10.残り物には福が……
3月15日、選抜高校野球の抽選会が行われる事となった。
籤を引くのは島井さん。彼と瀬川監督だけが現地入りして、残りの人間はライブ配信を見届ける。
「あれ、1校もう決まってる」
「被災地だからな。福島は今バタバタしてるから、初日とかになったらキツイだろ」
「あー、なるほど」
ちなみに、被災地である聖輝学院(福島)だけは籤を引かない。
大会6日目の第1試合、1回戦最後の試合に割り振られている。
「頼む〜! 21世紀枠と当たってくれ〜!」
「どこも強そうだもんね。久々の公式戦だし、初戦は楽な所がいいな」
彼らの言う事はごもっともだ。
悲しい事に、東京の都立高校は未だ甲子園未勝利。
弱音を吐く訳ではないが、初戦は楽に戦える相手が望ましい。
「逆に引いちゃいけないのは何処だろ」
「っぱ大阪王蔭と都大三高っしょ!」
「横濱と浦学もヤバくね? 天里とか幸徳も強そう」
「前橋英徳も凄いピッチャーが居るって聞いたよ」
「くだらん。どこが相手でも勝てば良いだけだろう」
「……そもそも関東勢とは準々まで、三高とは決勝まで当たらねえからな」
抽選方法を知らない人が多いな。
選抜においては、同地区とは準々決勝まで、同都道府県とは決勝まで当たらない。
それを踏まえた上で、良い籤と悪い籤を考えていこう。
先ずは悪い籤から。
正史の選抜ベスト8の内、関東勢でないのは大阪王蔭、履秀舎、幸徳学園、枝光国際大附、亘星学院である。
この辺とは当たりたくない。特に、本来なら優勝する大阪王蔭と、大山台をボコボコにした履秀舎には注意が必要だ。
その他だと、聖輝学院、高山都大、西関は相性が悪いかもしれない。
総合力はベスト8の布陣より劣るが、4番とエース(兼任含む)がドラフト上位候補とされている。
富士谷打線が完封されて、俺が一発だけ打たれて負ける可能性は否めない。
次に当たり籤だが、21世紀枠は言うまでもなくボーナスステージ。
それと七頭、西宮埼も21世紀枠と遜色ない。この辺は引いたらガッツポーズ案件だ。
尤も、富士谷もガッツポーズされる側の高校なのだが……。
『……王蔭高校、Hブロック。30番です』
『王蔭高校は大会5日目、籤を引いていない聖輝学院と同じブロックとなりました。相手はまだ決まっていません』
そんな事を考えていると、いつの間にか抽選会が始まっていた。
さて、選抜の抽選順だが、高校数の多い地区から引いていく。
今年は8校出ている近畿から。尚、結果は下記の通りになった。
【A】1―北加古山 3―4
【B】履秀舎―6 7―8
【C】近海―10 11―12
【D】京都成英―14 15―16
【E】17―18 幸徳学園―20
【F】21―22 23―天里
【G】25―26 27―大阪王蔭
【H】29―王蔭 31―聖輝学院
余談だが、本来は出場しない王蔭から引いたので、玉突きで正史とは異なる配置になった。
続いて我らが関東勢。先ずは東京の2校がA〜DとE〜Hに分かれるように籤を引く。
『都大三高、X(A〜D)です』
『富士谷高校、Y(E〜H)です』
富士谷は後半組、つまりE〜Hの何れかに入る事が決まった。
残りの関東勢も同じ様に半々に分かれる。後半組には前橋英徳と鴨川総合が入った。
続けて、ブロック抽選→本抽選と立て続けに引いていく。
後半組は前橋英徳から。次が鴨川総合で、最後に富士谷となる。
『前橋英徳高校、Fブロック。23番です』
『前橋英徳は大会4日目第3試合、天里高校との対戦が決まりました』
『鴨川総合高校、Eブロック。17番です』
『鴨川総合は幸徳学園と同じEブロック。まだ相手は決まっていません』
さて、次は富士谷だ。
まだ相手は決まらない可能性が高いが、この瞬間はつい緊張してしまう。
『続いて富士谷高校』
島井さんがブロック抽選の籤を引いた。
続けて本抽選の箱に手を入れる。その一連の動きを見て、俺はある事に気付いた。
「今、Gブロックの箱から引いたよな……?」
「よく見えなかったなぁ。Gって近畿勢は何処がいたっけ?」
恵と言葉を交わす。
一方、画面の向こうにいる島井さんは、引き攣った顔で番号を掲げていた。
『富士谷高校、Gブロック。……27番です』
『富士谷は大会5日目の第2試合、優勝候補の大阪王蔭と対戦します』
その瞬間――京田の「あ、終わった」という呟きと共に、辺りは静寂に包まれた。
※
富士谷の対戦相手が決まった後、暫くの間は沈黙が続いた。
無理もない、相手は優勝候補の大阪王蔭。近畿大会こそ優勝を逃しているが、正史の選抜では優勝している。
「ふむ……相手に不足は無いな。名門に勝ってこそ箔が付くというものだろう」
堂上は相変わらずだった。
本当に頼もしいが、頼もしいだけで勝てたら苦労はしない。
「いや〜、やっちゃったね〜」
一方、恵は半笑いを浮かべていた。
流石に堪えているみたいだが、その表情には余裕があるようにも見える。
「勝機はあるって顔してんな」
「ふふっ、分かってる癖に」
「ま、俺は出場してたからな。この高校の事もよーく覚えてるよ」
俺はニヤリと笑みを溢すと、恵は水色のノートを取り出した。
正史の試合結果が記されたバイブル――正史ノートだ。
「ま、かっしーは死ぬほど頑張る事になるけどね〜」
「いつもの事だろ」
そんな言葉を交わしながら、恵はノートを捲っていく。
やがて選抜のページを開くと、それを俺に見せてきた。
正史では順当に優勝する優勝候補。
改めて、とんでもない相手を引いてしまったと思い知らされる。
投げる身にもなって欲しい。ただ――。
2011年 せんばつ高校野球1回戦
大阪王いん600 000 042=12
静___谷610 002 002=11
【王】横波(0)、高野(5.1)、かき本(3.2)―田ばた
【静】池山(7.1)、春田(1.2)―村木
相変わらず漢字ボロボロだな。
じゃなくて――この高校、付け入る隙は十分にある……!
【1日目】
A都大三高(東京)―北加古山(兵庫)
A西関(岡山)―枝光国際大附(福岡)
B履秀舎(大阪)―新潟文星(新潟)
【2日目】
B男満別(北海道)―川嶋(徳島)
C七頭(鳥取)―浦環学院(埼玉)
C近海(滋賀)―亘星学院(青森)
【3日目】
D京都成英(京都)―創成学園(長崎)
D高山都大(岐阜)―横濱(神奈川)
E鴨川総合(千葉)―東山大蓼科(長野)
【4日目】
E幸徳学園(兵庫)―今張西(愛媛)
F神山学園(鹿児島)―静谷(静岡)
F前橋英徳(群馬)―天里(奈良)
【5日目】
G鳴島(徳島)―北翔(北海道)
G富士谷(東京)―大阪王蔭(大阪)
H西宮埼(宮崎)―王蔭(和歌山)
【6日目】
H石国商(山口)―聖輝学院(福島)
以降2回戦