22.強攻策vs犠打と生き様(前)
都富士谷000 00=0
聖輝学院000 00=0
【富】柏原―近藤
【聖】歳川―星野
6回表、先頭打者の野本は内野安打で出塁した。
無死一塁、迎える打者は渡辺。2番に置いているが、基本的には打たせるバッターだ。
「うーむ……送りたい所だが……」
「エンドランはどうでしょう。渡辺なら直球の空振りは滅多に無いですし、変化球の空振りなら野本は二塁まで行けますよ」
「外されるリスクがな。とりあえず初球は任せてみよう」
指導者の二人が言葉を交わす。
展開的にはバント安定だが、この打順を組んでいるからには打たせたい場面でもある。
それに1点では物足りない。ここは一気に突き放したい所だ。
「(強攻かぁ。ライト前に運んで一三塁を作りたいね)」
「(併殺は回避したい所。ゴロGOのスタートが重要になるね)」
犠打を多用する相手に対して、此方は強攻という手段を選択した。
今まで上手くいっていた2番打者の強攻策。果たして、全国屈指の好投手にも通用するのだろうか。
歳川はセットポジションから腕を振り下ろした。
外角やや高めのストレート。渡辺は上から叩くと、ライナー性の当たりが右方向に飛んでいった。
「ちょ……!」
「えぇ!?」
打球はセカンド真正面のライナー。
しかし――セカンドの石本さんはこれを落球すると、慌てて拾い上げて二塁に送った。
帰塁していた野本は間に合う筈もなく、一塁にも送球されて併殺完成。
このプレーを見て、審判一同が二塁審の近くに集まり始めた。
「あれ、何で集まってるの?」
「故意落球です。こんなんで併殺とれるなら皆やりますよ」
「けど見た感じわざとっぽくなかったよ?」
「わざとじゃなくても、ライナー落球の併殺は基本的に故意落球になるんですよ」
「へぇ〜、なるほどなぁ」
阿藤さんと言葉を交わす。
高校野球において、内野ライナー落球からの併殺は、ほぼ確実に故意落球と判定される。
例え故意ではなくても、エラーした方が得をするのは可笑しな話だろう。
と、そんな話をしている内に、電光掲示板にデカデカと「故意落球」と表示された。
渡辺はセカンドライナーでアウト。野本は一塁に戻されて、一死一塁で試合が再開される。
最悪の併殺は回避したが、結果として強攻策は裏目に出る形となった。
続く鈴木は深めのセンターフライ。またも二死一塁で俺に回ってきた。
「4番 ピッチャー 柏原くん。背番号1」
アナウンスと共に俺は右打席に入る。
マウンドの歳川は本日2被安打2与四球。そう簡単に長打が出るとは思えない。
外野手は定位置よりも後ろ側。
また、先程の故意ではない故意落球を見ても、セカンドの守備力はあまり高くない。
という事で狙いはライト方向だ。手堅いバッティングで一三塁を作りにいく。
「(追い込むの面倒くさいなぁ……常にツーストライクから始まればいいのに……)」
歳川はふてぶてしい表情を浮かべていた。
セットポジションからの一球目、いきなり鋭く落ちる球。
「ボール!」
スプリットを見送ってボール。
凄まじい落差がある。これが深く握る方のスプリットだろうか。
どちらにせよ、この球を打つ気は微塵もない。
狙いはストレート、浅いスプリット、カーブあたり。
カーブ以外は上から叩いて、カーブは手首で掬い打つ。
二球目、歳川は力強く腕を振り下ろした。
外寄りの速い球。俺はコンパクトに振り抜くと、打球は一二塁間を抜けていった。
俊足の野本は悠々と三塁まで到達。俺は一塁で止まると、バッティンググローブをコーチャーに投げ渡した。
これで二死一三塁、迎える打者は堂上。
取り敢えず初球で走りたい。一打2点の好機を作れるし、野本の足ならディレードスチールも狙える。
そう思ったのだが――。
「……タァイム! 打撃妨害!」
堂上は初球からフルスイングすると、バットとキャッチャーミットが接触して打撃妨害が成立した。
堂上は基本的に打席の一番後ろに立つ。そして、星野さんはスプリットの後逸を恐れて、球が落ち切る前に捕ろうとしてしまった。
この2つの要素が重なった結果、バットとミットが触れてしまったのだ。
これで二死満塁。6番打者の田村さんが右打席に入る。
2年生の中では最も期待ができる打者。先輩の意地を見せて欲しい所だ。
「(満塁だしな。ストレートに張って全力フルスイングかますぜ)」
押し出し、捕逸による得点もありえる場面。
先程の打撃妨害も踏まえると、スプリットは投げ辛いに違いない。
ここは直球一本に絞って、走者一掃を狙いたい所だ。
「(星野さんミット殴られ損じゃん……野球のルール可笑しいべ……)」
歳川はセットポジションから腕を振り下ろした。
力強い直球は外寄りに構えたミットに吸い込まれていく。
その瞬間――田村さんのバットが重なると、けたたましい金属音が球場に響いた。
「おおおおおおおおおお!!」
「いったかああああああ!?」
フルスイングで捉えた当たりは、滞空時間の長い大きな当たりとなった。
センター、ライトは足早に下がっていく。打球はまだまだ落ちてこない。
これは長打になりそうだ。
そう気が緩んだのも束の間――ライトの安西さんはギリギリで捕球すると、そのままフェンスに激突した。
「………………アウッ! アウトォ!!」
「ああー! 惜しいぃー!!」
「ライトも上手かったなー!」
右中間最深部のフライでスリーアウト。
非常に惜しかった。今のを捕られたら相手の守備を褒めるしかない。
しかし、結果として打ち取られた田村さんは、複雑な表情を浮かべていた。
「(……今の打球、一度退部せずに練習を続けてれば、柵の向こうまで飛ばせたんだろうな)」
何を考えているかは分からない。
ただ一つ言える事は、投手戦はまだまだ続くという事だった。
都富士谷000 000=0
聖輝学院000 00=0
【富】柏原―近藤
【聖】歳川―星野
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