36.高みの見物
八玉学園に勝利した後、一部の選手達が遊びに行く中、俺は球場に残る事にした。
その理由は他でもなく、第3試合の都大三高と都大二高の偵察である。直接当たるのはまだ先だが、この試合は見逃せない。
都大三高は俺達の世代のラスボスであり、世代最強野手の木田に加え、分析力に優れた木更津を擁している。
対して、都大二高は東京レベルの強豪校だが、何十周もの人生を重ねた相沢がいる。
相沢が木田を、木更津が相沢を、お互いにどう攻略するかという部分が、この試合の焦点だった。
「期待してるところ悪いけど、木田くん対策は特に無いよ」
第2試合の最中、そう言ってきたのは相沢である。
「嘘つけ。ぜってぇ何かあるだろ」
「柏原くん……俺は内野手だからね。木田くんとは直接対決しないし、仮に何か知ってたとしても、今はまだ使えないよ」
疑惑の視線を向けると、相沢はそう言葉を返した。
相沢はクソの役にも立ちそうにない。都大三高の相沢対策だけが見どころになりそうだ。
やがて相沢と別れると、都立福生高校と石倉高校の試合を淡々と見届けた。
福生の森川さん、石倉の宮田さん、両右腕による投げ合いは、1対1のまま延長戦に突入。
そして迎えた延長14回、福生の二塁手が痛恨のサヨナラエラーをしてしまい、2対1で石倉が勝利した。
第3試合はお目当てである都大対決。
オーダーは下記の通りとなった。
都大二高
左 中村(2年)
遊 八谷(2年)
三 相沢(1年)
中 横田(2年)
一 湯元(1年)
投 大野(2年)
右 折坂(1年)
捕 内田(2年)
二 小川(2年)
都大三高
中 篠原(1年)
二 木代(2年)
遊 金子(2年)
三 木田(1年)
右 井山(2年)
一 大島(1年)
左 雨宮(1年)
投 吉田(2年)
捕 木更津(1年)
当たり前だが、半分以上は夏から入れ替っている。
ただ、都大三高は勿論、都大二高にも想定外の選手は存在しなかった。
つまり、相沢はスカウトを行っていないか、戦力を隠している事になる。
試合は都大二高の先攻で始まった。
先ずは相沢の1打席目、一死一塁から先制のタイムリーツーベース。
彼は相変わらず東京の投手を打つのが上手い。捕手の木更津は何やら納得げに頷いていた。
都大二高は更に犠牲フライで2点目を挙げたが、都大三高はすかさず反撃する。
一死一三塁のチャンスを作ると、木田がスリーランを放ち逆転。この打者のチートっぷりも尋常じゃない。
その後、2回表に都大二高が同点に追い付き、3回表に相沢の第2打席を迎えた。
1回表の対決を踏まえて、木更津はどのような攻め方をするのだろうか――。
「……フォアボール!」
結果は敬遠気味の四球。
1打席で勝負を諦めたか。判断力に優れた木更津らしい選択だと言えるだろう。
そして木田の第2打席だが、都大二高バッテリーも敬遠を選択した。
しかし、敬遠という手段が通じないのが、このキチガイの怖い所である。
この時代に申告敬遠は存在しない。故に、打とうと思えば打ててしまうのだ。
「すげー! 敬遠っぽかったのに!!」
「あのバカ!! どうせシングルなら素直に待っとけよ!」
敬遠球を打ち返した当たりはレフト前ヒット。
都大三高ベンチからは野次も飛んでいたが、二塁走者が三塁に進塁できたので、待つよりは儲けた形になった。
「天才の僕に敬遠は通じないからね!! よぉ〜く覚えていて欲しいな!! あははははははははは!」
木田は一塁上で何か叫んでいた。
相変わらず頭おかしい。観客からは失笑が漏れている。
ただ、この打者でも10割は打てないのだから、何かしらの弱点があると信じたい。
試合は徐々に都大三高がリードを広げていった。
やはりというべきか、全国クラスの名門校と、東京レベルの強豪校では、地力に大きな差が見受けられる。
相沢も勝負を避けられているので、都大二高は為す術が無いのだろう。
「三高つえー」
「夏の二高はまぐれだったのか?」
「まー横山も新田も菅野も抜けたしなぁ」
結果が見えてきたからか、観客も次第に席を立ち始めた。
稀にだが、ここから逆転劇が起きて、帰った人々が「失敗したー!」と嘆く事があるが、この試合はどうだろう。
相沢が何か奥の手を使わない限り、その可能性は限りなく低いか。
「木田に絡まれても面倒だし帰るか……」
俺はそう呟いて席を立った。
お互いに敬遠合戦になるなら、これ以上は観ていても仕方がない。
ふと携帯を見たら、琴穂から「おつかれ! のーひっとのーらいふ?すごかった!」とメールが来ていた。
映画でも見てきたのかな? と入力しかけたが、取り消して「ノーヒットノーランだよ」と教えてあげた。
余談だが、第3試合の最終スコアは10対4で、都大三高の圧勝だったらしい。
NEXT→1月17日(日)20時頃