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5.エースになる筈だった男

3話にて駒崎の打順が飛ばされてた誤植を地味に修正しておきました。

 西東京大会2回戦の全試合が終わる頃、俺と恵は何時もの喫茶店を訪れていた。

 その理由は他でもなく、正史と状況が変化している高校を特定する為だ。

 去年の二の舞は絶対に踏みたくない。その為にも、正史と今回を比較する必要があった。


「なかなか無いね〜。私達の影響力なさすぎない?」

「細かい部分は変わってんのかもよ」

「勝敗覆るくらい変わらないとつまんないよ〜」


 俺達は正史ノートと今回の結果を見比べた。

 ただ、正史ノートは恵の記憶を頼りに執筆されているので、無名校同士の試合はイニングスコアの精度が低い。

 勝敗に関しては自信があるとの事なので、勝敗の確認だけを行っていった。


「あ、比野台勝ってる!」

「正史では初戦負けだったのか」

「そうそう、なっちゃんとのもっち喜びそう〜」

「まあ5回戦までは来ないだろうけどな」

「それでもだよ。相手はまあまあな所だしね〜」


 よく探してみると、勝敗が変わっている箇所が幾つかあった。

 尚、該当する試合は下記の通り、カッコは正史の結果(ただし恵の曖昧な記憶)である。



【1回戦】

福生2―1武蔵境北(福0―1武)


【2回戦】

比野台3―0真央大杉並(比2―8真)

八玉学園5―2松が崎(八4―5松)

江草4―1翔揚(江2―5翔)

福生5―0桜美大町田(武1―11桜)



 比野台、八玉学園、江草は何れも試合で接触した高校だ。

 比野台と江草は正史でも対戦しているので、俺の投球が影響を与えたのだろうか。

 自分の影響力を少しばかり痛感する。


「……福生だけは接触が無いな」


 ふと、一つだけ不可解な点に気付いた。

 この中で福生だけは対戦経験が無い。結果が変わった事に違和感を感じる。


「あー、けどウチと試合が被ってること多くなかった?」

「夏と秋は同じ日に八王子市民だったな。あと春は相手が勝ってりゃ当たる可能性あった」


 恵の言う通り、福生とは試合会場が何度か被っていた。

 ただ、それでも違和感は拭えない。他の高校は全て接触済だったから尚更だ。


「……なんか怪しいな。恵、選手名簿」

「持ってきてるけど……警戒し過ぎじゃない?」

「福生は好投手が2人いるからな。都立で2枚揃えてんのは富士谷か福生くらいだし、ここは侮れないよ」


 俺はそう言って一息吐いた。

 福生は中堅くらいの都立だが、今年は二人の好投手を擁している。

 去年から主戦の森川さんと、怪我から復帰した桐山さん。

 何方も180cm近い右腕で、都立にしては体が出来ている。


「あ、私も名前だけは知ってるよ、森川さんと桐山さん。どんな投手かは知らないけどね〜」

「俺も知らん。早期敗退が多すぎて露出が少なすぎるからな。まあ森川さんは内野席から見た事あるけど」


 さて――この森川さんと桐山さんだが、彼らは所謂「ツチノコ」である。

 それもパウル聖陵の立川とは違い、好投手として名乗りを挙げながらも、運悪く早期敗退が続いて人目に触れなかったタイプだ。


「まあ不気味っちゃ不気味だね〜。はい、選手名簿」

「さんきゅ。転生者は居ないと思うけど一応な」


 俺は恵から選手名簿を受け取る。

 福生のページを開くと、その異変には直ぐ気付いた。


「……理由は思ったよりシンプルだったわ」

「え、なになに。教えてよ〜」

「ほら、福生の背番号6を見てみろ」


 俺はそう言って選手名簿を見せる。


「あっ、中里……!」


 恵は覗き込むと、開いた口を右手で抑えた。

 福生の背番号6は中里隆史。正史では富士谷のエースだった男である。

 今回は俺や鈴木が入った影響で、富士谷の野球推薦から漏れてしまった。


「はぁ〜、本来は富士谷にいた中里が、今回は福生で活躍して勝ったって事ね〜」

「恐らくな。ってかショートも出来んのか。どんな選手だったん?」


 中里に関しては恵が詳しい。

 そう思って恵に問い掛けてみる。


「最大瞬間風速なら強豪でも中心選手になれるって感じかな、投打どっちもね」

「最大瞬間風速ぅ?」

「そうそう、最大値は上手いの。ただ1年のうち300日くらい怪我しててさ〜、肩痛くて上から投げれないとか、足痛くて全力疾走できないとか、そんなんばっかりだったよ!」


 恵は半笑いで語っていた。

 これに関しては俺にも心当たりがある。というのも、中里は毎回1番で登録されていたが、俺の知る限りだと最後の夏しか登板していない。

 つまるところ、彼もツチノコだったのだ。


「ふーん。じゃあベストの状態なら上手いんだ」

「うん。正直、ナベちゃんやのもっちより上手いと思うよ。ただ正史で聞いたけど、野球推薦の日も足痛かったらしくてね〜」

「そりゃ俺らの玉突きで落ちる訳だな……」


 俺は思わず苦笑いを浮かべてしまった。

 味方としてはポンコツだが、ベストな状態では敵に回したくない。

 それが中里隆史という男なのだろう。


「ま、中里が上手いのは分かったわ。ますます福生は油断できないな」

「そうだね〜。福生って当たるとしたら何回戦だっけ?」

「どうだったかな」


 俺は選手名簿の最初のページ、今大会のヤグラを開いてみる。


「……当たるとしたら5回戦だって」

「なーんだ、じゃあ無いじゃん。流石に二高には勝てないでしょ〜」


 恵は少しだけ残念そうに言葉を溢した。

 福生と当たるとしたら5回戦。ただ、4回戦で都大二高と当たる組み合わせだ。

 都大二高は正史ではベスト4。それも今回は相沢を擁している。


「どうだろうな……」


 ただ、俺は答えを濁してしまった。

 福生は3人のツチノコを擁している。そして――相沢の天敵となり得るのは、周回中に対戦出来なかったツチノコなのだ。


「ま、どのみち先の話だな。先ずは目先の大平と向き合おう」

「そうだね〜。去年ベスト16で4番とバッテリーが残ってるんだっけ?」

「いや4番は……」


 そんな感じで、話題は3回戦の大平高校へ移っていった。

 次の相手も気が抜けない。一つずつ、確実に前へ進んでいこう。

NEXT→7月8日(木)

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― 新着の感想 ―
[一言] 三人のツチノコ。 なんか強そう。
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