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46.ラストイニングの魔物

富士谷000 000 320=5

東山菅000 002 00=2

【富】堂上―駒崎、近藤

【東】板垣、本多、藤井―小寺


守備交代

二 ⑥渡辺→④阿藤



「っしゃい!!」


 明治神宮野球場では、東山大菅尾の選手達が声を張り上げていた。

 高校野球では定番の円陣。最終回の攻撃に向けて、気合を入れ直しているのだろう。


『9回裏 東山大学菅尾高校の攻撃は、4番 キャッチャー 小寺くん。背番号 3』


 9回裏、東山大菅尾の先頭打者は小寺さん。

 ゆったりした動きで右打席に入ると、かっぽれねぶたをアレンジしたチャンステーマ「菅尾Mix」の音色が聞こえてきた。


「(3点差だ、とにかく打つしかねぇ)」


 点差は3点。相手としてはランナーを貯めるしかない。

 逆に此方としては、フォアボールだけは与えたくない場面だ。

 勝負して打たれたら仕方がない。逃げの姿勢を見せない事が求められる。


「(前の打席はナックルカーブで犠牲フライ。タイミングあってそうですし、ここはストレートから入りますよ)」

「(ふむ、承知した)」


 バッテリーサインの交換は秒で終わった。

 一球目、堂上の投球モーションと同時に、小寺さんはテイクバックを取る。


「(大きいのはいらない。センター返しを意識して――繋ぐ!)」


 そして146キロの速球が放たれると、小寺さんはコンパクトなスイングで弾き返した。

 投手の右を抜けそうな当たり。堂上は咄嗟に右手を出すが、白球は軌道を変えて抜けていった。


「……セーフ!!」

「っしゃあああああ!!」


 津上のバックアップは間に合わず、記録はピッチャー強襲の内野安打。

 小寺さんはヘッスラから起き上がると、一塁上でガッツポーズを見せた。


「すげえ当たりだったな……」

「ピッチャー大丈夫かー?」


 これは最悪の出塁パターンである。

 流れという迷信が絡む四死球とは違い、投手強襲安打は選手への物理的なダメージがある。

 堂上の右手は大丈夫だろうか。投球の確認は無難に終えたが、打席に選手が立つと分からない。


「しゃす!」


 5番打者は右の高瀬さん。

 点差はあるので打者集中でいい。そう思いながら堂上の投球を見守る。

 しかし――。


「デッドボォル!!」

「いっ……っしゃあ!!」


 初球が抜けて死球になってしまった。

 すかさずタイムが掛けられる。ベンチから田村さんが飛び出すと、内野陣はマウンドに集まった。


 高校野球は最後まで何があるか分からない。

 時間制限が無いルールと、アマチュア故の粗いプレーが、土壇場での大逆転を演出する事がある。

 事実として、去年の富士谷は二死から3点差を逆転した。


「プレイ!!」

『……只今のバッターは。6番 センター 板垣くん』


 続く打者は長身の板垣さん。

 去年は大戦犯になりながらも、今年は先発して好投を披露している。


「(ホームランで同点だけど……後ろを信じて繋いでいこう。菅尾(うち)の選手なら何とかしてくれる」


 板垣さんは落ち着いてバットを構えた。

 一球目、二球目と見逃していく。そして1ストライク1ボールからの三球目、堂上は緩い球を振り下ろした。


「(……落ちない!)」


 それは――外角低めギリギリの完璧なチェンジアップだった。

 しかし、白球はそこから沈まない。板垣さんは長い腕を伸ばして白球を捉える。

 掬うように引っ張った当たりは、俺が守るライト線に落ちていった。


「わあああああああああああ!!」

「逆転サヨナラあるぞおおお!!」


 ライト線へのタイムリーヒット。

 2点差で尚も無死一三塁。遂に同点の走者――ホームランで逆転サヨナラになる走者が出てしまった。


「タイム!」

「柏原!」


 ここでタイムが掛けられると、セカンドの阿藤さんは俺を呼んだ。

 苦渋の緊急登板である。やはりというべきか、あの強襲安打で右手を痛めたのだろう。


「堂上、大丈夫か?」


 俺はグラブを交換してからマウンドに向かった。

 堂上の右手に視線を移してみる。出血は無いものの、爪が割れているように見えた。


「うむ、問題ない」

「大アリだろバカ」

「バカではない。それは期末テストでも証明済みだ」

「はいはい……。いいから怪我人はベンチで休んでろ」


 堂上は相変わらず無表情だったが、強引にマウンドから引き摺り下ろした。

 大怪我では無さそうなのは不幸中の幸いか。ただ、明後日の決勝で投手起用するのは難しいかもしれない。

 そしてもう一つ、その決勝の舞台も危ぶまれつつある。


 打順は下位ながらも2点差で無死一三塁。

 選手層の厚い東山大菅尾は、下位からでもヒットで繋ぐことが出来る。

 去年と立場が入れ替わった決戦は、最後の大一番を迎えようとしていた。

富士谷000 000 320=5

東山菅000 002 001=3

【富】堂上、柏原―駒崎、近藤

【東】板垣、本多、藤井―小寺


守備交代

投 ⑨堂上→①柏原

左 ⑱中橋→⑦田村

右 ①柏原→⑱中橋


祝3000P!いつも応援ありがとうございます!


NEXT→8月24日or25日

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 桐蔭負けちゃいましたね… [一言] 滋賀は立地で言うと侮れる訳が無いんですが舐められてもしょうがないと言うか… 一度ぐらい最後まで勝ってくれると印象も変わるんですがね
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