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59.ここから先は実力勝負

関越一000 010 2=3

富士谷000 210=3

(関)竹井―土村

(富)堂上―近藤


昨晩投稿した筈がエラーになってた……。

 7回表、後続は抑えてチェンジとなった。

 土村の3打席目はセカンドライナー。何時もは騒がしい彼だが、この打席は大人しかった。


 別に土村も毎打席叫び散らす訳ではない。

 ただ、転生者が居る可能性があると思うと、挙動の些細な変化が気になってしまう。

 果たして、転生者は誰なのだろうか。俺は少しだけ考えてみる事にした。


 先ず、関越一高のベンチ入り1年生は5人である。

 試合に出ている土村(捕)、周平(一)、大越(左)、渋川(遊)に加えて、伝令で出てきた長嶋(控)を合わせて計5人。

 転生者は俺と同世代の筈なので、犯人はこの中に居るという事になる。


 この中で怪しい挙動があったのは周平だ。

 彼は5回裏の守備時に、俺に疑惑の視線を向けていた。

 ただ、その直前には内野陣が集まって、大越以外の1年生は言葉を交わしている。

 この間に、転生者からの入れ知恵があった可能性も考えられる。


 相沢メモにある「他の転生者からの刺激」の定義は不明だが、現状だと大越以外は全員疑う必要がありそうだ。

 直接バッテリーサインを盗まれた土村、疑惑の視線を向けてきた周平、今日の試合前が初接触だった渋川、伝令で出てきた長嶋。

 いや――憶測で絞るのも軽率か。やっぱ大越を含めた5人全員を疑っておこう。


「柏原、難しい顔してどうした?」


 俺は一人で考え込んでいると、横に居た卯月に声を掛けられた。


「ああいや、サイン盗みがバレた臭いんだけど、誰に気付かれたんだろうって」

「誰でもよくない? そんな事より試合に集中しようぜ」


 ごもっとも過ぎるな。

 卯月は転生事情を知らないとはいえ、彼女の言う通り「誰に気付かれたか」を早急に特定する必要性はない。

 情報量でも此方に分がある筈だ。今は試合に集中しよう。



 7回裏は走者を出すも無得点となった。

 ちなみに、土村のバッテリーサインも変わっている。

 グー(指0本)を作る時の挙動は相変わらずだが、今度はウエストが設定されていて、狙い球を絞るのには使えなくなった。

 ここからはインチキ無しのガチンコ勝負という事か。



 8回表、関越一高の攻撃。

 堂上は先頭打者に死球を与えたが、後続を絶って無得点に抑えた。

 名門相手に8回3失点。純粋な1年生としては上出来すぎる内容だ。


「堂上、まだ行けるか?」

「愚問だな。あと7回は問題なく投げられる」

「そうですか……」


 どうやら彼は、延長15回まで投げるつもりらしい。

 まだまだ元気という事で、ここはポジティブに受け取ろう。



 8回裏、富士谷の攻撃も無得点。

 良い当たりも多かったが、関越一高の鉄壁の守備が、打球の行方を阻んでいった。

 相手は腐っても名門校。投手層は薄いものの、そのチーム力は非常に高い。



 3対3、同点のまま9回の攻防を迎える事となった。

 お互いに上位打線からの好打順。先ずは9回表、関越一高の攻撃から。


『9回表 関越第一高校の攻撃は 2番 セカンド 平岡くん。背番号4』

「おっしゃす!」


 先頭打者の平岡さんが左打席に入った。

 平岡さんはここまで無安打。本日2出塁の森久保さんと大越に挟まれる形でブレーキになっている。


「(俺が出れば大越で送ってチャンスで松岡に回せる。今度こそ打ってやるぜ)」


 平岡さんは気合が入っている。

 一方、堂上は相変わらず無表情だ。疲れも全く見せていない。


「(この打者にはストライクになる変化球を使ってない。バックドアのナックルカーブ中心で追い込むか)」


 近藤は素早くサインを出すと、堂上はナックルカーブを放った。

 少し外れてボール。平岡さんは余裕を持って見送った。


 二球目、またも変化球。見送られてボール。

 堂上は変化球の制球がよろしくない。近藤の意図は分かるが、のっけから変化球連投は悪手だろう。


 こうなってくると、次は直球でストライクを取らざるを得ない。

 三球目、堂上は力強い速球を振り下ろす。平岡さんは待ってましたと言わんばかりに弾き返した。


 強めの打球はショート正面に転がっていく。

 何とか先頭は打ち取れそうだ。そう思った次の瞬間――。


「あっ……!」

 

 渡辺はグラブで弾いてしまい、ショートのエラーが記録された。


 名門校と都立高の差はこういう部分だ。

 前者は肝心な場面で良いプレーが出るのに対し、後者は肝心な場面でミスが出る。

 ……なんて冷静に解説してる場合じゃない。無死の走者が出てしまった。


「(俺が決めてやるYO。マツの出番はないゼ!)」


 無死一塁となり、黒人系ハーフの大越が右打席に入った。

 バントの構えは見受けられない。ここで送ってくれると助かるのだが――。


「……ファール!」


 大越は初球から振り抜くと、打ち上げた当たりは一塁側スタンドに飛び込んだ。

 彼が送ってくれれば、周平は避けて無安打の後続と勝負できたが、そう簡単に事を進ませてはくれない。

 表の攻撃、3番打者、次の打者は2本塁打という事も考えたら、ここはヒッティングで間違いないだろう。


 理想は併殺だが、進塁打でも問題ない場面。

 アウトコース一辺倒で構わない。最悪なのは、併殺や三振に執着して、甘く入った球を長打にされる事だ。


 二球目、堂上は速い球を振り下ろした。

 恐らくシュートであろう球。次の瞬間、大越は唐突に背を向けた。


「……デッドボール!」

関越一000 010 20=3

富士谷000 210 00=3

(関)竹井―土村

(富)堂上―近藤


NEXT→3月29日(月)

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