11.前年王者vs恐怖の伏兵
西東京大会4回戦
7月21日(木) 多摩一本杉公園野球場 第2試合
都東大学第二高校―都立福生高校
スターティングメンバー
先攻 都大二高
二 ④大浦(1年/右左/180/75/高崎)
中 ⑧折坂(2年/左左/173/73/武蔵野)
三 ⑤相沢(2年/右左/173/70/所沢)
左 ⑨横田(3年/左左/182/87/杉並)
一 ③湯元(2年/右左/181/75/練馬)
右 ①大野(3年/右右/170/71/杉並)
捕 ②岩田(2年/右右/172/80/杉並)
遊 ⑥八谷(3年/右右/175/72/練馬)
投 ⑳田島(1年/左左/178/66/目黒)
後攻 都立福生
捕 ②入谷(3年/右右/170/65/福生)
二 ④正津(2年/右左/169/58/福生)
遊 ⑥中里(2年/右左/180/68/立川)
一 ③森川(3年/右右/181/82/立川)
投 ①桐山(3年/右右/178/67/あきる野)
右 ⑳水口(1年/右右/177/74/武蔵村山)
中 ⑧福島(3年/右右/168/61/羽村)
三 ⑤大山(3年/右右/175/83/昭島)
左 ⑦山我(3年/右左/165/57/福生)
多摩一本杉球場に辿り着くと、中からブラスバンドが奏でる紅が聞こえてきた。
俺達は慌てて入場する。三塁側の席を選んで、恵と二人で腰を掛けた。
「きゃー! トカゲがいるううう!」
「とんでもなく田舎だからな。トカゲくらい出るよ」
恵はギュッとしがみ付いてくる。
尻尾の青い蜥蜴――ニホントカゲの幼体は、素早い動きで走り去っていった。
多摩一本杉球場は緑に囲まれている。
それも八王子市民球場の比ではなく、虫に蜥蜴に蛇と様々な生き物が生息している程だ。
上柚木と並ぶド田舎であり、とても首都東京とは思えない。
「できりゃバックネット裏で観たかったな」
「まー私達は怒られちゃうからね〜。けど安心して! バックネット裏に瞳姉を置いてきたから!」
「だからこそ自分の目で観たかったんだけどな……」
ちなみに、現役部員はバックネット裏での観戦を禁じられている。
一三塁側からのビデオ撮影は出来るが、正史通りなら来年から禁止になる予定だった。
さて――試合の方はと言うと、一死一塁で相沢の打席を迎えていた。
福生の先発は桐山さん。スラッとした体格からキレのあるストレートを投げている。
「わあああああああああ!!」
「ないばっち相沢ー!!」
五球目、相沢はセンター前に弾き返した。
流石と言わざるを得ないバッティング。ただ、相沢にしては地味な打球とも言える。
やはりと言うべきか、相沢の弱点は対戦機会の少ない投手なのだろう。
富士谷なら堂上。ローテーション的にも5回戦は堂上なので、順当に行けば次は彼が先発で良い。
一死一二塁で続く打者は横田さん。
初球を弾き返すと、痛烈な打球が二遊間に転がっていった。
しかし――。
「おおっ!」
「うめぇー!」
ショートの中里はギリギリで打球を捕らえた。
流れるようなトスで二塁はアウト。セカンドの正津は一塁に放り投げる。
「……ッアウトォー!!」
セーフに見えたが、一塁審の右腕が挙がって併殺完成。
三塁側、福生高校スタンドからは大歓声が巻き起こった。
「中里うめーじゃん」
「まあ怪我さえ無ければ良い選手だよ、ほんと……」
中里は流石と言うべきか。
恵が認めるだけあって、動きそのものはハイレベルである。
1回裏、都大二高のマウンドには、1年生左腕の田島が上がった。
彼は中学の東東京選抜に選ばれている。また、正史では他県の強豪でエースになり、全国大会では都大三高に好投していた。
都大三高に勝つ事に重点を置いた、相沢らしい補強と言えるだろう。
福生の先頭打者は入谷さん。
初々しい1年生に対して、セーフティバントの構えで揺さぶってきた。
田島は球が浮いてしまいボール。結局、この打席はストレートの四球となった。
続く打者は正津。初球からピッチャー前に転がした。
二塁でアウトが取れそうな当たり。しかし――田島の送球は逸れてしまい、オールセーフで無死一二塁となった。
「あーあ、自滅してんじゃん」
「二高は何でエース温存してんだろ〜」
「たぶん田島をエースに育てたいんだろ。相沢も「折坂や大野さんじゃ物足りない」ってボヤいてたしな」
田島は投げている球自体は非常に良い。
ここから見ても回転数が高いのは分かるし、スライダーも良くキレている。
ただ、制球やフィールディングはまだ粗い。この隙は対強豪だと命取りになるだろう。
『3番 ショート 中里くん。背番号6』
ブラスバンドが奏でる青春ラインと共に、中里が左打席に入った。
スラッとした体格で、どことなく身体能力の高そうな雰囲気がある。
「中里って具体的にはどんなタイプなん?」
「ん〜、打つ方は中距離打者かな。二塁打とか三塁打が多かったと思う。守備は範囲広いけどミスも多いかな〜」
「なるほど、パワーフォルムの渡辺って感じだな」
そんな言葉を交わしている内に、中里は二球目を鋭く振り抜いていた。
捉えた打球は二塁手の頭上を超えていく。右中間へのタイムリーヒットとなり、一塁走者は三塁まで進塁した。
『4番 ファースト 森川くん。背番号 3』
無死一三塁、尚も追撃の好機で4番の森川さん。
ブラスバンドが奏でるさくらんぼと共に右打席に入る。
「あ、いつも延長で投げてた人だ」
「そうそう。クソ待たされた時の保野戦と、俺がノーノーした後の石倉戦。あと恵は居なかったけど、春の桜美大町田戦も延長まで投げてたんだよな」
森川さんと言えば、やたらと延長で投げていた記憶がある。
それなのに――最後の夏は背番号3なのだから、あまりにも報われなさ過ぎだろう。
「……どっしりしてて良い構えだな、都立の選手とは思えねえ」
「ねっ! どのーえに似てるかも」
森川さんはオープン気味にバットを構えた。
初球、田島はセットポジションから腕を振り下ろす。
キレのある速球は高めに浮くと、森川さんは豪快なスイングで白球を捉えた。
「えっ……まじ……?」
「嘘だろ……」
その瞬間――俺と恵は言葉を失った。
完璧に捉えた当たりは、高々とレフト方向に上がっていく。
そして――レフトの横田さんは諦めると、91mと書かれたフェンスの先に落ちていった。
「よっしゃあああああああ! 勝てるぞおおおおおお!」
「森川やるじゃん! かっこいいー!」
4番・森川さんのスリーランホームランで4点目。
自滅も絡んだとはいえ、これには俺達も驚きを隠せなかった。
「森川さんナイスっす!」
「うい。ま、予定通りってヤツよ」
「ははは、よく言いますね〜」
森川さんは中里と右手を交わしていた。
続けて此方を見上げると、森川さんは口元をニヤリと歪める。
「……今、目合ったよな?」
「気のせいでしょ〜。ここ福生側だし、近くに友達か彼女が居たんじゃないの〜」
なんとなく目が合った気がしたが、恵には軽く流されてしまった。
なんにせよ、これで福生の4点リードだ。もしかしたら、この試合で波乱が起きるかもしれない。
都大二高0=0
福__生4=0
【都】田島―岩田
【福】桐山―入谷
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