66.てんさい襲撃
秋季東京大会準決勝
2010年10月30日(土) 神宮第二球場 第1試合
都立富士谷高校―都東大学大三高校
スターティングメンバー
先攻 都大三高
中 ⑧篠原(1年/左左/181/76/杉並)
二 ④木代(2年/右右/175/74/文京)
右 ⑥金子(2年/右左/181/80/中野)
三 ⑤木田(1年/右左/180/74/飛騨)
一 ③大島(1年/右右/179/86/前橋)
左 ⑦雨宮(1年/右左/178/71/郡上)
遊 ⑯荻野(1年/右左/168/63/船橋)
投 ①吉田(2年/右右/180/79/日野)
捕 ②木更津(1年/右両/175/68/南房総)
後攻 富士谷
左 ⑩田村(2年/右左/175/70/新宿)
中 ⑧野本(1年/右左/175/64/日野)
遊 ⑥渡辺(1年/右右/171/62/武蔵野)
一 ①柏原(1年/右右/177/72/府中)
投 ⑨堂上(1年/右右/178/75/新宿)
右 ③鈴木(1年/右右/177/70/武蔵野)
捕 ②近藤(1年/右右/170/70/府中)
三 ⑤京田(1年/右右/163/53/八王子)
二 ④阿藤(2年/右右/170/58/八王子)
都大三高との準決勝は、引き続き神宮第二球場で行われる事となった。
富士谷と都大三高は第一試合。その後に帝皇と成葎学園の第二試合が行われ、決勝進出の2校が揃う事となる。
球場に入る前、係員の指示を待っていると、都大三高の選手と目が合った。
イキり散らした銀髪が視界に入ったので、俺は咄嗟に目を逸らす。
しかし――そんな抵抗も虚しく、彼は選手を一人連れて此方に歩いて来た。
「やあ凡人の諸君! 久し振りだね!」
そう言って無邪気な笑顔を見せたのは、都大三高の4番打者――木田哲人だった。
その横で退屈そうにしているのは木更津健人。U―15日本代表の正捕手で、今季からレギュラーになっている。
「どうも。何か用か?」
「う〜ん……流石凡人。コミュニケーションに理由を求めるなんて、実にナンセンスだね!」
俺は適当にあしらったが、木田は全力で煽ってきた。
もう既に面倒臭い。お世話係であろう木更津の心中をお察しする。
「そんな凡人くんに問題! 僕の美しい髪は何色に見える?」
「銀じゃねえの?」
木田は唐突に問い掛けてきたので、俺は適当に言葉を返した。
木田は高らかに笑い出す。そして――。
「うふふ……あはははははははははは! 流石凡人、これが銀に見えるなんて! 可笑し過ぎてヘソでレモンティーが沸くよ!」
なんて言い出したものだから、思わず殴りたくなってしまった。
相変わらず頭がおかしい。俺は呆れて言葉を失っていると、木田は言葉を続ける。
「銀? NOT……これはプラティナ、つまり白金さ! 銀河系最強、都大三高プラティナ世代を象徴する、素晴らしい色だと思わないかい!?」
木田はそう言って再び笑顔を見せた。
銀河系最強と言うが、プロや大学の存在を無視しているし、辺境の星に野球星人がいる可能性もある。
まあ……面倒臭そうなので反論はやめておこう。
「僕は寛大だからね! 白と答えなかっただけ君の事は評価するよ! ま、だからと言って手加減はしないし、約束通りボッコボコにするけどね! あはははははははははははははははは!」
木田はそう言葉を残して去っていった。
土村には威勢が良かった恵達も、彼とは関わりたくないと言わんばかりに黙り込んでいる。
流石、世代ナンバーワンのキチガイ。もはや天才ではなく天災だろう。
「……しっかし、そっちには華があるな。顔採用でもしてんのかよ」
ふと、木田に置いていかれた木更津が呟いた。
彼はマネージャー達を眺めている。都大三高は女子マネが居ないので、此方が羨ましいのだろうか。
「どうせ都立じゃ甲子園なんて行けねえんだし、FJY48でも結成したほうが合理的なんじゃねえの?」
「あと45人も集めろってか????」
木更津の問い掛けに、俺は思わずツッコミを入れてしまった。
しかし、木更津の表情は一切変わらない。
「んな事しなくても、3人の満年齢を足せば48になるだろ」
木更津は淡々と言葉を返した。
彼は頭の回転が非常に速い。もっと言うなら、ここまでの流れを逆算していた可能性もある。
下らない会話の中でも隙を作らない。それが木更津健人という男だった。
「なるほどな……」
「んじゃ俺は戻るわ。けどその前に一言だけ」
木更津は表情を変えずに言葉を続ける。
「今日、そのチームが如何にしてクソいか――俺が現実を教えてやるよ」
彼はそう言い残すと、木田を追って消えていった。
ナチュラルに見下してきたが――仕方がない、名門から見た都立というのはボーナスステージだ。
俺が先発登板しない事もあり、フリーパスの準決勝だと思われているのだろう。
※
試合は都大三高の先攻で始まった。
富士谷の先発投手は引き続き堂上。ただし、今日はワンポイントで俺が登板する可能性もある。
打順に関しては、田村さんが一番に繰り上がった。
これは早めに4打席回して、守備固めの島井さんに交代する為である。
もう一つ、速球に弱い阿藤さんは九番に下がった。都大三高にはMAX150キロ近い投手が二人もいるので仕方がない。
1回の攻防は、お互いに点の取り合いとなった。
先ずは先攻の都大三高。
先頭打者の篠原がセンター前ヒットで出塁すると、犠打、進塁打、木田のタイムリー二塁打で鮮やかに先制された。
ちなみに、先頭打者の篠原はU―15日本代表の左のエースである。怪我の影響でコンバートしたが、その贅沢な起用には溜め息が出てしまう。
一方、富士谷の攻撃は、夏同様に吉田さんの立ち上がりを攻め立てた。
田村さんの二塁打と渡辺のレフト前ヒットでチャンスを作ると、俺の犠牲フライで同点に追い付く。
更に堂上が四球、鈴木がセンター前タイムリーと続き、あっさりと逆転に成功した。
しかし、点が順調に入ったのはここまでだった。
2回はお互いに三者凡退。以降はお互いに走者を出すもタイムリーに恵まれない。
そんな中、4回表に6番・雨宮の犠牲フライで同点に追い付かれた。
ちなみに彼は、中学軟式No.1スラッガーの肩書を持っている。元名門私立の俺が言うのも変な話だが、品がない補強も程々にして欲しいものだ。
そして迎えた5回裏。二死一二塁の好機を作るが――。
「ットライーク! バッターアウッ!」
近藤が空振り三振で倒れ、無得点となった。
お互いに走者は出すが突き放せない。悪く言えば拙攻しているが、良く言えば粘り強く守れている。
ベスト4という目標を達成したからか、選手達は伸び伸びと守れているように見えた。
何はともあれ、今日勝てば一般選考での選抜出場も見えてくる。
決勝進出の切符を賭けた戦いは、同点のまま後半戦へと突入した。
都大三100 10=2
富士谷200 00=2
【三】吉田―木更津
【富】堂上―近藤
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