21.東京対決
全国高等学校野球選手権 3回戦
2011年8月15日(火) 阪神甲子園球場 第4試合
関越第一高校(東東京)―都立富士谷高校(西東京)
スターティングメンバー
先攻 富士谷
中 ⑧野本(2年/右左/178/70/日野)
二 ⑥渡辺(2年/右右/174/68/武蔵野)
遊 ⑮津上(1年/右右/180/78/八王子)
投 ①柏原(2年/右右/180/76/府中)
右 ⑨堂上(2年/右右/180/80/新宿)
一 ③鈴木(2年/右右/179/75/武蔵野)
左 ⑪中橋(1年/左左/170/60/八王子)
捕 ⑫駒崎(1年/右右/179/74/小金井)
三 ⑭大川(1年/右右/167/70/八王子)
後攻 関越一高
中 ⑧森久保(3年/右左/173/64/江戸川)
二 ④平岡(3年/右左/171/73/枚方)
右 ⑨大越(2年/右右/180/79/府中)
一 ③松岡(2年/右右/183/88/韮崎)
捕 ②土村(2年/右左/180/76/府中)
左 ⑦竹井(3年/右右/183/93/墨田)
三 ⑤秋葉(3年/右右/175/75/柏)
遊 ⑯渋川(2年/右右/177/72/水上)
投 ①仲村(2年/右右/188/78/春日部)
銀傘の影が伸びてきた甲子園。
第4試合特有の日陰に覆われる中、両校の選手は向かい合っていた。
「えー……これより、関越第一高校と都立富士谷高校の試合を開始する。礼!!」
「おっしゃぁす!」
午後16時40分。予定よりだいぶ遅れて試合開始が告げられた。
白と紫のユニフォーム――関越一高の選手達が守備に散っていく。
一方、富士谷の選手達は三塁側のベンチに戻った。
「身長たけー。菅尾の板垣さんと同じくらいか?」
「数字上はそうですね。タイプは全く違いますけど。上から振り下ろすんで、仲村さんの方が角度と回転はありますよ」
マウンドでは、関越一高のエース・仲村が球を放っている。
188㎝の長身から繰り出されるストレート。決して140キロを超える訳ではないが、糸を引くような軌道でミットに吸い込まれていた。
『1回表、都立 富士谷高校の攻撃は、1番 センター 野本くん。背番号8』
1回表、富士谷の攻撃は野本から。
吹奏楽部が奏でるスマイリーの音色と共に、左打席でバットを構えた。
「(待球気味でいいんだっけ。ナイターになりそうだし、去年の菅尾戦を思い出すなぁ)」
さて、今日の作戦は後半勝負だ。
野本に小技は期待していないが、序盤は出来るだけ球数を稼ぎたい。
一球目、仲村は高めの速球を振り下ろした。
見逃せばボールになるストレート。しかし、野本はフルスイングすると、白球は土村のミットに収まった。
「ストラ―イク!! ツー!」
「(うーん……甘いと思ったんだけどなぁ。思ってた以上に高くくるね)」
空振りでストライク。野本は首を傾げている。
恐らく、甘い球だと思ったのだろうけど、その読みはあまりにも浅い。
二球目、高めのストレートは見送ってボール。
三球目、低めのストレート。これは見逃してストライク。
何も抵抗できないまま、簡単に追い込まれてしまった。
「(変化球来ないなぁ。次は枠内に来たら振らないとだけど……)」
そして迎えた四球目、仲村は糸を引くようなストレートを放った。
やや真ん中に入った甘い球。野本はバットを振り切るが――。
「ストラーイク! バッターアウツッ!」
振り遅れて空振り三振。
ふとバックスクリーンを見上げると、球速は136km/hと表示されていた。
「思ったより速く感じるね……。掠りもしなかったよ」
「もっと上から叩くイメージだな。とにかく序盤はたくさん見て軌道に慣れよう」
ベンチに戻ってきた野本と言葉を交わす。
仲村のストレートは非常に回転数が高く、常人のストレートより遥かに伸びる。
事実、東東京大会では、打者達が悉くボールの下を振っていた。
「ああ~……」
「上げんなー!」
続く渡辺は5球目を打ち上げてしまった。
高々と上がったセカンドフライ。これもボールの下を打っている。
そして――。
「アウト!」
「ナイピッチ勝彦!」
津上も4球目を打ち上げて、センターフライでチェンジになった。
1回表に投じた球数は13球。驚く事に、その全てがストレートだった。
よほど自信があるに違いない。そして、彼の引き出しはコレしかない。
控え投手のレベルは低いので、ストレートさえ攻略すれば此方のペースに持ち込めるだろう。
「柏原さん、いきましょう」
「おうよ」
駒崎に名前を呼ばれて、俺はマウンドに向かった。
後は俺の投球次第。点を与えなければ負ける事は無いし、最少失点で抑えれば後半の集中打で捲れる。
その為にも、周平の前に走者を出さない、後続の土村を封じ込むというのは徹底したい。
「ふぅ……」
俺はマウンドに上がると、息を吐いてから投球練習を開始した。
正史では一度も立てなかった、夏の甲子園のマウンド。
そんな憧れの舞台に立って、本来なら在籍していた関越一高と対峙する。
何だか不思議な感じだ。もう未練は無い筈なのに、少しだけ寂しさを感じてしまう。
『1回裏 関越第一高校の攻撃は、1番 センター 森久保くん。背番号8』
アナウンスが森久保さんの名前を告げると、一塁側の応援席から紅の音色が聞こえてきた。
さて、始めよう。そして楽しもう。前回の対決では叶わなかった、古巣の打線との対決を。
富士谷0=0
関越一=0
【富】柏原―駒崎
【関】仲村―土村