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14.浪漫で試合は作れない

大阪王蔭0=0

都富士谷=0

【王】横波―田端

【富】柏原―近藤


投稿したと思ってたら確認画面で止まってた……。

 1回裏、マウンドには長身左腕の横波が上がった。

 193cm88kg。細長い手足から最速145キロを記録する。そしてフォークボールにも落差があるらしい。


 そんなロマンの塊とも言える横波だが、正史では一死も奪えず降板している。

 その理由は他でもない。制球とフィールディングが非常に悪く自滅してしまったのだ。


 彼を筆頭とした投手陣が大阪王蔭の隙である。

 最速150キロ右腕の高野さんは、常時135キロ前後で140キロ後半なんて滅多に出ない。

 柿本、根市は共に最速147キロ。此方はコンスタントに140キロ近く出すが、現時点では決め球がなく決定打に欠ける。

 何れも好投手に違いはないが、打線や守備と比べたら粗削りだ。


 なにはともあれ、先ずは正史通り横波を叩きたい。

 富士谷の先頭打者は野本。正史の先頭打者は四球か死球だった筈なので、球は見るように伝えてある。

 しかし――。


「ットライーク! バッターアウッ!」


 呆気なく見逃し三振。

 バックスクリーンの表示を見ると、球速表示は132キロしか出ていなかった。

 そして見るからに腕が振れていない。球を置きに行っている。


 マウンドの横波は、正史では6点差から投球したが、今回は同点からの投球となった。

 その結果、四死球や失投を恐れて慎重になり過ぎているのだろうか。


「(えっ……初球から打っていいの?)」


 こうなったら作戦変更。渡辺には打たせていく。

 巧打力のある彼なら甘い球は逃さないだろう。


「おおー!!」

「甲子園初ヒットおめ!」

「きゃー、かっこいい〜!」


 渡辺は期待に答えてライト前ヒット。

 三塁側ベンチからは珍しく「もっと腕振れぇ!」と怒号が飛んでいた。


 一死一塁、迎えるは富士谷ご自慢のクリーンナップ。

 一発は狙わない。欲張らずに弱点を確実に突いていく。


「(試合でバントとか100年振りだわ〜。勝手にやって監督怒んねーかな?)」


 3番打者は鈴木。打たせたい打者ではあるが、彼はバントも非常に上手い。

 ここはセーフティバントで走者を貯めたい所。しかし――。


「ぐえっ!?」

「……デットボォ!!」


 鈴木の胴に直撃する死球。結果オーライだが、少し怪我が心配である。

 一方、三塁側のブルペンでは、早くも高野さんと柿本が準備を始めていた。


「4番 ピッチャー 柏原くん。背番号 1」


 一死一二塁、先制のチャンスで俺に回ってきた。

 マウンドには長身左腕の横波。彼は正史でこそ5点取られているが、今回は早めに降りる可能性がある。

 後続の投手はそれなりに試合を作れるので、俺か堂上あたりで走者を一掃しておきたい。


「(監督めちゃ怒ってるやん……。そろそろ魅せなホンマにアカンな、気合い入れ直すで)」


 横波はセットポジションから足を上げた。

 枠内に来たら初球から振り抜く。そう思ったのだが――。


「ットライーク!!」


 外角低めのストレートが決まってストライク。

 球速表示は143キロ。あまりにも良過ぎる球に、体が全く反応できなかった。


「横波ー! その球やー!」

「これが流行りのギアチェンジやね〜」


 大阪王蔭のバックが横波を後押しする。

 193cmの長身から振り下ろされる豪速球。確かに、良いものを持っているのは間違いない。

 でなければ、大阪王蔭のマウンドに立つ事はできないだろう。


 しかし――ノーコンの長身本格派にとって、立ち上がりの制球は鬼門である。

 そう簡単に改善できたら苦労はしない。そして、偶然というのは何度も続かないのだ。


 狙いはストレート。低めは捨てて、真ん中から高めをスタンドにブチ込む。

 高めに浮いた変化球なら合わせて叩いて左中間だ。


 二球目、ワンバウンドする変化球は見逃してボール。

 そして三球目――真ん中高め、少し内寄りのストレートを、俺は渾身の力で打ち返した。


「おおー!」

「でかいぞ!!」


 少しだけ差し込まれた打球は、高々と右中間に飛んでいった。

 センター、ライトが下がっていく。やがてクッションに張り付くと、打球はその付近に落ちていった。


 横波の球威が勝ったか。それとも俺の力が勝ったか。

 白球の行方は――。


「うおー! 惜しいぃー!」

「走れー! ホームいけるぞ!!」


 センターのジャンピングキャッチは僅かに届かず、右中間のフェンス上部に直撃した。

 渡辺は悠々とホームに帰る。鈴木は二三塁間で様子を見ていたらしく、あっさりとホームまで帰ってきた。

 そして――。


「セーフ!」


 前が詰まってなかったお陰で、俺は三塁まで到達した。

 先制となる走者一掃タイムリースリーベース。初回から投打で存在感を見せ付けた。


「(そんなゴツくないのにパワーあるんやなぁ。今のをあそこまで運ばれたんなら完敗や)」


 横波は小さく肩を落とした。

 すると、背番号1を付けた高野さんがマウンドに駆け付ける。


 投手交代か。

 正史では5点取られるまで横波だったが、点差が点差だけに早めに切り替えたのだろう。

 しかし、富士谷のチャンスはまだ続いている。そして次の堂上は、外野フライを打つ能力はチーム1と言っても過言ではない。


「おー! あっさり!」

「富士谷打線いけるやん! 贔屓球団より繋がっとるわ!」

「なにやっとんねん! こんだけ選手かき集めて初戦敗退は許されんぞ西山ぁ!」


 堂上は簡単に犠牲フライを放って3点目。

 これで楽に投げられる。しかし、強力打線にセーフティリードなど存在しないのも事実だ。


 この3点はまだ小さい。ここまで来たら、全投手を攻略して2桁得点だ。

大阪王蔭0=0

都富士谷3=3

【王】横波、高野―田端

【富】柏原―近藤


NEXT→5月14日(金)

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