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15.いつかは打てる

富士谷000 000=0

新潟明000 000=0

【富】柏原―近藤

【新】新村―柏崎

 新潟明誠との2回戦は、0対0のまま7回表を迎えていた。

 無死一二塁、打者は津上。本日何度目かも分からない絶好の好機である。

 今度こそモノにしたい。そう思ったのだが――。


「わああああああああああ!」

「ないすぅ!!」

「惜しかった……」


 津上の放った打球は、ショート真正面のライナーになってしまった。

 二塁走者の野本も帰塁できず、ライナーゲッツーが成立。

 絶好の好機から一転、ワンヒットでは得点できない場面に変わった。


「……アウトッ!」

「ああ〜……」

「また残塁かー」


 結局、俺はフルカウントから四球を選ぶも、堂上はセンターフライでチェンジとなった。

 まさかの7回11残塁。控え目に言ってもクソみたいな残塁数である。


「(踏ん張ってる新村を援護してやりたいけど……くそっ!!)」

「ットライーク! バッターアウト!!」


 一方、俺は依然としてパーフェクトピッチング。

 7回無安打無死四球15奪三振と、圧巻の投球を披露していた。


 残塁の山を築く富士谷と、手も足も出ない新潟明誠。

 お互いに流れが悪く、どうしても試合の主導権を握れない。

 最初の1点で全てが決まる。そんな予感すら感じられた。


 8回表、一死から中橋が出塁するも、後続の代打陣(駒崎、中道)が打ち取られて無得点となった。

 8回裏は三者凡退。3巡目の中軸を難なく抑え込んだ。


『9回表 都立富士谷高校の攻撃は、1番 センター 野本くん。背番号 8』


 9回表、富士谷の攻撃は野本から。

 ブラスバンドが奏でるスマイリーと共に、左打席でバットを構える。


「(もう150球くらい投げてるからね。新村くんもそろそろ限界の筈……!)」


 球数が嵩んでる新村に対して、野本は待ちの姿勢に入った。

 フルカウントからの7球目。最後はナックルボールを見逃すが――。


「ットライーク! バッターアウッ!」

「(うわっ、それ入ってくるの……)」


 審判の右腕が上がって見逃し三振。

 続く渡辺もピッチャーライナーで打ち取られ、走者すら出せず二死になってしまった。


「(今日は俺がブレーキになんだよなー。はー、紛う事なき戦犯クソ野郎だわ)」


 二死無塁、ここで迎える打者は津上勇人である。

 今日は4打数0安打。控え目に言っても当たっていない。


「(……さ、そろそろホームラン打たないと。1年目の甲子園は、柏原さんも哲人さん(木田)も経験してないし、クソほど目立つチャンスだからな)」


 紅の音色が響く中、津上はバットを長めに握った。

 相変わらずの長打狙い。新潟明誠の外野陣はフェンス手前まで下がっている。


「(遅い球って実は飛ばないんだけどなぁ。まあいいや、コイツで切ってサヨナラすんべ)」


 一球目、新村はワインドアップから腕を振り下ろした。

 放たれた球は――山なりのナックルボール。津上はギリギリまで引き付けると、フルスイングで白球を捉えた。


「(これは行ったろ……!)」

「(届かないなぁ。三国なら捕れんべ)」

 

 レフト方向への大きな当たり。

 津上は鮮やかにバットを投げ捨て、新村は余裕綽々と打球の行方を見上げている。

 やがて三国さん(レフト)は右手をフェンスに着くと、左手のグラブを顔の前に構えた。

 果たして、白球の行方は――。


「入ったああああああああああ!」

「うわあああああああああああ!」

「きたあああああああああああ!」


 白球はギリギリでレフトスタンドに飛び込んだ。

 U―15日本代表、野球エリートの津上による土壇場での先制ソロホームラン。

 実力のある人間だからこそ、振り切ってれば何れは打てるのだ。


「ナイバッチ。最高の一本だったな」

「やっと打てましたよ。ま、ランナーいないしギリギリなんで50点って所ですかね」

「自己採点厳しめか」


 そんな言葉を交わしてから、津上と右手を交わした。

 この1点は非常に大きい。相手は未だ0出塁なので、同点すらも果てしなく遠いだろう。





「うわあああああ! 記録があああああ!」

「あぁ……パーフェクトならず……」

「新潟の夏はまだ終わらない!」


 ……と、過信していたのも束の間、先頭の新村にライト前ヒットを浴びてしまった。

 完全試合が途切れて無死一塁。そして、この走者が帰ったら延長コースである。


「(こっちが裏だし先ずは同点に……あっ)」


 続く柏崎さんは送りバント……だったが、打ち上げてピッチャーフライになった。

 これで一死一塁。走者こそ出したものの、点を取られる気配は全くない。

 しかし――ここで新潟明誠は、一か八かの大博打に出てきた。


『新潟明誠高校 選手の交代をお知らせ致します。9番 三国くんに代わりまして、ピンチヒッター 土門くん。背番号17』


 一塁走者が帰れば同点、ホームランが出れば逆転サヨナラの場面。

 代打で登場したのは、186cm98kgの巨漢・土門だった。

 新潟県大会では8打数1安打(打率.125)。一応、3割は打っている三国さんより遥かに低い。


 連打が出そうにないからホームランに賭ける、という事なのだろうか。

 ここは慎重に入ってみよう。実際、出合い頭のホームランは怖い。


「(そんな警戒する必要あります? こいつ絶対扇風機っすよ)」


 一球目、球数を余しているスプリットから。

 低めに外れるよう狙って投げると、土門は豪快にバットを振り切った。


「ットライーク!」


 バットは空を切ってストライク。

 正直、バットとボールが30cmくらい離れていた。

 当たれば飛ぶんだろうけど、全国クラスの投手を打てるレベルではない。


「ットライーク! ツー!」


 二球目、逃げる高速スライダー。これも空振りしてストライク。

 三球目は高めの釣り球。流石に見送られてボールになった。


「(フルカンまで変化で行きましょう。間違っても当たる事ないですよ)」


 四球目、駒崎の要求は低めのサークルチェンジ。

 俺は構えた所に投げ込むと、土門はフルスイングを披露してきた。

 白球の行方は――。


「ットライーク! バッターアウッ!」


 うん、そうなるよな。

 大変失礼だけど打たれる気がしなかった。

 正直、彼が9人並ぶ打線なら完全試合になっていただろう。


 振り切れば何れは打てる。

 しかし、それは実力が伴っていた場合であり、誰から誰でも打てる訳ではない。

 弱小校の選手や粗削りなロマン砲だと、ドラフト上位候補クラスには手も足も出ないのだ。


「……アウト!!」


 結局、後続の池田も難なくセンターフライで打ち取って試合終了。

 投げては1安打完封、打ってはソロホームランの1点で3回戦進出を決めた。

富士谷000 000 001=1

新潟明000 000 000=0

【富】柏原―近藤、駒崎

【新】新村―柏崎


実例「ソロホームランが決勝点」

第97回全国高等学校野球選手権大会3回戦

中京大中京0―1x関東一高


・解説

0対0で迎えた9回裏、関東一高のサヨナラソロホームランで決まった試合。

中京大中京は14残塁と、再三のチャンスを活かせませんでした。

尚、今回はそんなに珍しい例を持ってきた訳ではないので、似たような試合は他にもあるかもしれません。

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