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25.らしくない攻め

福_生000 020 00=2

富士谷002 000 0=2

【福】中里、森川―入谷

【富】柏原―駒崎、近藤


 同点で迎えた8回裏、福生の内野陣はマウンドに集まっていた。

 二塁では津上が退屈そうにしている。やがて福生の内野手が散っていくと、主審から試合再開が告げられた。


『4番 ピッチャー 柏原くん。背番号 1』


 無死二塁、勝ち越しの走者を二塁に置いて、俺の打席が回ってきた。

 ブラスバンドが奏でるさくらんぼと共に、右打席でバットを構える。


「(ここでエース様かよ。持ってんねぇ)」


 マウンドの森川さんはニヤリと顔を歪めた。

 この場面でも彼は動じない。そのメンタルは名門出身、かつ社畜経験者の俺も顔負けである。


 しかし、此方が優位な状況に変わりはない。

 無死二塁で4番の俺、ネクストには長打力のある堂上がいる。

 ここで進塁打以上の活躍をすれば、堂上の犠牲フライで確実に勝ち越せるだろう。


 一球目、二球目はボール球から入ってきた。

 一塁は空いているので、俺と勝負する必要はないという判断なのだろうか。

 しかし、今の富士谷は下位も繋がる。8番には近藤が入っているが、好打者との対決は避けられない。


「(落ち着いてんなぁ。取り敢えずストライク1コ貰うぜ……!)」


 三球目、森川さんはセットポジションから腕を振り下ろした。

 外角低めの速い球。俺は流し方向を意識して、逆らわずにバットを出した。


「おお!!」

「いい当たり!」


 鋭い打球は一塁線に転がっていく。

 そのままライトに抜ける――と思ったが、ファーストの桐山さんは飛び込むと、グラブの先で白球を捕らえた。


「……アウト!!」

「ナイキャッチ桐山!」

「すげー! 福生無失点いけるぞー!」


 桐山さんは一塁を踏んでファーストゴロ。

 0ストライク2ボールから打った結果、渾身のファインプレーに阻まれてしまった。


 我ながら軽率な打席だった。

 しかし、これで一死三塁。犠牲フライでも勝ち越しの場面である。

 ここで迎える打者は――。


『5番 ライト 堂上くん。背番号 9』


 ブラスバンドが奏でる怪盗少女と共に、堂上が右打席に入った。

 堂上はアッパースイングのスラッガー。彼ほど特大フライが多い選手も珍しいだろう。


「(柏原は四球前提、堂上はレフトフライの予定だったんだけどな。欲張っちまった)」


 こうなってくると、森川さんの表情も苦しくなってくる。

 一球目、得意のスローカーブから入ってくる――が、白球は大きく外れてしまった。


 二球目、高めに浮いたストレート。これも見逃してボール。

 0ストライク2ボールとなり、森川さんは汗を拭った。


「(きっついなぁ。最悪フォアでもいいから、とにかく丁寧に――)」


 三球目、森川さんはスローカーブを振り下ろす。

 フロントドアで入ってくる球。堂上は豪快なスイングで白球を捉えた。


「おおおおおおおお!!」

「入るかぁ!?」


 大きな当たりはレフトポール際に飛んでいく。

 打球はそのままフェンスの先に入っていった。

 三塁審の判定は――。


「ファール!!」


 三塁審は両手を広げると、客席から安堵と落胆の息が漏れた。

 特大のファールボール。相手としては度肝を抜かれた一発になっただろう。


「……ボール、フォアッ!」


 結局、堂上にはストライクが入らず四球になった。

 これで一死一三塁。SEE OFFの音色と共に鈴木が右打席に入る。


「(うっし。今日こそ決めんぜ〜)」


 鈴木は舌舐めずりをしながらバットを構えた。

 相変わらず表情には余裕がある……が、彼は4回のチャンスで併殺打を放っている。

 この打席で挽回して欲しい所だ。


 一球目、森川さんはスローカーブから入った。

 鈴木は外の球を掬い上げる。バットの先に当たった打球は、ライトのファールゾーンに上がっていった。


「捕るな!!」


 森川さんはそう叫ぶと、ライトの水口は慌てて足を止めた。

 白球はラインの外に落ちてファール。冷静な判断で犠牲フライを回避してきた。


「(そう簡単に点はやんねーぜ。ここも併殺で切り抜けてやんよ)」


 森川さんは得意気な表情を浮かべている。

 鈴木は内野全体を見渡すと、ホームベースを叩いてからバットを構えた。


 二球目、森川さんはセットポジションから足を上げる。

 その瞬間――。


「(なっ!?)」


 鈴木は唐突にバットを寝かせてきた。

 あろうことか、強打者の鈴木がノーサインでセーフティスクイズ。

 この作戦は誰しもが想定していなかっただろう。


「(なるほどっすね)」


 そして――バントの構えを確認した津上は、見切り発車でスタートを切った。

 未警戒、かつ鈴木なら確実に決める。そう判断したのだ。


 白球は外角高めに吸い込まれていく。

 咄嗟に外したであろう球。しかし、その外し方はあまりにも甘い。

 鈴木は寝かせたバットで捉えると、打球は一塁方向に転がっていった。


「くそっ」

「ひとつ!!」


 森川さんは白球を捕らえるが、どう見てもホームは間に合わない。

 諦めて一塁に送球して、勝ち越しの走者が生還した。


「おおおおお! これは決まったなー!!」

「ないすチャラ男!!」

「うぇ〜い! 今日こそヒーローっしょ!」

「俺も褒めてくださいよ」


 大歓声に包まれながら、鈴木と津上が帰ってきた。

 富士谷ご自慢の3人が、進塁打と四球と犠打で1点をもぎ取る。

 あまりにも"らしくない攻め"で、待望の3点目が富士谷に入った。

福_生000 020 00=2

富士谷002 000 01=3

【福】中里、森川―入谷

【富】柏原―駒崎、近藤


NEXT→7月30日or31日

貫禄のストックが0文字。

今晩頑張ります……!

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