表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/699

4. 遊びじゃない

 まだ少し桜の舞う4月中旬の日曜日。

 富士谷の上級生と1年生は、さながら敵同士のように別行動でアップを行っている。

 今日は待望の紅白戦。昨日は上級生だけ都大二高Gで合同練習を行い、1年生は富士谷Gに残って連携の確認をした。


 さて、今日の概要についてだが、1試合目は1年生選抜vs上級生の割とガチめな対決だ。

 ただし上級生は本職禁止。7回以降でビハインドになった場合のみ、本職を守って良いという縛りがある。


 尚、2試合目は控え1年生による紅白戦。

 こちらはそんなに興味ない。即戦力は1試合目で試して貰う予定なので、恐らく割愛する事になるだろう。


「じゃースタメンを発表するよっ!」

「ちっちゃい監督だなぁ〜」

「なんかこども店長みたいだね」

「そ、そんなに小さくないしっ」


 ちなみにAチームの監督は琴穂。

 何を血迷ったのか、経験者の夏美が「スコアブックは任せろ」と言い出して、監督業を丸投げするに至ったのだ。


「なぁ卯……夏美、流石にそれはクソだな??」

「わ、分かってるよ! だからスタメンは私が考えただろ!」


 ちなみにスタメンだけは夏美が考えた。

 そして俺はベンチである。新入生をじっくり吟味したかったので、外して貰うようお願いしておいた。

 尚、両軍のスタメンは下記の通りとなった。



【Aチーム】

(遊)堂上

(二)田村

(右)渡辺

(左)鈴木

(一)野本

(中)阿藤

(捕)島井

(三)近藤

(投)京田


【Bチーム】

(二)大川※

(中)中橋

(遊)津上※

(投)芳賀※

(捕)駒崎※

(一)中道

(左)戸田※

(右)上野原

(三)卯月弟

※は野球推薦



 Aチームの先発は京田。オーソドックスな右腕なので1年生を試すのには丁度良い。

 ここから島井さんや田村さんへとグレードアップし、それでも攻略されたら俺か堂上が出る。


「っしゃー! 絶対勝つぞー!!」

「よっしゃい!!」

「かっしーさんを引き摺りだそうぜー!」


 三塁側ベンチ、1年生選抜の面々はやたらと気合が入っていた。

 どうせ恵が「勝ったらご褒美上げるよ〜」とか言ったのだろう。


「整列。これより富士谷Aと富士谷Bの試合を始める。礼」

「おっしゃあす!!」


 午前9時半、瀬川監督の合図で試合が始まった。

 ちなみに畦上先生はネット裏。メモとスピードガンを持っている。

 今日の2試合で正式なAチームのメンバーを決めるのだろう。



 1回表、富士谷Aの攻撃は堂上から。

 マウンドには大型左腕の芳賀。少しキョドりながら足場を慣らしている。


「なんで堂上が1番なんだ?」

「一番打たせろってアイツが言ったんだよ」

「ちゃんと聞いてあげるあたり優しいな……」

「べ、別に何でもいいだろ!!」


 素直じゃない夏美助監督を他所に、堂上と芳賀の対決が始まった。

 芳賀は球こそ速いみたいだが、ノーコンな上にキレも無いように見える。


「ボール、フォア」


 先ずは四球。これは早めに降ろされるかもしれない。

 球速だけ確認したいので、バックネット裏に遊びに行ってみる。


「球速どうっすか?」

「136キロ出てるな。左だし十分速いぞ」

「かなり粗削りですけどね。ちょっと変化球も見ていきます」


 次の打者は田村さん。初球からバットを寝かせて送ってきた。

 芳賀が捌いて一塁はアウト。ノーコン大型左腕の割にフィールディングは落ち着いている。


 一死二塁となり、迎える打者は高打率の渡辺。

 彼を抑えたら大したモノだ。そう思いながら勝負を見守る。


 先ずは132キロのストレート。

 枠には入ったが、セットだと置きにいっているように見える。


 次はスライダー。余裕のワンバウンドでボール。

 これは112キロ。スライダーにしてはだいぶ遅い。


「(打てるね。悪いけど右中間まで持っていくよ)」


 三球目、そろそろ渡辺も振ってきそうな頃。

 芳賀はインステップ気味に踏み込むと、腕を横から振り抜いてきた。


「(えぇ!?)」


 それは――ド真ん中の127キロだった。

 渡辺は合わせてバットを振り抜く。唐突なサイドスローに驚いたのか、センターの真正面に飛ばしてしまった。


「アウト!」


 センターライナーで二死二塁。

 即席サイドの1年生にしては速かったが、どう見ても試合で常用できる技ではない。

 その場凌ぎも良いところである。


 さて、次は富士谷屈指の強打者・鈴木。

 彼には下手な小細工も通用しない。今度こそ年貢の納め時になるだろう。

 しかし――。


「ボール、フォア」


 敬遠気味の四球で二死一二塁。

 俺は思わず恵を睨むと、彼女は得意気なドヤ顔を返してきた。


 コイツ――本気で勝ちに来てやがる。

 新入生の純粋な力量を測るとか、そんな事は一切考えてない。

 ナチュラルに1年生選抜で俺達に勝とうとしてるのだ。


「畦上先生、良いんですか……?」

「力は練習でも見れるからな。駆け引きの上手さは試合でしか見れねーし、こういうのも良いんじゃないか? はっはっはっ」


 畦上先生は上機嫌で納得していた。

 そんな言葉を交わしている内に、野本は三遊間に強めの打球を放っている。

 抜けるか抜けないか際どい当たり。津上は逆シングルで捕らえると、弾丸のような送球が一塁手を襲った。


「ア、アウト!」

「津上うめー! 仲間で良かったー!」

「この程度なら余裕だわ。さ、お前ら俺の前に塁出ろよ」


 津上の好プレーでスリーアウト。

 此方は打順も守備もナメプだと言うのに、相手は起用からプレーまで大マジである。


 まあ……1年生の力量を測るのには丁度良いか。

 そう自分に言い聞かせながら、富士谷Bの攻撃を見守る事にした。

富士谷A軍0=0

富士谷B軍=0

【A】京田―島井

【B】芳賀―駒崎


NEXT→6月9日(水)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ