43.継投に正解はない
富士谷000 000=0
東山菅000 002=2
【富】堂上―駒崎
【東】板垣―小寺
7回表、富士谷の攻撃。
神宮球場のマウンドには、引き続き板垣さんが上がっていた。
「……続投か」
「もう限界に見えたけどなー」
「ここまで完封だし代え辛いんだろうね」
板垣さんは6回を投げて6安打3四球5三振。
投球回の1.5倍も走者を出していて、ギリギリで凌いでいるのが現状だ。
3併殺の割には球数も嵩んでいる。130キロ代前半を計測する直球も増えてきた。
東山大菅尾は絶対的なエースが不在のチーム。
だからこそ、先発投手が予想以上の好投をすると、代え時というのが難しくなってしまう。
代えて打たれたら監督の責任。勿論、代えずに打たれても監督の責任になる。
常々思うけれど、高校野球の監督は難しく、そして報われない。
『7回表 都立 富士谷高校の攻撃は、7番 キャッチャー 駒崎くん。背番号 12』
7回表、富士谷の攻撃は駒崎から。
ブラスバンドが奏でる暴れん坊将軍と共に、右打席でバットを構えた。
マウンドの上には板垣さん。テンポよく投球動作に入っていく。
初球は大きく外れると、捕手の小寺さんは腕を伸ばして球を捕らえた。
「(これはベルトから上のストレートに絞っていいな)」
駒崎は頷いてバットを構え直す。
二球目、フロントドアのスライダー。見逃してストライク。
三球目、またもスライダー。これはワンバウンドしてボールになった。
カウントは2ボール1ストライク。
バッティングカウントで迎えた四球目――。
「(もらい!)」
ストレートは高めに浮くと、駒崎は迷わずバットを振り抜いた。
打球はレフトの頭を越える大きな当たり。駒崎は二塁を蹴った所で足を止めた。
「っしゃ!」
駒崎は二塁上で小さくガッツポーズを見せる。
そして塁審にタイムを要求すると、背番号19の高松と入れ替わった。
この1点は絶対に欲しい。瀬川監督はそう判断したのだ。
「和也ー!」
「打てイケメンー!」
ここで迎える打者は8番の渡辺。
本来は2番を打つ好打者だが、今日は作戦の兼ね合いで打順を落としている。
ここでバントはナンセンスだ。ヒッティングで間違いない。
「ガッキー、打たせてこー!」
「1点はやっていいぞー」
サニーデイサンディの音色が響く中、板垣さんはセットポジションに入った。
初球は得意のフロントドア。体に向かっていく球は枠内に吸い込まれていく。
しかし――渡辺は腕を畳みながら、インコースの球を綺麗に捌いた。
「わああああああああ!」
「おおおおおおおおお!」
大歓声に包まれながら、捉えた打球は三塁手の頭上を越えていく。
やがて白線の内側でバウンドすると、二塁走者の高松は三塁も蹴った。
「カット!!」
ホームには投げられない。
渡辺は一塁で止まり、控え目なガッツポーズを見せていた。
今までとは一転、たった2人で1点を取れた。
流れは確実に傾いている。そして結果論だが、相手は継投のタイミングを見誤った。
「タイム!!」
と、ここで東山大菅尾の控え選手はタイムを要求。
主審にシートの変更を告げると、ブルペンから背番号10の本多が現れた。
板垣さんはセンターへ、堀江さんはレフトへ。ここで投手交代である。
「投手代わったかー」
「本多は結構荒れるからな。慎重に見てけよ」
本多は177cm68kgの細身な左腕。
インステップに踏み込んで、トルネードに近いフォームから球を繰り出す。
最速は141キロ。ただし制球は荒っぽく、好不調の波が激しい。
「……プレイ!」
無死一塁、打者は京田で試合は再開された。
当然ながら指示はバント。2ボールからの三球目をしっかり決めた。
7番からの打順で1点を返し、尚も一死二塁で一番に回した。
これが出来るのが今の富士谷である。以前なら三者凡退でチェンジだった。
一打同点で迎える打者は野本。
しかし、代わったばかりの本多は制球が定まらない。
二球連続で大きく外れると――。
「うっ……!」
「デッドボール!!」
背中に当たるデッドボール。
一死一二塁、逆転の走者も塁に出た。
これで一死一二塁。
迎える打順は、打ってる割に噛み合わない中橋津上の並びである。
「悪いな津上、走者一掃してくるわ」
「あ? 無難にバントしとけ。俺が決める」
ネクストの付近では、中橋と津上がそんな言葉を交わしていた。
緊張感も糞もない。ただ、それが二人の良い所なのかも知れない。
試合は既に7回、下手したら最後のチャンスになる。
拙攻に泣いた準決勝。富士谷の明暗は二人の1年生に託された。
富士谷000 000 1=1
東山菅000 002=2
【富】堂上―駒崎
【東】板垣、本多―小寺
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仕事が忙しかったり家探してたり甲子園見てたりで纏まった時間が取れてません……!
極力、週6話ペースの投稿を心掛けますが、暫くはペースにムラが出るかもです。すいません……!