表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
272/699

2.タブー?

 2011年7月下旬。

 全国各地では続々と代表校が決まっていた。


【7月27日 群馬県立敷島球場 群馬大会決勝戦】

前橋英徳高校―渋川第一高校

 

「高成ハンパないな……反則だろこれ……」

「素晴らしい。早ければ1年目の秋には1軍デビューできるよ彼」

「(柏原よりスケールがあり、宇治原よりも完成されている。確かに1位で欲しくなるな……)」


 大勢のスカウトが見守る中、前橋英徳の高成が圧巻の投球を披露。

 県大会防御率0.25という異次元の数字を残して、選抜準王者が甲子園に帰ってきた。

 

前橋英徳100 010 003=5

渋川第一000 000 000=0

【前】高成―小川

【渋】速水―野際


 

【7月28日 郡山市営開成山野球場 福島大会決勝戦】

聖輝学院高校―都東大学福島高校

 

「……ッアウト!」

「よっしゃー! ナイス瀬川!!」

「(ま、福島じゃ負けねえよな。問題はここからだ)」


 選抜ベスト4の聖輝学院も危なげなく県大会突破。

 最後は瀬川徹平のファインプレーで試合を締め括った。

 投げては歳川が9回13奪三振、打っては8イニングで7得点。

 投打で無双する姿を見て、東北人――特に福島県民の多くは「念願の東北初優勝」を夢見ていた。


都大福島000 000 000=0

聖輝学院200 111 02x=7

【福】小和田、磯下、中村―堀家

【聖】歳川―星野



【7月30日 新潟県立鳥屋野潟公園野球場 新潟大会決勝戦】

新潟明誠高校―新潟文星高校


「……セーフ!!」

「やったあああああああ! 勝ったあああああああああ!!」

「(よし……甲子園だ。たくさんナックル見せつけるべ)」


 ナックル使い・新村を擁す新潟明誠も県大会優勝。

 柏原達が死闘を繰り広げる裏側では、2年生の逸材達が次々と結果を出していた。


新潟文星100 000 002=3

新潟明誠030 000 001x=4

【文】太刀川―関

【明】新村―柏崎


 他にも、投打でパワフルな小野寺を擁する高山都大、選抜では大炎上した鴨下を擁する創成学園など。

 正史通りとはいえ、出来すぎているくらい2年生の逸材達が選手権出場を決めていった。

 そして――。


【8月1日 舞洲ベースボールスタジアム 大阪大会決勝】

大阪王蔭高校―大阪西領大学附属柏村高校


「結局王蔭かい! 今回はホンマ頼むわ!」

「つぎ公立に負けたら許さへんで~!」

「(やかましいわジジイ共。言われんでも分かっとるわ)」

「(これもまた立派な文化の一つ。彼らの厳しい声のお陰で、激戦区大阪が作り上げられている、と……)」

「……根市、真面目に考えんでええぞ」


 大阪大会決勝戦は、選抜王者になる筈だった大阪王蔭が乱打戦を制した。

 これで全49代表が決定。各校は準備に追われながら、抽選会の時を待ち望んだ。


大阪王蔭301 000 035=12

大阪西領231 001 201=10

【王】高野、横川、根市、柿本―田端

【西】関本、石川、樋口、石川―石川、山本、石川、恩田



 時は少し遡って7月31日。

 東東京大会の決勝戦が終わった後、俺達は喫茶店で一休みしていた。

 

「柏原くん達はいつ出発?」

「明日、都内でやる事を済ませて明後日には現地入りだな」

「忙しいよね~。ベンチ外の1年生は今日も準備だし」


 選抜とは違い、選手権は出場決定から現地入りまでのスパンが非常に短い。

 ある程度(宿の手配など)は「例年の西東京代表と同じ」という事で省略できるが、大半の準備は短い期間で処理する必要がある。

 特に指導者達は大忙し。優勝の余韻に浸る余裕すらなく、当日から大量の資料を手渡されていた。


 この準備で指導者が戸惑うと、選手達にも伝染して調整にも支障が出てしまう。

 その点、瀬川監督は一応3回目。畦上先生も選手として出場しているので、選手権初出場にしては順調に準備を進めていた。


「そういや、すんげえ今更なんだけどさ」

「ん、どうしたの?」


 ふと、俺は相沢に問い掛けた。

 話は全く変わるのだが、俺は前々から思っていた疑問がある。

 せっかくなので、甲子園に旅立つ前に片付けておこう。

 

「俺達が転生者だって誰かにバレたらどうなるん?」


 俺はそう問い掛けると、相沢はフフッと鼻で笑った。

 疑問の内容とは他でもない。俺達の正体が非転生者に知られた時、何が起こるかである。


 今まで俺達は、選手達は勿論、指導者にも転生者である事を隠してきた。

 理由は二つ。純粋に二度目の青春を楽しむ為と、なんとなくタブーだと思ったから。


 タイムスリップ系の物語において、未来人は素性を明かしてはいけないとか、過去の自分には会ってはいけないとか、そんなルールがあるのが王道だ。

 だから俺達も「なんとなく」未来の記憶がある事を隠してきたが……もし誰かに素性を知られた時、何か悪い事は起きるのだろうか。


「せっかくだし答えとくよ。まず、大半の人間には知られても何も起こらない。現に俺は監督にだけ素性を明かしているしね」

「そういや、そうだったな」


 相沢の答えに、俺は納得げに頷いた。

 これはいざとなったら使える情報だ。恵の父である瀬川監督は道徳的に不味いが、畦上先生になら素性を明かせる。

 そして此方が未来人である事を吹き込めば、瀬川監督引退後も監督の操縦が可能になる訳だ。

 

「で、一部の人間――同世代の人間にバレると、少しだけ不味い事になるね」

「ほう」


 相沢はそう言って言葉を続ける。

 果たして、同世代の人間に素性を明かして起こる事とは一体――。

 

「知ってしまった人は史実の記憶が一部だけ蘇る。それも本人にとって凄く辛かったエピソードがね」

「すんげえ微妙だな……」

「え~、けっこう嫌じゃない? 純粋無垢な頃に病死するって知ったら超ショック受けるけどなぁ~」


 嫌な記憶が一部だけ蘇る、か。

 同世代の人間に素性を明かすつもりはないが、思ってたよりリスクは少なくて安心した。

 

「微妙とはいうけどね柏原くん。トラウマ級のエピソードが蘇ったら最悪だよ? しかも、かなーりリアルな夢として出てくるからね……」

「もうそれはただの悪い夢だからな?」

「ともかく、選手には知られない方が良いよ。ショックで調子を崩すかもしれないし」

「ま、もともと隠し通すつもりだったから心配すんな」


 と、そんな会話をしてから、話題は「堂上を笑わせる方法」へと移っていった。

 束の間の休日はこれで終わり。明日からは甲子園に向けての準備が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ