11.余計な心配
気付けば5月も下旬を迎えようとしていた。
この時期になると、野球部の仲間達ともすっかり打ち解け、他愛のない会話を自然とするようになった。
その中で、俺が密かに気にかけているのが、二人のマネージャーの仲である。
ゆるふわパーマと涙袋が素敵な転生少女・瀬川恵は、気さくな性格で選手達と積極的に絡む姿が目立つ。
鈴木や渡辺とも仲が良いので、転生前の記憶を利用してる訳でも無さそうだ。
サイドテールが特徴的なマネージャー・卯月夏美は、同じクラスの野本と堂上、マネージャーにやたらと絡む鈴木以外とはあまり話さない。
野本とは親戚関係らしいので、友達と呼べる男子部員は実質二人だ。
この二人が同時に休憩に入る事は少ない。
というのも、野球経験者の卯月は外野守備くらいはできるので、人数の少ない富士谷野球部においては、貴重な穴埋め要員になっている。
その為、本来マネージャーを必要としない場面でも、彼女はグラウンドにいる事が多かった。
そんな事もあって、二人が仲良く話してる場面を、俺は見たことがない。
上手くやれてるのだろうか。他人事とはいえ、少し気になってしまう。
「よし、次は牽制とランダンプレーの練習。投手は10球交代でいこう」
「ふむ……俺は100球でも問題ないですよ」
「じゃあ15球ね……」
そんな事を思っていると、好機はすぐにやってきた。
この練習なら卯月が守備につく事がないし、ボール渡しやトス上げ係も不要。なにより選手とマネージャーの位置も近い。
二人のマネージャーが、一塁側のネット裏、外履き禁止の区域に座り込む。
牽制を100球投げる男・堂上を先にマウンドに送り、俺は耳を傾けた。
「ねね、なっちゃん」
お、恵が話しかけた。
「ん、なんだよ」
「いま暇?」
「見りゃわかるだろ、ボール縫うのに忙しい」
めちゃくちゃマネージャーらしい事してんな。
「いやーそれは暇でしょ」
「暇じゃねえって」
卯月は口調で損してるよなあ。
「じゃあ縫いながらでいいからさー……カップリングゲームしようよっ」
なに言ってんだおまえ。
「なに言ってんだおまえ……」
あ、被った。
「だからさ、なっちゃんが思う野球部のベストカップルを作って教えてよ」
「えぇー……普通に嫌なんだけど……」
「教えてよ~」
「やだよ!」
「そっか。じゃ、なっちゃんのパンツの色みんなに言い触らすからいいもん」
「ああもう! わかったよ!」
弱すぎだろ。
その場でジャージ脱がされる訳でもあるまいし、我慢できねえのかそれ。
「んー……」
卯月、真面目に考えなくていいぞ。
「柏原と近藤とか……?」
死ね。少しは真面目に考えろよ。
思わず顔まで向けてしまった。あ、恵がめちゃくちゃ引いてる。
「えぇ……なっちゃんってそういう趣味なの……」
「そういう遊びじゃねえの!? つーかそんな趣味ねぇよ!!」
必死だな。意外と弄られキャラなのか。
「いや……カップルって普通は男女でしょ……」
「女子二人しかいねぇのに!? 難易度高すぎだろ!!」
確かに。その遊びを女子二人でしてる訳だからな。
「二人もいれば十分だよね」
「いやー……それって、この場にいる二人のどっちかを組ませる訳だろ……?」
少し照れてるな。純情なのか。
「余裕でしょ~」
「な、なら恵が手本見せろよ!」
お、卯月が反撃に出た。
「えーっとね、じゃあー……」
思わず固唾を飲み込む。
恵は一体、誰と誰を組ませるんだろう。
「なっちゃんとぉ……」
やっぱそうなるよな。
卯月も卯月で聞くの恥ずかしいだろこれ。
「私」
おい。
思わず再び顔を向けてしまった。
「は……はぁ!?」
卯月は一瞬固まったあと、顔を真っ赤にしてそう言った。
「お、おまえ、そういう趣味なの……」
「ふふふ、どうだろうね~。あ、髪にゴミついてるよ」
「こっちくんじゃねぇ!」
恵が手を伸ばすと、卯月は体を仰け反らせた。が、抵抗も虚しく太股を触られていた。
堂上風に判定するなら恵の完勝だったな。結局、男女で組んでないけど。
まあ普通に仲が良さそうで安心した。
「うひょ~混ざりてぇ~」
一塁を守る鈴木が、舌舐めずりをしながらそう言った。
それは10年後なら物議を醸し出すムーブだぞ、とは言わなかった。
▼瀬川 恵(富士谷)
164cm56kg マネージャー 1年生
野球の女神を自称する転生少女。
明るく気さくな性格で、身体の発育が良いのが自慢。
記憶力も並外れているが、好きな事にしか発揮されない為、勉強は得意ではない。
髪色は明るい茶髪、髪型は胸下まであるゆるふわパーマ。
▼卯月 夏美(富士谷)
157cm50kg マネージャー 1年生
やや男勝りな口調だが、性格は至って普通の女の子。
中学までは選手として活躍していたが、とある出来事を切っ掛けに選手の道を諦めた。
髪色は橙色、髪型はサイドテール。帽子を被る時は二つ結びになる。