16.伏兵対策
2011年7月23日。
西東京の各球場では、5回戦8試合の内の4試合が行われていた。
【八王子市民球場 第1試合】
東山大学菅尾高校―明神大学付属仲野八玉高校
「……セーフ!!」
「ええええええええええ!?」
「ああ……やっぱ明八はいつも通りだった……」
「(危なかった……。けど、こんな所で負ける訳にはいかないからな)」
明神大仲野八玉の2点リードで迎えた9回裏。
東山大菅尾は1点差まで追い上げると、尚も二死一二塁の好機を作る。
ここで明神大八玉の3番手・後田は二塁牽制で痛恨の大暴投。
反応が遅れたセンターもカバーに失敗し、走者一掃のサヨナラ牽制エラーで試合が決まった。
明仲八500 000 204=11
東山菅300 132 003x=12
【明】江口、井上、後田―舞岡
【東】藤井、板垣、勝野、本多―岩井、小寺
※
【八王子市民球場 第2試合】
早田実業高校―越堀学園高校
「早田つえー!」
「三高の独走って訳にも行かなそうだな〜」
「(これで42本目っと。松岡と木田は何本だったっけか)」
早田実業は4番・大宮の2打席連続本塁打を含む17安打で越堀学園を圧倒。
投手陣こそ失点を許すも、中野区の強豪相手にコールドで試合を決めた。
早実332 215=16
越堀200 001=3
【早】八代、北村―長谷川
【越】佐藤、石井、佐藤、石井―中津川
※
【市営立川球場】
都東大学亀ヶ丘高校―都立江狛高校
「なるほど、これは上位で消えるな」
「いいスライダー持ってるね。2年で最速146キロ出ているし、投手がダメでも打者として潰しが効く」
「(いや、木田と柏原の両取りできれば勝吉は要らないな)」
都大亀ヶ丘の先発・勝吉が投打で躍動。
投げては9回11奪三振、打っては勝負所でスリーランホームランを放ち、スカウト達の視線を釘付けにした。
江_狛100 000 000=1
都大亀001 050 01x=7
【江】武内―本村
【都】勝吉―長田
※
【府中市民球場】
創唖高校―都立八玉北高校
「創唖は2年中心なのに安定してるなぁ」
「今日も創唖大勝利や! このまま甲子園のアルプスを三色旗で埋めるで〜!」
「(三高いるし無理だろ)」
創唖は2年生5人、1年生2人がスタメンに並ぶ編成ながら、夏は侮れない八玉北に完封勝ち。
これで7月23日分の計4試合が終わり、ベスト8の内4校が決まった。
八北000 000 000=0
創唖100 120 00x=4
【八】田中、石岡―山寺
【創】畑森―小松
※
世間が5回戦で盛り上がる中、富士谷高校では福生対策に明け暮れていた。
桐山さん、森川さん、そして中里。3投手の特徴に合わせて、ピッチングマシンと打撃投手を設定する。
先ずは先発が予想される桐山さん。
キレのあるストレートと縦スライダーが武器という事で、特徴が近い梅津を打撃投手に任命した。
球速は実物より一回り遅いが、そう簡単に完全再現できたら苦労はしない。
次にリリーフしてくるであろう森川さん。
力のある速球に加えて、スローカーブ、カットボール、スプリット、そして奇襲でナックルも投げてくる。
速球はアウトローに良く決まるとの事なので、マシンをアウトローに設定して打ち込んだ。
最後に中里だが、実はここまで一度も登板していない。
ただ、先日はブルペンで少しだけ投げている。それは選手達も目撃していたので、中里対策に関しても合意を得られた。
さて――その中里だが、オーバースローとサイドスローを使い分ける変則右腕である。
オーバースローでは最速136キロ。フォークとチェンジアップで三振も奪える。
一方、サイドスローは125キロ前後で、スライダーやシンカーを投げるらしい。
「ブルペンでサイドなんてやってたっけ?」
「一球だけやってたんだよ。結構いい球投げてたぞ」
「(見てない……)」
「(まあ柏原くんが言うなら見たんだろうね)」
ブルペン見せたのはオーバースローのみ。
しかし、ここでサイド対策を怠る訳にはいかないので、1球だけ投げていたと言い張る事にした。
もう一つ、情報源は全て恵であり、俺も中里の実力は存じ上げない。
「中里、登板するかな〜?」
「しない可能性の方が高いと思うけど、一応な」
練習の合間、恵とそんな言葉を交わした。
本来の中里は肩に違和感があり、2年夏は内野手投げしか出来なかったと聞いている。
登板する可能性は低いと思うが、奇襲を懸念しての対策だった。
「だよね〜。ま、出たらトラウマになるくらいボコボコにしちゃお!」
「お前、中里に何されたんだよ……」
恵は軽いノリでそう語っていた。
富士谷の本来のエース・中里隆史。そして相沢が気迫を評価した森川純平。
隠れた名手達との対決は、明日、八王子市民球場にて行われる。
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