表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/699

1.チーム強化案1「夜間練習と左右のバランス」

 都大三高に敗北した翌日、富士谷高校では練習前にミーティングが行われた。

 先ずは島井さんが中心になって、当たり障りのない反省会が開かれる。

 続けて、自由に意見できる場が設けられたので、俺は教壇の前に立った。


 要件を黒板に書き連ねる。

 内容は他でもない、練習時間の変更だ。

 尚、内容は下記の通りである。


・平日の練習時間を20時迄とする。

・ミーティングは火曜日の練習前に行い、月曜日は完全定休日とする。

・土曜日は基本的に都大二高との合同練習or練習試合とする。


 練習時間の確保も大事だが、選手のモチベーション維持も重要になってくる。

 という事で、不定期的にミーティングを行っていた月曜日を完全に休みにした。

 実際、月曜日が休みの強豪校は多い。都大二高も月曜日が休みと聞いた。


「じゃ……顔を伏せて、賛成の方は手を上げてください」


 俺はそう言って、静かになった教室を見渡した。

 ほぼ全員が自主的に手を上げている。ただ1人、堂上を除いては。


「何か不服なのか?」

「当然だ。20時迄と生温い事は言わず、終電まで練習すれば良いだろう。何なら学校に住んでも良い」

「無理に決まってんだろ。ぜってー教育委員会に怒られるわ……」


 堂上は相変わらず席でふんぞり返っていた。

 何はともあれ、これで全員が夜間練習に賛成したという事になる。


「皆の合意は得られたんですけど、どうでしょう」

「いいんじゃないか? ねぇ瀬川さん」

「うーん……」


 続けて、俺は指導者達に問い掛けた。

 畦上先生は肯定的だ。一方で、瀬川監督は首を傾げている。


「だいぶ時間が遅くなるのがな。選手達は心配ないだろうが……」


 瀬川監督は顎を擦りながら言葉を続けた。

 なるほど、マネージャー達……というか愛娘の恵が心配な訳か。


「じゃあ、マネージャーは今まで通りの時間で帰しましょうか」


 畦上先生は小さな声で瀬川監督に囁いた。

 瀬川監督は満足気に頷く。しかし、そこで手を挙げたのが恵だった。


「あ、私は大丈夫ですよ。お父さんと一緒に帰るんで。ねっ、それでいいでしょ〜?」


 恵はドヤ顔で言い放つと、瀬川監督には媚びた声で言葉を続けた。

 瀬川監督は「それなら仕方がない」と諦めた様子だった。


「私も大丈夫です。ってか、バイトしてる連中はもっと遅い時間までやってますし……」

「じゃ、じゃあ私もっ!!」


 続けて、卯月と琴穂も便乗した。

 流石に琴穂は心配である。あまりにも可愛すぎるので、誰に狙われるか分かったもんじゃ――。


「琴穂、無理してないか?」

「かっしーと帰るから大丈夫っ! 卒業まではお兄ちゃんもいるし!」


 卯月の問い掛けに、琴穂は元気良く言葉を返した。

 よし、残る事を認めよう。ちなみに、孝太さんは結構な頻度で練習に来ている。まあ出番は遠のいているが。


「(うわぁ、めっちゃ点差開くじゃん……!)」

「(一応、俺も一緒の方向なんだが……)」


 恵と近藤は何故か微妙な表情をしていた。

 何はともあれ、これで本当の意味で全員が参加する事になった。





 日を跨いで火曜日、初めての夜間練習が行われる事となった。

 甲子園が見えている事もあり、照明設備の使用許可は簡単に得られたらしい。


「んで、具体的には何がしたいんだ?」

「シンプルに時間を増やすだけでも良いんですが……ちょっと工夫したいですね。選手集めて貰っても良いですか?」


 俺は畦上先生に選手を集めるよう伝えた。

 富士谷の平日練習は、水曜日と金曜日がマシン打撃、火曜日と木曜日がそれ以外(内外野分かれてのノックがメイン)となる。

 これを毎日両方行っても良いのだが、あえてベースの予定は変えずに、新たな方法を組み込んでいく。


「えっと、今日から皆さんには、両投両打の練習をやってもらおうと思います」


 俺は選手達の前でそう告げた。

 練習内容は変えずに、今までの練習を左右両方で行う、というのが俺の案である。


「確かに、富士谷は左打ち少ないもんね……」

「投手に至っては右の本格派しかいねーしな」

「いや、そういう事じゃない。あくまで左右のバランスを鍛える為にだな」


 ちなみに、左打者やサウスポー不足を解消する為ではない。

 これはあくまで、両腕両足を同じように扱えるようにする練習となる。


「それ意味あんの?」

「うーん……そうだな。よし渡辺、グローブ外してみ」

「え、俺……?」


 京田に意味を問われたので、俺はあえて渡辺に問い掛けた。

 渡辺はグローブを地面に置くと、俺は白球を軽く放り投げる。


「片手で!」

「えぇっ!?」


 渡辺は少し戸惑いを見せると、咄嗟に出した右手で白球を掴んだ。


「なんで右手で掴んだ?」

「えっ? 反射というか、なんか捕りやすかったというか……」

「そう、普通は利き手のほうが捕りやすいんだよ。けど投げるという動作があるから、俺達は左手で捕る事を強いられているんだ」


 一般論になるが、何事においても利き手の方が扱いやすい。

 それは捕球も同じである。よく利き手にグラブを付けようとする素人がいるが、これは利き手のほうが捕りやすいと脳が判断しているからだ。


 また、今のように素手で捕らせると、経験者でも利き手が出てしまう事がある。

 これは守備が下手な人ほど顕著に出る。恐らく、京田だったら左手で捕っていただろう。

 だから悪い見本として、暫定失策王の渡辺にボールを放ってみた。


「なるほどなー。けどこれって、元々左手で楽に捕れる人は意味ないんじゃ?」

「んな事はない。単純に両手の操作性が上がるし、そもそも守備に限った話じゃないからな」


 勿論、この練習は守備が上手い人間にも効果がある。

 バッティングでも両手を使うので尚更だ。手足を思ったように動かすという事も、左右の筋肉バランスというのも、野球においては重要な要素なのだ。


 ちなみに、これは他のスポーツでも実証されている。

 例えばスノーボード、スケートボードと言った横乗りスポーツ。

 上記のスポーツは、右利きの人間はレギュラースタンス(左足が前)で滑るのだが、逆を向いて滑るスイッチ滑走の練習をすると、レギュラーの滑りも上達するという報告が出ている。

 まあ……総括すると、左右のバランスは非常に大事という事だ。


「確かに、右打ちの人こそ左手の使い方が大事って聞くしね……」

「17年生きてきたけど、この発想は無かったぜ」

「ああ、さすがエース様だ!」


 阿藤さん、島井さん、田村さんが言葉を並べた。

 その姿を見て、俺はかつてないくらい顔を歪めてしまう。


「そのクソみたいなヨイショ要ります???」

「いや……わりぃ。なんか勝手に口が動いたんだよ」

「ああ、使命感みたいなのが舞い降りたよな……」


 そのノリはこの時代に存在しない。

 そんな事を思いながら、富士谷野球部の夜間練習はスタートした。

▼秋季東京大会決勝

帝__皇100 000 000=1

都大三高301 000 21x=7

【帝】伊東(2.1)、松川(3.2)、白石(1)、松川(1)―石川

【三】吉田(8)、宇治原(1)―木更津



ちょっと理屈っぽいチーム強化シリーズだけサクサクっと日刊で投稿します。(全4話)

以降は2日に1作のペースで投稿していこうと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なろう小説の登場人物みたいなセリフを吐きやがって… あ、なろう小説の登場人物だったわ
[一言] 今回の話題、左右バランスよく鍛える、というやり方は、どっかのリトルのチームでやっているという話を聞いたことがあります。 あるいは、おお振りの作中で、そういう指導の話もありました。何年前の話題…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ