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55.思うツボ

都大三00=0

富士谷00=0

【三】宇治原―木更津

【富】柏原―近藤


「ットライーク! バッターアウト!」


 3回表、二死から篠原にヒットを許すも、続く町田を抑えて無得点となった。

 これで3回を投げて無失点。今の所は想定通り、ロースコアの展開が続いている。


 3回裏、富士谷は1番からの好打順……だったが、野本は呆気なく三振で倒れた。

 京田は初球をピッチャーゴロ。野本が出られないと、2番京田は悲しいくらい機能しない。


「おお!!」

「ナイバッチ!」


 そんな事を思っていると、3番の津上はレフト前にヒットを放った。

 二死一塁。先制の走者を置いて俺の打順を迎える。


 ……さて、この打席は何を狙っていこうか。

 外野は定位置より後ろ。特にレフトは大袈裟に下がっている。

 第一打席はイン攻めだったと考えると、内角をレフト前に引っ張るのが無難だろう。


 実際、宇治原を使った内角攻めは、投げきれるのなら合理的な戦略と言える。

 内角はミートポイントが前になるので、唯でさえ速い豪速球を、早い段階で見切らなくてはならない。


 一球目、宇治原は腕を振り下ろしてきた。

 豪速球は外角高めに吸い込まれていく。俺は咄嗟にバットを止めるが――。


「ットライーク!!」


 枠内に入った判定でストライク。木更津は強めにボールを返していた。

 要求と違ったのだろうか。どちらにせよ、今回も逆を突かれた形となる。


 もうコースは絞らない方がいいかもな。

 どうせ二死一塁。ここは高めに浮いた球に絞って、コースと球種は即席で対応しよう。


「……アウト!」


 ……と、自由に打ってみたものの、打たされてレフトフライに終わった。

 後進していたレフトもドンピシャ。見事に術中にハマってしまった。



 攻守が入れ替わって4回表。都大三高の攻撃は3番の荻野から。

 小柄ながらも力がある強打者が、左打席でバットを構えた。


「(ランナーなしからも敬遠されたからな。俺が一塁を埋めないと)」


 次の打者は木田哲人。

 そう考えたら、荻野は絶対に抑えたい所である。

 しかし――。


「わあああああああああ!!」

「銀髪の前にランナー出た!!」


 荻野が放った痛烈な打球は、一二塁間を綺麗に貫いていった。

 流石は都大三高の中軸打者。そう簡単に抑えられたら苦労はしない。


「早くも舞台が整ったね! さあ始めよう柏川くん! 僕が世界一上手いという事実の証明をね!」


 無死一塁、ここで迎える打者は、世界有数のキチガイ様こと木田哲人。

 大歓声に負けじとデカイ声で、高らかに笑いながら左打席に入ってきた。


「勝負か? また避けるか?」

「一二塁で大島雨宮の並びは危険だろ」

「外野フライ2つで1点だし、ここは勝負しかないぞ」

「ざわざわ……」


 観客席のボルテージも上がってきている。

 恐らく、木田と俺の対決を期待しているのだろう。


 しかし、ここで一三塁や二三塁を作られたら本末転倒だ。

 追い込むまでは四球前提のボール球。最後もスプリットで三振に仕留めたい。


 一球目、外のスクリューから。

 白球は枠から逃げていくと、木田は悠々と見逃した。


「ボール!!」


 当然ながらボール。流石に振ってくれないか。

 二球目は内角のストレート。避けなきゃ掠るくらいの場所を厳しく攻めていく。


「ボール! ツー!」


 これは体を引かれてボール。

 ファールを狙った一球だったが、冷静に見逃されてしまった。


 よく野球漫画で「打ってもファールにしかならないコース」という表現があるが、そんなモノは枠内には存在しない。

 結局、確実にファールを打たせるのなら、枠から少し離れた球になってしまうのだ。


 これで0ストライク2ボール。

 体を引かせた後なので、外角低めの球を使って振らせたい。

 ……サークルチェンジを使ってみるか。ストレートとの緩急も活きる。


 三球目、俺はセットポジションから腕を振り抜いた。

 緩やかな球は外角低めに沈んでいく。それは――見逃せばボールになる、地面スレスレの変化球だった。

 しかし――。


「(天才の僕にそういうのは意味ないって、何度も言ってるんだけどなぁ)」


 木田は低い姿勢でバットを出すと、右手だけで白球を捉えてきた。

 普通は絶対に打てないコース。にも関わらず――片手ながらも捉えた打球は、二遊間の頭を越えていった。


「わああああああああ!!」

「すげえええええええ!!」

「天才かよ……」


 外野は後進していた事もあり、打球はセンター前に落ちてしまった。

 荻野は二塁も蹴って三塁を狙っている。木田は一塁を過ぎた所で悠々と戻っていった。


「……セーフ!!」


 三塁も悠々セーフで無死一三塁。

 ほぼワンバンの球を打つ異次元ヒットで、絶体絶命のピンチになってしまった。


 ここから打順は大島、雨宮、木更津と続いていく。

 彼らも木田ほどではないが侮れない。事実として、木更津以外は将来プロ入りを果たす選手だ。


 試合はまだ4回。

 1点は仕方ないとするか。それとも――大量失点のリスクを背負って1点を守りにいくか。

 折り返しを目前にして、一つ重要な分岐点を迎えていた。

都大三000=0

富士谷000=0

【三】宇治原―木更津

【富】柏原―近藤

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