30.新球種と絶望の下位打線
富士谷000 003 1=4
東山菅300 030 =6
(富)堂上、柏原―近藤
(東)大崎、板垣、大崎―仙波
7回裏、東山大菅尾の攻撃。
先頭の奥原さんはセンターフライに打ち取るも、続く林さんには死球を与えてしまった。
サイドスローという投げ方は、横方向に腕を振り抜いているので、抜けた球が利き腕側に逸れやすい。
右腕なら右打者、左腕なら左打者。本来なら投手優位の対決でも、死球という一点に関しては打者に軍配があがる。
まあ、これは横投げに限った話ではないのだけれど、必ずしも投げ易い=投手優位、投げ辛い=打者優位ではないのだ。
3番打者は堀江さん。
左の好打者に対して、初球からスプリットを使うも見送られた。
この選手は巧打力もさる事ながら、選球眼も非常に良い。
二球目も見送られると、痺れを切らして放ったバックドアのスライダーは、レフト前に流されてしまった。
『4番 サード 小野田くん。背番号 5』
さて、一死一二塁で小野田さんだ。
ここまでは犠牲フライと三振が二つ。俺との対決に限れば三振が二つだけ。
内角攻め対策なのか、ベースから少しだけ離れている。
また外の球で仕留めてもいいが……踏み込まれる可能性もあるな。
ちょうど併殺が欲しい所だったし、少し試してみるか。
初球、近藤は内角低めのストレートを要求してきたので、俺は2回首肯いた。
これは新球種を解禁するサイン。終盤、明確な弱点がある小野田さんで使うと決めていた。
「(散々舐めやがって……初球からぶっ叩いてやる!)」
小野田さんは大袈裟にテイクバックを取る。
俺は縫い目に沿って二本の指を掛けると、肘と同じ高さから、スッと腕を振り抜いた。
「(よし、内のストレート――じゃない!?)」
白球は打者側に少し沈むと、小野田さんは窮屈そうにバットを振り抜いた。
鈍い音と共に放たれた打球は、サード京田の真正面に転がる。
京田は自分で三塁を踏んでから、流れるように一塁に放って併殺完成。これでスリーアウト、チェンジとなった。
「使えそうだな、ツーシーム」
「ああ。スプリットと混ぜていこう」
俺と近藤はそんな言葉を交わした。
新球種はツーシーム。言うまでもなく、孝太さんから教えてもらった。
あの人ほどは曲がらないけど、肘への負荷も少ないし、打ち損じを狙うには丁度いい。
「(チッ……つっかえねークソデブだな……)」
ネクストの山本さんが、やたらと怖い顔でベンチに戻っていった。
実質菅尾最強打者も、走者さえ居なければ大して怖くはない。
残念だったな。次の打席は四球前提、かつスプリット連投で三振して頂こう。
2点差のまま迎えた8回表、富士谷の攻撃。
先頭の鈴木が三遊間への内野安打で出塁すると、堂上もレフト前で続いた。
無死一二塁、本日最大のチャンスだ。1点なんてケチ臭い事は言わず、この回で同点に追い付きたい所だが――。
「ットライーク! バッターアウト!」
7番近藤、バントファールを2球続けた末に空振り三振。
「ットライーク! バッターアウト!」
8番阿藤さん、見逃し三振。そして――。
「「あぁ~……」」
9番京田、弱々しい当たりはセカンドフライ。
一塁側スタンド、ほぼ満員の応援席からは、大きなため息が漏れた。
阿藤さんはさっき打ったし、京田と近藤は守備がいいので文句は言い辛いが、あまりにも無力すぎるだろ……。
8回裏は、頭に血が昇った山本さんを空振り三振、仙波さんはセカンドゴロに打ち取ると、大崎さんは打つ気を見せずに見逃し三振。
結局、8回は共に無得点となり、4対6のまま最終回を迎える事となった。
富士谷000 003 10=4
東山菅300 030 00=6
(富)堂上、柏原―近藤
(東)大崎、板垣、大崎―仙波