14.北陸のナックラー
全国高等学校野球選手権 2回戦
2011年8月12日(土) 阪神甲子園球場 第2試合
新潟明誠高校―都立富士谷高校(西東京)
スターティングメンバー
先攻 富士谷
中 ⑧野本(2年/右左/178/70/日野)
二 ⑥渡辺(2年/右右/174/68/武蔵野)
遊 ⑮津上(1年/右右/180/78/八王子)
投 ①柏原(2年/右右/180/76/府中)
右 ⑨堂上(2年/右右/180/80/新宿)
一 ③鈴木(2年/右右/179/75/武蔵野)
左 ⑪中橋(1年/左左/170/60/八王子)
捕 ②近藤(2年/右右/170/73/府中)
三 ⑤京田(2年/右右/165/59/八王子)
後攻 新潟明誠
中 ⑧池田(2年/左左/172/68/湯沢)
遊 ⑥江口(3年/右左/168/67/長岡)
二 ④赤倉(3年/右右/170/73/妙高)
右 ⑨蓮沼(3年/左左/175/80/新潟)
三 ⑤木村(3年/右右/173/73/新発田)
一 ③一ノ瀬(2年/右右/180/73/新潟)
投 ①新村(2年/右右/174/68/魚沼)
捕 ②柏崎(3年/右右/171/74/新潟)
左 ⑦三国(3年/右左/167/62/新発田)
新潟明誠との2回戦は、予想通り投手戦が展開されていた。
3回終了時点で0対0。それもお互いにノーヒットであり、四死球の走者しか出ていない。
4回表も好機を作るも無得点。まるで得点できる気配が無かった。
「あークソ! 予想通り落ちてくれりゃホームランだったのに!!」
「あのスイングじゃせいぜいレフト前っすね。さ、アホなこと言ってないで守りますよ」
「ああん!?」
ちなみに、最後に凡退したのは京田である。
ヒットこそ無いが打者は二巡。四死球での走者は多く、それに伴い球数も稼げている。
終盤、新村がバテてきた所で捉えたい所だ。
「ットライーク! バッターアウッ!」
「(くそっ、ぜんぜん手が出ねぇ……)」
一方、俺は4回を投げてパーフェクト。
4回裏は三者三振であり、3回から数えて五者連続の奪三振となった。
「目には目を、歯には歯を、メガネにはメガネを! って事で、野本お前が決めてこい!」
「ええ……そんな無茶苦茶な……」
5回表、京田の煽りに後押しされながら、先頭打者の野本が左打席に入った。
1番からの好打順。そろそろ突破口を開きたい所だが――。
「(僕達後攻だし、早めに先制したいけど……それ打てない……!)」
野本はフルカウントからバットを振るも、ナックルに掠りもせず空振り三振となった。
まるで打てる気配がない。ナックルだけでなく、ナックルカーブや複数のムービングボールにも翻弄されている。
そして直球も140キロ前後は出るのだから、高校レベルでは超優秀な投手と言えるだろう。
「(ナックルは全捨てでいいね。ミノサンしたらそれまでって事で)」
続く打者は渡辺。
サニーデイサンデイの音色と共に、右打席でバットを構える。
彼は率だけなら主軸クラス。単打や四死球で良いので出塁を期待したい。
「(俺もこんくらいイケメンならモテたんだろうなぁ……)」
新村は眼鏡の位置を直してから、ワインドアップモーションに入った。
一球目はナックルボール。ほぼ無回転の山なりの球は、ど真ん中に吸い込まれていった。
「ットライーク!!」
渡辺は悠々と見送ってストライク。
その後、二球続けてナックルを投じてきたが、何れも外れてボールになった。
「(そろそろ入れてくるかな。ツーシーム系でも振り切れば内野は抜ける筈……!)」
四球目、新村が放った速い球に対して、渡辺はレベルスイングでバットを振り切る。
綺麗に芯で捉えると、打球は右中間に飛んでいった。
「おおおおおおおおおお!」
「長打になるぞ!!」
大歓声に包まれながら、打球は右中間の間に落ちていく。
渡辺は迷わず一塁を蹴ると、間一髪のタイミングで二塁を落とした。
「初ヒットきたあああああああ!!」
「さすイケ!!」
「きゃー! 和也ー!!」
「(よし、完璧)」
チーム初ヒットとなる二塁打で一死二塁。
このチャンスはモノにしたい。打順が良いから尚更だ。
『3番 ショート 津上くん。背番号 15』
続く打者は津上勇人。
右打席でバットを構えると、ブラスバンドが奏でる紅の音色が聞こえてきた。
外野の位置は……定位置より下がっているな。
打者の長打力を考慮した上で、1点は捨てるという事なのだろうか。
この展開だと得策とは思えない。その隙にあやかって、1点頂きたい所だが――。
「ああ~……」
「簡単に上げすぎ……」
津上は初球を大振りすると、レフト真正面のフライになってしまった。
客席からは落胆の声が漏れている。せめてライト方向なら、二死三塁にはなったというのに。
「柏原ー! 自援護しかないぞー!」
「かっし~!!」
状況は変わって二死二塁。
聞きなれたさくらんぼの音色と共に、俺は右打席でバットを構える。
こうなったら自分で決めるしかない。先程の守備位置なら単打で1点だ。
「(外野もっと前でいいべ。柏原はケースバッティングしてくっから)
新村は外野に前進するよう指示を出している。
選手の特色を良く見ているな。見た目通り頭脳派なのだろうか。
「(さ、都会っ子には負けねーべ。合宿ん時の借り、ここで返させて貰うわ)」
一球目、新村は外角に速い球を振り下ろしてきた。
恐らくツーシームの類であろう球。俺は初球からバットを出すと、そのまま逆らわずに振り抜いた。
「わああああああああああああ!!」
「きたあああああああああああ!!」
捉えた打球は一二塁間を抜けていく。
その瞬間、大歓声が沸き上がると、渡辺は迷わず三塁も蹴った。
「ノーカット!!」
やや前進していた蓮沼さん(ライト)は、渾身のストライク返球を披露した。
セーフかアウトか際どいタイミング。ホームの付近には砂塵が巻き上がっている。
果たして、主審の判定は――。
「アウトォ!!」
「おっしゃぁ!」
審判は右腕を力強く掲げると、新潟明誠バッテリーはガッツポーズを見せた。
くそ、今のは出来過ぎていたな。ノックを見た限りだと、ライトは地肩が強いだけでアバウトだったのに。
「……すいません、俺が進塁打でも打ってりゃ1点でしたね」
「あんま気にすんなよ。そもそも繋げるって柄じゃねぇだろ」
「そーですかね。お兄さん(金城孝太)はその辺も器用だったって聞きましたけど」
守備に着く前、津上とそんな言葉を交わした。
正直、津上が進塁打を打っていれば1点だった。初球ポップフライもどうかと思う。
しかし、そんなものは結果論でしかないし、責めた所で何も始まらないのだ。
「4打席ありゃ打てるだろ。次は頼むぜ」
「うっす」
自分らしさを殺しても仕方がない。
また好機はあると信じて、俺は再びマウンドに立った。
富士谷000 00=0
新潟明000 0=0
【富】柏原―近藤
【新】新村―柏崎