50.無駄足
準決勝の第2試合が終わると、俺と恵は玉川上水を訪れた。
理由は他でもない。都大三高について、相沢から助言を貰う為である。
彼には練習を抜けてもらい、都大二高Gに程近いコンビニ(イートイン付き)に集まるに至った。
「とは言うけどさ、今更語る事なんて無くない? レギュラーの殆はプロ行ったし、柏原くんもテレビで見てたでしょ?」
相沢は難色を示している。
彼の言う通り、都大三高の全国制覇や出身選手の活躍は一周目で見てきた。
殆どの選手は問題ない。癖と特徴は理解している。
しかし、全てを把握しているかと言われたら、そうではないのが実情だった。
所詮は二周目の転生者。現役期間はあまりテレビを見れていないし、当時は東東京の球児だったので接触も少ない。
特に、上で野球を続けなかった選手というのは、どうしても観察する機会が少なかった。
「……言い直すわ。木更津について詳しく知りたい」
そして――上で続けなかった選手というのは、正捕手の木更津である。
彼だけは高校で野球を辞めた。だからこそ、他と比べて情報が少ないのだ。
「なるほどね。木更津くんは高校で辞めちゃったから分からないと」
「え、木更津くんって大学とかプロ行かなかったの?」
「ああ。下位で指名されたけど、その程度の評価なら野球辞めるって言ってな」
「確かプロ棋士になったよね。不敗神話作ってなかったっけ」
「えぇ……凄いけど勿体な〜」
死期が早かった恵は、少し驚いた様子だった。
ちなみに、木更津は評価に納得がいかず、不貞腐れて野球を辞めている。
そして何故か棋士となり、無敵の強さを誇っていたと聞いた。
「で、木更津くんについて詳しくだっけ」
「ああ。出来れば弱点とか、配球パターンとか教えてくれると助かるんだけど」
「配球パターンねぇ……」
俺は問い掛けると、相沢は意味ありげに呟いた。
何か知っているのだろうか。だとしたら有意義な情報になるのだが――。
「今は言えないかな。だって俺が阻止したいのは来年の春夏連覇だし」
と、キッパリ断られてしまった。
去年の秋と言い、都大三高の情報は相変わらず勿体ぶってくる。
薄々勘付いてはいたけれど、完全に無駄足になってしまった。
「ま、強いて言うなら定石は好きだよね」
「それは知ってるけどよ。他に何か弱点とかねえの?」
「んー、捕手にしては細いとか? この時代はコリジョン無いから立派な弱点だよ」
「ラフプレーしろってか。都立なんて好感度しか取り柄ないのに、それ捨ててどうすんだよ」
「ねね、コリジョンって何?」
「あぁ……そこからか……」
と、そんな感じで会話は脱線してしまった。
結局、木更津の新情報は無し。俺と恵が持っている情報のみで戦うしかない。
「あ、逆に俺から提案があるんだけどさ」
ふと、相沢はそう問い掛けてきた。
提案とは何だろうか。条件次第で受けても良いが――。
「都大三高が更に強くなっても困るし、今回はわざと負け――」
「断る」
相沢が言い切る前に、俺は言葉を遮った。
いくら来年が集大成とはいえ、先輩の夏を犠牲にする事は出来ない。
俺は今年も来年も甲子園に行く。怪我で離脱した島井さんの為にも。
「……柏原くんって絶対、縛りプレイとか好きなタイプだよね」
「そうかもな。ドラ○エの5と6では最後までスライム引き連れてたわ」
「スライムみたいな小さくて弱い子が好きだしね〜」
「それ無理やり過ぎない??」
会話は再び脱線して、やがて解散する事になった。
俺は裏技は使わない。ページが欠けた攻略本を片手に大魔王を討伐する。
NEXT→8月29日or30日
気付けば甲子園も終わりそうに……。
30話前後で決勝まで行く予定でしたが、あまりにも読みが甘過ぎました。