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7.出場決定……?

 2011年1月28日。

 今日、春の選抜高校野球に出場する32校が決定する。

 ちなみに、21世紀枠の関東推薦は富士谷。他の地域は正史通りの高校が推薦されていた。


「ゲームだと校長に電話が入るよな〜」

「実際も電話は来るよ。ネットとほぼ同時だから、選手はネットで見たほうが早いけどな」


 選手達は恵のアイフォンを覗き込んでいる。

 校長室は狭い上に、記者が何人か詰め掛けているので、選手が入ると非常に狭苦しい。

 かと言って、校長からの知らせを待つほど富士谷の選手はお利口ではない。

 という事で、ネットの速報を見る事になった。


「そろそろ来るぞ。更新連打しろ」

「人使い荒いなぁ……」


 恵は小さく息を吐くと、出場校発表サイトを開いて更新を連打する。


・21世紀枠(3)

男満別(北海道)


 1校目、男満別。

 オホーツク海の近くにある極寒の環境不遇校だ。


・21世紀枠(3)

男満別(北海道)

川嶋(徳島)


 2校目。川嶋。

 ここも環境不遇校。グラウンドが凄まじく狭い。

 そして3校目――。


「えっ……」


・21世紀枠(3)

男満別(北海道)

川嶋(徳島)

王蔭(和歌山)


 その瞬間――俺は言葉を失った。

 本来なら大山台が入る3枠目。そこで選ばれたのは、数年後に選ばれる筈の王蔭高校だった。

 それも今年は30年ルールが健在の中で、王蔭は30年以内に出場歴がある。


「やっぱ進学校じゃないからかなぁ……」


 恵が残念そうに呟いた。

 確かに、富士谷は進学校ではないが、選手は10人という少なさだし、正史の大山台より一つ多く勝っている。

 アドバンテージはあったと思うが――。


「きたー!」


 そんな事を考え込んでいると、京田が叫び声を上げた。

 何事だ、と思いながら恵のアイフォンを覗き込む。


「……はぁ!?」


 そして驚きのあまり、思わず言葉を漏らしてしまった。


・関東東京(6)

浦環学院(埼玉)

横濱(神奈川)

前橋英徳(群馬)

鴨川総合(千葉)

都大三高(東京)

富士谷(東京)


 なんてことはない、富士谷は一般選考で選出されたのだ。

 東京ベスト4からの選出。決勝が大差だったので無くはない話だが――この結果はあまりにも予想外すぎる。


「何故こんな事に……」

「まーいいじゃん! 選ばれたんだしさ〜!」


 恵は結果オーライと言わんばかりにハイテンションだった。

 まあ……選ばれたし何でもいいか。少し釈然としないながらも、俺は選手達とハイタッチを交わしていった。





 時間は少し遡る。

 ここは日本高野連本部。今日は選抜出場校を選定・発表する為に、役員達が集まっている所だった。


「(よし、出場校も決まってきたな)」


 長かった会議も終了を目前としている。

 しかし――ここで待ったを掛ける人物が居た。


「んほ〜、この高校たまんねぇ〜。伝統だけで抜けるわぁ」


 そう言って便所から戻ってきたのは、日本高野連の会長である。

 今日は強烈な腹痛の為、会議を急遽欠席するに至っていた。


「(うわぁ……出たよ……)」

「21世紀枠はどうなった?」

「男満別、川嶋、富士谷でいこうと思ってます」

「うーん……悪くはない選出だけど、オールドファンへの配慮が足りないよね」

「うわぁ(そうですか……)」


 今年もか……と言わんばかりに、役員達の表情が曇る。

 しかし、会長は気にする事なく言葉を続けた。


「王蔭、出したいよね」


 王蔭高校とは、和歌山県にある古豪である。

 活躍していた時期は戦前から昭和で、直近の出場は昭和60年代。

 一応、21世紀枠の近畿推薦ではあるが、当時は30年ルールが存在していた為、出場条件に見合わない高校だった。


「30年ルールに引っ掛かりますし……」

「そんなの無くしちゃえばいいじゃん」

「(まあそれはいいか)それに、今年の21世紀枠も会長好みの境遇が揃ってますよ」

「ムムムッ……!」


 会長は眉間に皺を寄せた。

 極寒の僻地、グラウンド不遇校、そして部員の少ない都立。

 確かに、今回の21世紀枠も境遇でガッツリ抜ける。


「(んほぉ〜、こっちもたまんねえなぁ。仕方がない、今年は新鋭公立で抜きまくって……ん?)」


 諦め掛けた会長。

 しかし――彼は()()()を見逃さなかった。


「……富士谷は都大会ベスト4だったよね?」

「ですね。都大三高が1点差で逃げ切りました」

「決勝はどうだったっけ?」

「7対1で帝皇が負けましたね」

「ふむふむ。ちなみに関東東京の代表は?」

「都大三高、浦環学院、横濱、前橋英徳、建大水上、鴨川総合の予定です」

「!!」


 その瞬間、会長の頭に電撃が走る。

 役員達が「しまった!」と思った時には、もう全てが手遅れだった。


「よし! なら富士谷を関東6校目で選出しよう!」

「だ、だめです! 帝皇との入れ替えならまだしも、今年は関東5校ですし――」

「いいじゃんいいじゃん。群馬に2校もいらないでしょ」

「どっちも関東大会ベスト4だったんですよ!!」

「水上は準決で8回コールド負けじゃん。まあベスト8の鴨川でもいいけどさぁ」

「鴨川は関東優勝の浦環と1点差ですし地域性も……」

「兎に角、富士谷も王蔭も男満別も川嶋も全部出そう! 伝統の古豪と新鋭公立の共演……これは面白くなるぞ!」


 会長はそう言うと、お腹を抱えながら去っていった。

 余談だが、彼の腹痛は役員の下剤攻撃によるものだった。


「なんてことだ……」

「また虐殺試合が増えるなあ。富士谷か川嶋を生贄にすれば良かったのに」

「ホントだよ! 誰だ余計なこと言ったやつ! お陰で21世紀枠が実質4校になったじゃねーか!」

「会長……おかしいですよ……」


 そんな感じで選抜出場校は急遽変更になった。

 ちなみに、正史においては「今年の21世紀枠も会長好みの境遇が揃ってますよ」の一言で変更阻止に成功している。

 これは都大会の結果が変わった事によるバタフライエフェクトだったが、柏原達が知る由も無かった。

【選抜出場校】

・21世紀枠(3)

男満別(北海道)

川嶋(徳島)

王蔭(和歌山)


・北海道(1)

北翔(北海道)


・東北(2)

亘星学院(青森)

聖輝学院(福島)


・関東東京(6)

浦環学院(埼玉)

横濱(神奈川)

前橋英徳(群馬)

鴨川総合(千葉)

都大三高(東京)

富士谷(東京)


・北信越(2)

新潟文星(新潟)

東山大蓼科(長野)


・東海(2)

静谷(静岡)

高山都大(岐阜)


・近畿(6)+神宮枠(1)

履秀舎(大阪)

大阪王蔭(大阪)

幸徳学園(兵庫)

北加古山(兵庫)

天里(奈良)

京都成英(京都)

近海(滋賀)


・中国四国(5)

鳴島(徳島)

今張西(愛媛)

西関(岡山)

石国商(山口)

七頭(鳥取)


・九州(4)

創成学園(長崎)

枝光国際大附(福岡)

西宮埼(宮崎)

神山学園(鹿児島)



東京ベスト4からの選出、21世紀枠の30年ルール解除、関東ベスト4に群馬が2校残るも片方落選。

全て実例を知っていたら相当な高校野球マニアだと思います。(群馬の件は自分も最近知りました)

また、実際には21世紀枠を決めてから一般枠の会議に入るので、21世紀枠が後から変更される事はありません。たぶん。


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[一言] 帝京の前田さんが怒り狂いそう・・・
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