10.蓋を開ければ……
創成学000 00=0
富士谷000 11=2
【創】鴨下―佐原
【富】柏原―駒崎
6回表、創成学園の攻撃は7番の佐原さんからだった。
尚、ここまで俺は無安打無四死球。所謂パーフェクトピッチングである。
しかし――記録というのは不思議なもので、意識した途端に途切れる運命にある。
「おお! ナイバッチ!!」
「反撃の時間だああああああ!!」
佐原さんは、甘く入ったストレートを完璧に捉えてきた。
打球は右中間を貫くツーベース。正捕手の一振りで記録は途切れる形となった。
「ま、しょうがないですね。勢いはこっちにあるんでアウト優先でいきましょう」
「了解。できれば(1点も)やりたくねーけどな」
駒崎と言葉を交わしてから、続く鴨下の打席を迎える。
代打は出ずそのまま打席に入ると、初球からバットを寝かせてきた。
「アウト!!」
手堅く一塁に投げて一死三塁。
相手としては「先ずは1点」という感じなのだろうか。
試合も終盤だったので、このバントは助かったな。
「おー」
「最低限!」
そして、続く巌さんはセーフティースクイズを決めてきた。
三塁走者が帰って1点差。ただ、安打数は勿論の事、内容的にも点数以上の差を感じる。
その後、西村と上原に連打が出るも、兵頭は空振り三振で無得点。
6回裏と7回表は共に無得点で終わり、7回裏からは3年生の酒田さんがマウンドに上がった。
思ったより粘られたが……ようやく後続の投手と対決できる。
ここから先の投手は一枚落ち。酒田さんのチェンジアップは中々だが、七瀬は荒っぽいし浦さんは球が遅い。
今の富士谷打線なら、普通にやれば何点かは取れるだろう。
そんな期待に応えるかのように、7回裏は富士谷打線が爆発した。
先ずは野本のソロホームランが炸裂。再び2点差とすると、2番手の酒田さんは早々にマウンドを降りた。
しかし、3番手の七瀬も制球が定まらない。連続四死球で無死一二塁となると、俺は速球を捉えてタイムリーツーベースを放った。
そして――。
「あー、決まったわ」
「創成ここまでかぁ」
「鴨下を続投させていれば……」
トドメと言わんばかりに、堂上の犠牲フライと鈴木のタイムリーが炸裂。
一挙4点の猛攻で5点差となり、勝利をほぼ確実のものとした。
8回表からは堂上に継投。
土壇場で兵頭に出合い頭のソロアーチを打たれるも、他の打者は完璧に抑え込んだ。
一方、打線は8回裏にも1点を追加。蓋を開ければ5点差の快勝だった。
「整列! えー……7対2で富士谷高校の勝利とする。ゲーム!」
「あざっしたぁ!!」
やがて整列を終えると、記念すべき開幕ゲームが幕を閉じた。
俺は背番号1……鴨下祐成と手を交わす。去り際に「次は負けねぇ」と言葉を溢していた。
※
「完全試合が途切れた瞬間、正直どう思いましたか?」
「創成学園は打線が良いと聞いていたので、端から記録は意識してなかったです。後続を一人ずつ抑えようって駒崎とも話してました」
「7回のツーベースは狙い通りでしたか?」
「そうですね。変化球が入ってなかったので、ストレートに絞って振り切りました」
「かっしーくんお疲れ様です! 今日の投球について"瀬川"というワードを使ってお答えください!」
「その無茶ぶり止めてくれません??」
試合後、俺は記者達(瞳さんを含む)からインタビューを受けていた。
せっかく二周目なので、何かインパクトのある言葉を残そうと思ったが、どうしても無難な言葉しか出てこない。
次戦までには考えておこう。尤も、次も勝てるとは限らないのだが。
「よっしゃー! 暫くは高みの見物だぜー! 愚民共よ争いやがれ!」
「陽ちゃんのその雑魚キャラっぽい発言嫌いじゃないですよ」
「だから俺先輩!! 京田さんと呼べや!」
「無理っす」
やがて選手達の元へ戻ると、京田と津上はそんな言葉を交わしていた。
次の試合は7日目の第二試合。中6日という事で、ほぼ一週間のスパンが空く事になる。
暫くは緊張から開放されるだろう。
「かっしーおつ! 快勝だったね~!」
恵はそう言ってスポドリを渡してきた。
俺は片手で受け取ると、半分ほど飲んでキャップを閉める。
「ああ、思ったより楽に勝てたな。正直、1点勝負になると思ってたわ」
「私はこんなもんだと思ってたよ。だって、あの三高に勝ってるもん」
選手達と同様、恵も余裕綽々としていた。
もしかしたら……俺は仲間達を、低く見積もり過ぎていたのかもしれないな。
「かっしーおつっ……って、めぐみん早いよぉー」
と、そんな事を思っていると、俺の天使こと琴穂が残念そうに絡んできた。
両手でスポーツドリンクを握っている。恐らく、恵の代わりにスポドリを用意したが、先を越されてしまったのだろう。
「貰うよ。ありがと」
「2本もいる?」
「ん-、そうだな……」
琴穂からもスポドリを受け取ったが、正直なところ2本はいらなかった。
ただ、琴穂が俺の為に用意したのだから、この2本目は受け取らざるを得ない。
となると――自ずと選択肢は限られてくる。
「恵、これやるよ」
「……」
俺はそう言って、飲みかけの方のスポドリを差し出した。
勿論、これは冗談である。しかし――恵はしおらしい表情を見せると、そのままペットボトルを受け取った。
「いや冗談だって」
「残念! 一度返品した物は返せませ~ん! これはもう私のですぅ~」
俺はペットボトルを取り返そうとしたが、恵は大事そうに抱えて離さなかった。
怒っているのだろうか。彼女はペットボトルを抱えたまま、夏美や下級生マネ達の元へと逃げていった。
「謝った方がいいのか……?」
「いいんじゃね~。たぶん怒ってないっしょ~」
「じゃあ何だったんだ……」
「っかー! 府中市民は鈍感だなぁ~!」
「チャラ男しかいない武蔵野市民に言われたくねぇわ」
鈴木に市民単位でディスられたが、本当に何だったんだろうか……。
なにはともあれ、初戦は理想的な形で快勝を飾った。
創成学000 001 001=2
富士谷000 110 41x=7
【創】鴨下、酒田、七瀬、浦―佐原
【富】柏原、堂上―駒崎、近藤
実例?「某chの高校野球板から逮捕者が……」
第99回全国高等学校野球選手権大会1回戦
広陵10―6中京大中京
・解説
名門同士の一戦は、中京大中京の2点リードで後半戦を迎えました。
その際、中京大中京は5回3安打無失点のエースを降ろして2番手投手を投入。
しかし、この継投は結果的に大失敗となり、後続の投手だけで計10失点を喫しました。
歴史的な逆転負けを受けて、怒り狂った愛知県民は中京大中京の校舎を爆破すると予告。
高校野球板で初めて……かは分かりませんが、逮捕者が出る事態になりました。