40.二番手の怪物
富士谷0=0
東山菅=0
【富】板垣―小寺
【東】堂上―駒崎
厳しい日差しに照らされる中、堂上は神宮球場のマウンドに上がった。
投球練習は計7球。一球、また一球と、力強い球を振り下ろしていく。
ミットの音は心地よい。球も走っているように見える。
「1回裏 東山大学菅尾高校の攻撃は、1番 セカンド 奥原くん。背番号 4」
1回裏、東山大菅尾の先頭打者は奥原さん。
落ち着いた素振りで左打席に入ると、某探偵アニメのテーマソングが聴こえてきた。
去年の夏は、彼の二塁打から猛攻が始まっている。
先ずは先頭を打ち取りたい。その為にも、堂上の立ち上がりは重要になってくる。
一球目、堂上はワインドアップから腕を振り下ろした。
中速で曲がる変化球――ナックルカーブは、外から真ん中に入っていく。
「ットライーク!!」
奥原さんは見逃してストライク。
立ち上がり、それも初球から変化球を使ってきた。
博打要素は強いが、相手としても不意を突かれただろう。
「(よく曲がんね。まー難しい球は捨てていいっしょ)」
二球目、外寄りの速い球。
奥原さんはバットを出すも、打球はレフト線に切れていった。
「134キロだって」
「思ったより速くないね〜」
ふと、一塁側スタンドからカップルの声が聞こえてきた。
確かにストレートとしては速くない。恐らく、堂上が投げたのはシュートだろう。
三球目はカットされてファール、四球目と五球目は見逃されてボール。
その全てが135キロにも満たない。つまり、ここまで全て変化球という事になる。
本調子であれば、だが――。
「(連続で外れたし、そろそろ得意のストレートで来んじゃねーかな)」
六球目、堂上はワインドアップから腕を振り下ろした。
少し高めに浮いたストレート。奥原さんは迷わずバットを出してくる。
しかし――。
「ットライーク!! バッターアウト!!」
振り遅れて空振り三振。
その瞬間、スタンド全体が響よめいたので、俺はバックスクリーンを見上げてみた。
「……マジかよ」
広告の横には「147km/h」と表示されている。
それは――都立の2年生としてはあまりにも速く、来年には150キロを期待できる領域だった。
剛腕投手のバーゲンセールになった10年後とは違う。
この時代の150キロというのは、ドラフト上位指名が確約されたも同然の数値だ。
「はえー!! 来年ドラ1あるだろ!」
「もう柏原いらない説ある……」
「けど宇治原の159キロを見た後だとなぁ」
このインパクトは非常に大きいが、同世代には更に上を行く化け物がいるのも事実。
観客達も「その程度」にしか盛り上がっていないように思えた。
「……アウト!!」
「(捉えたと思ったんだけどな。力に押されたか)」
2番の堀江さんはサードフライ。
打率8割の好打者ですらも、MAX147キロの速球に押されている。
そして――。
「ットライーク!! バッターアウト!!」
「どのーえナイピッチー!!」
3番の勝野はチェンジアップで空振り三振。
去年とはまるで別人。超高校級とも言える右腕が、東山大菅尾の前に立ち塞がった。
※
2回以降も手に汗握る投手戦が展開された。
先ずは2回表、先頭の俺は四球を選ぶも、続く堂上は好守に阻まれて併殺打。
鈴木はヒット、駒崎はセンター深めのフライとなり、噛み合わない攻めとなってしまった。
一方、2回裏の東山大菅尾は、一死から高瀬さんが二塁打を放つ。
しかし、ここから堂上はギアチェンジ。後続は連続三振で打ち取った。
3回表はヒット、バント、二ゴロ、投ゴロ。
最後は中橋のセーフティバントだったが、板垣さんが何とか捌いて阻止している。
3回裏は四球、投ゴロ併殺、三振。併殺はバント失敗であり、此方の堂上も意地は負けてない。
4回表、一死一二塁。
この回もチャンスを作ると、6番の鈴木の打順を迎える。
しかし――。
「わあああああああああ!」
「うめー!!」
痛烈な当たりはセカンドの守備範囲内。
逆シングルで捕らえると、鮮やかな動きで463のダブルプレーを取られた。
その裏、今度は東山大菅尾がチャンスメイク。
一死一三塁で、先程は長打を放った高瀬さんを迎える。
「(……狙いは外野フライ、遅れてもいいから振り切ろう)」
チャンステーマの菅尾Mixが鳴り響く中、高瀬さんは四球目を振り切ってきた。
やや詰まったフライはライト方向に飛んでくる。
俺はほぼ定位置で捕らえると、三塁走者の堀江さんはスタートを切った。
「おおおおおおおお!!」
「肩つえー」
「惜しい!!」
しかし、俺のダイレクト返球で本塁はタッチアウト
お互いに点が入りそうで入らない。好投と好守が得点を防いでいく。
四死球や失策が絡まないと、大量得点というのは非常に起こり辛い。
それが野球というスポーツだ。金属バットと言えど、好投手同士の対決ではそうなってしまう。
結局、5回もお互いに無得点。
試合はイーブンのまま後半戦に突入した。
富士谷000 00=0
東山菅000 00=0
【富】板垣―小寺
【東】堂上―駒崎
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