表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/699

17.四度目の夏が始まる

 6月も下旬に入り、カーディガンを脱ぐ女子生徒が目立つようになった。

 金城――いや、琴穂もその例外ではなく、最近はポロシャツを着て来るようになった。

 相変わらず色は日替わりで、どの姿も似合っているが、個人的には白色が良いと思う。


 先日、新たにマネージャーに加わった琴穂だが、取り合えずは怪我が完治するまで野球部に在籍し、その後の事は治ってから決める事になった。

 やはり、まだバスケに未練があるのだろうか。未練があるのなら戻ったほうがいいと思うし、俺も背中を押したいと思う。

 この結果について、恵は「かっしーにしては上出来だね」「まあ後は任せて!」と、やたら得意気に語っていた。


 最近、マネージャー達は、大きな厚紙にカラフルな文字を描いている。

 この厚紙は、応援席に応援曲と選手名を伝えるカードで、これを見ると夏が始まると実感する。


「ねね、二人は応援曲なにがいい?」


 休憩中、恵は俺と堂上にそう尋ねてきた。


「ほう、それは何でもいいのか?」

「うん、今ならリクエストも間に合うってよ~」


 堂上が珍しく食い付いた。

 曲とか拘るタイプなのか、意外だな。

 すると堂上は一切表情を変えずに、


「ふむ……ならば怪盗少女を所望しよう」


 なんて言うものだから、俺と恵は吹き出してしまった。

 少しは自分のイメージを大切にしろよ。意外すぎるだろそれは。


「へー、そんな曲あるんだな」

「知らなかったー!」


 俺達に大ウケした反面、卯月と琴穂の反応は薄かった。

 無理もない、この曲が全国的に有名になり、高校野球の準定番曲になるのは、もう少しだけ先の話だ。


「よく知ってるな……意外とアイドルとか好きなのか?」

「悪いか? アイドルの多くは容姿と歌声に優れている。魅力に思うのは自然な事だろう」


 堂上は無表情で言い放った。

 コイツでも人並みに音楽や異性に興味を示すんだな。

 意外と言っては失礼かもしれないけど、あまりにも意外すぎる。


 そういえば、堂上の野球以外の趣味を知らなかったな。

 いや、堂上だけじゃない。近藤以外の選手の趣味を聞いた事がない。


 大会が終わったらもう少し親睦を図ろう。

 特に、推薦組はどんな口車に乗せられて「女神ゴッコ」に釣られたのか気になる所だ。


「ふふっ……か、かっしーはどうする?」


 笑いすぎだろ恵。いや気持ちはわかるけど。


「んー、定番のやつならなんでも」

「つまんないのー、みんなそう言うんだよね~」


 どうせ打席に入ったら応援曲どころじゃない。

 それに俺達はまだ1年生。転生者の俺はまだしも、皆はまだピンと来ないだろう。

 ちなみに、正史では、一貫して「さくらんぼ」だったけど、これも裏方に一任して決まったものだった。


「じゃ、俺が決めるわ。恵ちゃん膝とペン貸して~」

「ペンはいいけど膝は貸せないなぁ」

「いいじゃんいいじゃん、減るもんじゃないしさぁ~」

「だーめーでーすー!」


 結局、堂上以外は鈴木チョイスで決まる事になった。





 週末、蒼山(あおやま)学院の体育館で、全国高等学校野球選手権西東京大会・東東京大会の抽選会が行われた。

 抽選に行ったのは孝太さんと卯月。残された人間は都立鷺谷高校との練習試合に勝利し、着替えてから結果を待つ事になった。


「孝ちゃんパイセン、いいクジ引けっかなぁ~」

「実にくだらん。どこが相手でも勝てばいいだけだろう」


 鈴木と堂上がそんな会話をしていたが、俺は既に結果を知っている。

 厳密に言えば恵にネタバレされた。なのでドキドキもクソもない。


「もうすぐじゃない? 楽しみだね~」


 白々しい演技だな、恵。

 ちなみに、恵の夏服はポロシャツだったりYシャツだったりするが、一貫して水色の服を着用している。

 下品な話になるが、階段で下着が見えた時も水色だった。春はカーディガンも水色だったし、何か拘りがあるのだろうか。


「あ、来たよ!」


 恵はそう言ってアイフォンを差し出した。

 まだガラケーの部員が多いので、転送して共有したりはせず、皆でアイフォンを覗き込む。

 さてさて、富士谷の位置は――やはり恵の言ってた通り、あまり良い組み合わせとは言えないな。


 東西東京大会において、殆どの高校は2回戦からの出場となる。

 シード校は3回戦からで、貧乏クジを引いた幾つかの高校は1回戦からの出場となってしまう。


 残念ながら、富士谷高校は1回戦からの出場となった。

 相手は都立青瀬(あおせ)高校。正史では乱打戦の末に負ける事になるが、今の富士谷ならサクッと勝てるだろう。

 そして2回戦は――。


「ふむ、東山大菅尾か。相手に不足はないな」

「いやーヤバイっしょ、これ」


 東山(とうざん)大学菅尾(すがお)高校。

 甲子園出場経験もある強豪校で、かつて孝太さんが所属していた高校。

 そして――正史であれば今年の西東京を制覇する、この世代の王者様だ。


「ま、まあ菅尾も今年はノーシードだし……」

「つーかその先もきつくね? 八玉学園とか都大三高とかいるじゃん」


 先の事は勝ってから考えればいい。

 まずは青瀬、そして東山大菅尾だ。

 その後の相手なんて、実際に予想した高校が上がってくるとは限らない。

 ま、俺と恵は知ってるけど。


「かっしー。ぶっちゃけ、どこまで勝つつもり?」


 恵がそう聞いてきた。

 目標か。できれば現実的な目標が望ましいけど――。


「無難に一勝にしとけって!」

「敗北は許されん。優勝でいいだろう」


 京田と堂上が煽ってきた。けど俺は答えを変えるつもりはない。

 俺は孝太さんを――金城兄妹を、甲子園に連れていきたい。


「んなもん決まってるだろ、優勝しよう」

「ふふっ、流石だね」


 俺達の夏が始まる。

瀬川 武司(富士谷)

173cm85kg 監督 満59歳

甲子園に2回ほど出場している名将。

全国ではまだ未勝利の為、娘である恵と共に甲子園初勝利を挙げるのが夢。

6児の父であり、末っ子にあたる恵が可愛くてしょうがない。


畦上 翔平(富士谷)

180cm83kg 助監督 満31歳

次期監督の体育会系独身教師。

活躍する描写こそないが、一応アドバイスは積極的に行っていて、選手達からも割りと慕われている。

焼き肉を奢る事に定評があるとかないとか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ