表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
196/699

23.抽選会、そして――

 2011年6月18日。

 今日は蒼山学院の体育館にて、全国高等学校野球選手権西東京大会・東東京大会の抽選会が行われる。

 会場に向かったのは瀬川親子と阿藤さん。富士谷に残った面々は、阿立新田高校との練習試合を行った。


「今年は楽できるといいなー」

「実にくだらん。何処が相手でも勝てば良いだろう」


 練習試合に勝利した後、俺達は抽選結果の報告を待つ事になった。

 さて――今年の組み合わせだが、正史通りになれば序盤は強豪と当たらない。

 問題は「正史通りになるのか」という部分だが……恐らく正史通りになると思われる。


 今までの経験上、籤を引く順番と人間が同じなら抽選結果は変化しない。

 今大会は全校ノーシード。そして富士谷は正史でも主将変更で阿藤さんが引いている。

 引き手の環境は変化したが、去年の孝太さんは正史通りの籤を引いたので、たぶん問題ないだろう。


「ドキドキするねっ」


 そう言って肩を叩いてきたのは琴穂だった。

 相変わらずクソ可愛い。最近前髪に付けてくるヘアピンも個人的にツボである。


「ああ。ってかそれ似合ってるね」

「そう? えへへ〜、ありがとっ」


 褒めてあげると、琴穂は嬉しそうに笑みを溢した。

 最近の琴穂は、以前にも増してお洒落に気を使っているように見える。

 非常に喜ばしい事だが――もし男の影があるようなら、その男とは決闘も辞さないな。


「……イチャついてるとこ申し訳ないんですけど、恵さんから連絡きましたよ」

「来たか。見せてくれ」


 そんな事を思っている内に、恵からの連絡が来たようだ。

 金野からアイフォンを借りる。そして画像を確認すると、正史通りである事が確認できた。


 さて、今年の富士谷は2回戦からの登場だ。

 初戦の相手はパウル聖陵学園。相手も2回戦からなので、お互いに初戦という事になる。


「パウル聖陵って聞いたことないな〜。強いの?」

「クソ弱い! っしゃー、今年はついてるぜー!」


 抽選結果を受けて、京田は渾身のガッツポーズを掲げていた。

 この時代のパウル聖陵と言えば、初戦コールド負けの常連校という印象が強い。

 弱すぎて危ないという理由で、軟式野球部への変更を打診された逸話もあるくらいだ。


 ただ、このパウル聖陵は2年前に指導者が変わっている。

 その際に野球推薦も取り入れられて、野球部強化に取り組んでいる所だった。


 去年は籤運に恵まれず、今春もブロック予選中止で息を潜めていたが、実力的には中堅校で間違いない。

 事実、正史の富士谷は負けている。今の富士谷なら負けないと思うが、油断していると足を掬われるだろう。


「その次は大平かな。去年ベスト16だし」

「八玉実践もいるなー。エースが140キロ投げるんだっけ?」

「八実っていつも強い強い詐欺じゃん。勝ち上がってるところ見たことねぇ」


 ちなみに3回戦は都立大平高校、4回戦は八玉実践高校の予定だ。

 何れもベスト8を狙う中堅校。悪く言えば気が抜けない、良く言えば調整には都合の良い中堅校が続いていく。

 そして5回戦は――。


「げ、5回戦で都大二高かよ!」

「去年のリベンジマッチだね。けど僕的には比野台が来て欲しいなぁ」

「福生もいい投手がいるって聞くけど……まあ都大二高だろうなー」


 正史通りであれば、相沢を擁する都大二高が勝ち上がってくる。

 昨夏のリベンジマッチ。練習試合は再三と組んでいるが、正式に孝太さんの仇を討つ絶好の機会だ。


「都大三高、早田実業は揃って逆側かー」

「なかなか早田とは当たらないな。まあ当たりたくねーけど」

「学院の方の早田ならこっち側にいるぜ。準々で当たるかも」

「早田学院って強いの? ってか、そのヤマは久山だろー」


 選手達は早くも先の話をしている……が、夏は何が起こるか分からない。

 準々決勝以降は一旦割愛。足を掬われないよう、常に一戦必勝で臨みたい所である。





 抽選会から数日後、選手達には背番号が配られる事になった。

 集合場所は小体育館。全選手を集めて、瀬川監督が一人一人に手渡して行く方式だ。


「1番、柏原」

「はい」


 先ずはエースナンバー、当然ながら俺だった。


「2番、近藤」

「あっす! (っしゃ、勝ったか!?)」


 次に捕手、ゴリラはニヤける顔を必死に抑えている。


「3番、鈴木」

「うぃ〜っす」

「4番、阿藤」

「はい!」

「5番、京田」

「しゃっす!!」

「6番、渡辺」

「はい」


 6番まで配られると、近藤の表情から笑顔が消えた。

 なんてことはない、津上が6番までに入っていなかったので、一桁番号=レギュラーではないと気付いたのだろう。


 そんな感じで、次々と背番号が配られていった。

 尚、結果は下記の通りである。



①柏原 ⑪梅津

②近藤 ⑫駒崎

③鈴木 ⑬中道

④阿藤 ⑭大川

⑤京田 ⑮津上

⑥渡辺 ⑯卯月弟

⑦田村 ⑰戸田

⑧野本 ⑱中橋

⑨堂上 ⑲高松

⑩芳賀 ⑳松井



 やはりと言うべきか、そこに島井さんの名前は無かった。

 それと上野原ではなく高松が選ばれたのは、前半戦の内野手不足を懸念しての事だろうか。

 なんにせよ、これが現状のベストメンバーだ。今大会は上記の20人で戦うしかない。


「かっしーおつ! 少し時間ない?」


 その日の練習後、恵と少しだけ話す機会があった。


「ん、どうした」

「私ね、記録員を島井さんに譲っちゃった」


 その報告を聞いて、俺は思わず目を丸めてしまう。

 今年は瀬川監督のラストイヤー。恵としても、本当は一緒に居たかっただろう。


「勿体ないな。夏美に譲ってもらったんだろ?」

「ううん。だって私達には秋もあるし。島井さんは遠慮してたけど、そこは最後の人に入ってもらおうって事で」

「本当にそれでいいのかよ。ってか島井さん字書けんの?」

「両投両打の練習の延長で、箸やペンも左手で使ってたらしいよ。皮肉にも練習の成果が活きる的なね〜」


 恵は冗談っぽく笑みを溢した。

 恐らく、これは彼女なりの罪滅ぼしだ。歴史を変えて、島井さんから背番号を奪ってしまった事への。


「ねね、ところで今大会の目標は?」


 ふと、恵は話題を切り替えてきた。

 そういえば去年も聞かれた気がする。そして俺は優勝すると答えた。


 さて、今年の目標は――既に決めている。

 それは漠然としているけど、明確な理由のある目標だった。


「そうだな、国体に出よう」


 俺はそう言うと、恵は小さく笑みを溢した。

 国体とは、選手権上位の高校+αで行われる大会である。

 開催時期は10月上旬。俗に言う「甲子園大会」の後に行われる、非常に影の薄い全国大会だ。


 出場までの道は険しく、その割に地方大会よりも盛り上がらない。

 それでも――国体はハイレベルな全国大会。そして10月なら島井さんも間に合う。


「ふふっ、島井さんを公式戦に出そうって事ね。地域性とかも考慮されるんだっけ?」

「ああ。だから具体的な数字は何とも言えねーし、前提として西東京大会優勝はマストになるな」

「いいじゃんいいじゃん。お父さんにとっても最後の夏だし、行けるとこまで行っちゃお〜!」


 恵は嬉しそうに笑みを溢していた。

 俺達は歴史を変えて、島井さんの背番号を奪ってしまった。

 それなら――俺はもう一度歴史を変えて、再び彼に背番号を与えよう。


 たった一度の2011年の夏。

 東京の開会式は7月9日に行なわれる。

これで4章完結です。

ここまでお付き合いありがとうございました。


5章は7月3日、現実の東西東京大会の開幕に合わせて投稿予定です。

その間に富士谷高校&西東京のライバル選手の紹介と、余裕があれば閑話を1つ投稿するかもしれません。


最後になりましたが、いつもコメント、ブックマーク、評価ありがとうございます!

今後も可能な限り、日刊に近いペースで投稿できるよう頑張りますので、これからも応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ