京、中野区が東東京に変更される。

 世田谷区の主な強豪は国修館と駒川大高。何れも公式戦で対戦経験のある高校だ。

 一方、中野区だと東栄学園や越堀、それから明神大仲野(1年春に練習試合した明神大仲野八玉の姉妹校)あたりが強豪になるが、此方は何れも接触のない高校だった。


「正直、再編はウチらにとってあんまり関係ないよね~」

「そうだね。結局のところ都大三高に勝たなきゃいけないし、他が入れ替わった所でね」


 と、ここまで長々と説明したが、何れも大した影響はないと思っている。

 強いて言うなら、駒川大高には一応敗戦しているので、リベンジし易くなったという事くらいか。


「で、その都大三高の対策だけど……特注のバッティングマシンを用意したから皆に寄付するね」

「でたな相沢マネー……。ちなみに特注って主にどんな部分が?」

「時速200キロまで出せる他、発射口の高さが宇治原くんのリリースポイントと同じ高さになってるよ」

「本気出し過ぎだろ……」


 相沢はサラリと言い放った。 

 流石、宝くじを意図的に当てられる男。都大三高対策には金を惜しまないな。  

 

「え、それ俺らも貰っていいのか?」

「うん。秋季大会で当たるかもだし、夏もこっちが総倒れになったら松岡くんに託すしかないからね」

「かー! 太っ腹だねぇ。埼玉県人って金持ってんのか~」

「コイツは数字選ぶタイプの宝くじなら当てられんだよ。何回も人生やり直してるからな」

「まじ? それ俺らも出来るん??」

「んー……話すと長くなるから、あとで紙にまとめて渡すわ」


 そんな感じで、その後も都大三高対策や、合同練習の予定などを打ち合わせていった。

 勿論、敵は都大三高だけではない。今年の東京は近年稀に見る当たり年。多くの高校がタレントを揃えている。

 そして目の前の都大二高や関越一高も、当然ながら敵の内の一校なのだ。


「……そーいやさ。今回も棚ちゃんと上手くやれてんの?」


 打ち合わせ終了後、つかぬ事を周平に尋ねてみた。

 正史通りなら、周平は関越一高のマネージャー――棚橋唯と結婚まで至る。

 夫婦仲も俺が死ぬ迄は良好だったので、今回はどうするのか気になる部分だった。


「あー……そう、その話しようと思ってたんよ」


 周平は少し困惑気味に言葉を返した。


「もしかして、俺の死後に離婚したとか?」

「いや全然! 唯は良くも悪くも依存してくれるからな~。死ぬまでラブラブだったぜ」


 首を傾げる俺に、周平は軽いノリで言葉を返してきた。  

 最後まで仲が良かったなら、ここは難色を示す場面ではないと思うが――。


「それが正史? 通り渋にゃんが別れた後を狙って告白したんだけどさ。なんと返ってきた返事がNOだったんだよ」

「意外な所でバタフライエフェクトが起きた訳か……」

「そーそー! んで、どうやら竜也の事が諦められないらしいんよ」

「……はぁ?」


 意外な答えに、俺は思わず眉毛を曲げてしまった。

 確かに……正史では一週間だけ棚橋と付き合ったが、今回は交際まで至っていない。

 この僅かな交際期間の差が、棚橋に未練を与えているという事なのだろうか。


「だから頼む竜也! 本来通り一週間だけ付き合うか、せめて1回だけでもデートしてやってくんねぇ?」


 周平はそう言って手を合わせてきた。

 いくらなんでも急展開すぎる。一応、秋季大会のブロック予選も迫っているというのに……。


「行ってあげれば~? ブロック予選はのもっち(野本)が籤引けば100%勝てるんだし、本大会までは時間あるしね~」


 そう言って口を挟んできたのは恵だった。

 ちなみに、正史の富士谷はブロック予選を突破している。

 つまり野本が籤を引けば、その程度の相手としか当たらないのだ。


「……交際は厳しいな。短期間とはいえリスクになる」

「デート一発勝負ならOKって事だな!?」

「まぁサイン盗みの借りもあるしな。仕方ねぇ」

「さす竜! 頼んだぜ!」

「あ、デートプラン考えたい! 今度一緒に作戦会議しよ!」


 そんな感じで、本人不在のまま棚橋とのデートが企画された。

 どうか琴穂にはバレないで欲しい。今はそう願うばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ