13.次の相手は……
2011年8月12日。
今日は新潟明誠との試合がある為、阪神甲子園球場に訪れていた。
富士谷の試合は第2試合。その前に、関越一高(東東京)と高山都大(岐阜)の試合が行われる。
同じ東京、かつ勝者とは3回戦で当たる為、途中まで見る事にした。
「どっちが勝つかな~?」
「普通にやりゃ高山だと思うけどな。ってか、これで関越一高が躍動するようだと、本来エースだった俺の立場ねぇよ」
「あはは、まぁ正史を知ってる人間は5人しかいないけどね~」
恵とそんな言葉を交わしてから、俺達はワンセグの放送に視線を移した。
正史の関越一高は東東京大会準優勝。大山台のアシストがあったとはいえ、俺がいた関越一高より勝ち上がっている。
皮肉なものだ。今夏に限って言えば、俺がいない方が勝てているのだから。
試合は高山都大の先攻で始まった。
ちなみに、オーダーは下記の通りである。
【高山都大】
右 ⑨美濃部
三 ⑤関
左 ⑱内藤
投 ①小野寺
一 ③赤坂
捕 ②加茂
遊 ⑥高鷲
中 ⑧海老澤
二 ④白鳥
【関越一】
中 ⑧森久保
ニ ④平岡
右 ⑨大越
一 ③松岡
捕 ②土村
左 ⑦竹井
三 ⑤秋葉
遊 ⑥渋川
投 ①仲村
注目はお互いの4番打者。松岡修平は飛距離だけなら世代No.1と名高い。
一方、小野寺は投げては140キロ超、打っては140M弾を放つと噂されている。
先ずは1回表、その小野寺がバットで魅せてきた。
二死二塁、フルカウントの場面。彼は詰まらせながらも強引にセンター前へ運んだ。
走者が帰って1点先制。先ずは予想通り高山都大が主導権を握る。
一方、関越一高打線はというと、小野寺の力強い投球に押されていた。
ストレートの最速は146キロ。それでいて、大きく縦に割れるカーブも持っている。
いくら東東京を代表する名門校でも、そう簡単に打てる投手ではない。
「あ、そろそろ集合の時間じゃない?」
「そうだな。最後まで見たかったけど、そんな悠長にしてる場合じゃねーしな」
結局、試合は5回を終了して1対0のまま。
俺は他の選手達と合流して、ミーティングとアップを行った。
※
やがて野外アップ等々を終えると、俺達は三塁側のベンチ裏にスタンバイした。
尚、この時点でのスコアは下記の通りである。
高山都大100 000 120=4
関越一高000 000 11=2
【高】小野寺―加茂
【関】仲村、池田、竹井―土村
終盤に点を取り合って4対2。依然として高山都大がリードしている。
ただ、関越一高も捉えてきているので、ここで一波乱あるかもしれない。
「関越一高の試合きになるなー。見れるようにしろよー」
「まあまあ、僕達は目の前の試合に集中しようよ」
京田と野本はそんな言葉を交わしていた。
ここは外部からの情報が遮られてしまう。せいぜい、歓声が大きくなったタイミングで、何か起きたと察せるくらいだ。
余談だが、甲子園における試合終了のサイレンは、待機している面々に試合終了を知らせる為に鳴らしている。
「おおおおおおおおおおおおおおお!!」
「わああああああああああああああ!!」
暫く待機していると、グラウンドの方から今日一番の歓声が聞こえてきた。
何か大きなプレーが起きたのだろうか。一瞬、けたたましい金属音も聞こえたが――。
「富士谷高校、ベンチインお願いしますー!」
甲子園特有のサイレンと共に、係員からそう告げられた。
どうやら試合が終わったらしい。俺達は駆け足でグラウンドに入る。
するとそこには――泣きながら土を集める、高山都大の選手達の姿があった。
「逆転サヨナラかよ。かわいそー」
「ほらほら、早く荷物置いてアップするよ」
阿藤さんに促されて、選手達はレフトの方へと向かっていった。
さりげなくスコアボードを見上げてみる。9回裏には「4x」の文字が刻まれていた。
4対6で関越一高のサヨナラ勝ち。
お釣りが出ているという事は、最後はホームランで決まったのだろう。
粘り強く一発もある。実に関越一高らしい勝ち方だった。
さて――気は早いが、次は因縁の関越一高と再戦できる。
前回の対決では投げられなかった。今回こそは古巣の打線と対決したい。
「……お、気合入ってるな!」
その為にも、先ずは新潟明誠との再戦を制す。
そう心に誓いながら、近藤とキャッチボールを開始した。
高山都大100 000 120=4
関越一高000 000 114x=6
【高】小野寺―加茂
【関】仲村、池田、竹井―土村