37.リベンジマッチ
西東京準々決勝の翌日、富士谷高校では軽めのミーティングが行われた。
理由は他でもない。翌日の東山大菅尾戦に向けた打ち合わせである。
俺達は何時ものように、瀬川監督が受け持つ3年6組に集まっていた。
「……とまあ、予想されるスタメンはこうだな」
「奥原さんとか堀江さんとか懐かしい〜」
先ずはスタメンの確認から。
尚、東山大菅尾の予想オーダーは下記の通りである。
二 ④奥原
左 ⑦堀江
一 ⑬勝野
捕 ③小寺
三 ⑤高瀬
中 ⑧板垣
右 ⑨本橋
遊 ⑯成瀬
投 ①藤井
当たり前だが、レギュラーの約半分は入れ替わっている。
一方で、奥原さん、堀江さん、板垣さん、小寺さんは去年からスタメン。
それに加え、高瀬さんも代打で登場するなど、9人中5人が旧チーム経験者となっている。
東山大菅尾は去年が勝負年だったが、今年も戦力が揃っている事に変わりはない。
むしろ打線の繋がりと投手層は今年が上。スケールは落ちたもののタレントが揃っている。
先ず、1番の奥原さんは東京No.1セカンドと名高い。
2番の堀江さんも打率8割の巧打者。去年の富士谷戦でも5打席4出塁だった。
この二人がチャンスメイクした所で、のちにプロ入りする勝野、U―12日本代表出身の小寺さん、長打力がある高瀬さんや板垣さんが走者を一掃する。
下位打線も侮れない。
7番の本橋は来年の中軸候補。8番の成瀬は1年生ながら5割近い打率を残している。
勝負所がハッキリしていた去年とは違い、隙がない打線を仕上げてきた。
次に投手陣だが、今年は複数の好投手を擁している。
去年の大崎さんのような絶対的エースは不在だが、長身の板垣さん、体格の良い勝野、小柄だが度胸がある藤井、極端なインステップの本多と、左右で140キロ超を投げる投手を4人も揃えてきた。
「それだけ聞いたら優勝候補だなぁ」
「実際、3〜4番手に挙げてる雑誌もあったしな。菅尾は今年も強いよ」
「カタログスペック半端じゃないもんね。その上で柏原くん的に注意したい事は?」
ふと、そう聞いてきたのは野本だった。
注意したい事か。シフトの確認や投手対策は大前提として、それ以外で一つ挙げるなら――。
「……相手の執念かな。特に3年生はリベンジに燃えてると思うよ」
勝利への執念である。
去年の東山大菅尾は、選手10人の都立に逆転負けという屈辱を味わった。
その精神的ダメージと、反動からくるエネルギーは計り知れない。
リリーフで炎上した挙げ句、目測ミスで逆転タイムリーを献上した板垣さん。
二死二三塁、一打逆転サヨナラの場面で、見逃し三振を喫した堀江さん
他にも、好プレーを連発しながらも報われなかった奥原さん、シート変更で早々に引っ込んだ小寺さんなど。
各々が違った形で涙を飲む事になった。
「ふむ……リベンジに賭ける思いか。それなら負けるつもりはない」
そして――リベンジに燃える選手は此方にもいる。
去年は無情にも癖を読まれて、一死しか奪えずに降板した堂上だ。
彼にとっても去年の借りを返す絶好の機会。
ローテーションも噛み合って、お互いに雪辱を果たす舞台が整った訳だ。
「じゃ、明日は任せたぜ」
「うむ。どうせなら決勝も任せて貰って構わないのだがな」
「ローテーション組んだ意味を根本から覆すの辞めろ」
相変わらずな堂上に、俺は呆れながら言葉を返した。
遂に迎えた待望のリベンジマッチ。決戦は明日の第1試合、明治神宮野球場で行われる。
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安心安定の木曜休刊。
残念ながら甲子園は雨天中止が続きそうなので、その内にストック溜めたいですねぇ。