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ある巫女のお話

作者: 抹茶ラテ大先生

昔々、遥か遠くの島国の小さな小さな小国のお話。その国は代々、巫女が治める国だった。

先代の巫女が亡くなると、新しい巫女が選ばれて、その国を統治していた。争いに巻き込まれ、不安な人心を安らかに保つには、人々は巫女に頼るしかなかったのだ。

その当時、巫女としてその国を治めていたのはまだ若い少女だった。父と母と妹と幸せに暮らしていた日常が、ある時、急に巫女の生まれ変わりだとして、国の指導者に祭り上げられてしまったのだ。

少女は無論、断った。だが、断ることは許されず、彼女の意思とは無関係に、巫女になってしまったのだ。彼女の回りにいるのは、国の行く末を示してほしいばかりの、縋るばかりの民だった。

誰一人、理解してくれる者が居らず、何も分からない中で、国の決定を下さねばならない少女。彼女の心はみるみる内にすり減っていった。

そんな彼女には先代からの遺物として、一枚の銅鏡が手渡されていた。困ったときには、銅鏡に尋ねよ、それが先代からの遺言だった。

心底、困り果てていた少女は銅鏡に縋った。「ねぇ、どうすればいいの?私には国を導くなんてできないよ。誰か変わってよ!!」彼女は誰にも吐けない心の声を鏡にぶつけた。

すると、不思議なことに銅鏡に映る自信の姿が話し掛けるではないか。「そんなに辛いなら私が変わってあげるよ。あんたは寝てるだけですべてが終わるさ・・・」

驚く少女。しかし、そんなことよりも少女はその声に縋ることしか考えられなかった。鏡の声の通り、彼女は意識を手放したのだった・・・

翌朝、目が覚めると、いつもと様子が違う。出会う人すべてが少女に手を合わせ、拝むのだ。不思議な気持ちでいながら、気にしないでいると、一人の男が少女に近寄ってきた。

「巫女様!昨晩の占い、お見事でした!!巫女様の言われた場所を探しておりましたら、鹿の群れがおりました!これで、一月は飢えずにすみます。ありがたや、ありがたや」

少女は訳が分からなかった。だが、不思議なことはこの日だけではなかったのだ。鏡に話し掛け、そのまま眠った次の朝、人々は彼女に感謝し、敬い、祈るのだ。

ある時は指示された場所を掘ったら井戸が出た。ある時は、予言された日時と場所に敵国の兵士が現れた。ある時は、流行り病を予言して、未然に食い止めることが出来た。

少女は嬉しかった。自分が寝ているだけで、鏡の中の自分が全てを上手いことこなしてくれる。寝ているだけで皆が自分に感謝し、持て囃してくれる。少女は次第に巫女であることを誇るようになった。

鏡以外で少女と何でも話せるのは年の離れた妹だった。その妹も姉の奇跡の様な予言に自分の事のように喜んだ。「お姉ちゃん!やっぱりお姉ちゃんはすごい巫女様だったんだね!お姉ちゃん、良かったね!」

気をよくする少女は鏡にどんどん夢中になっていく。四六時中、鏡と話し、鏡の中の自分に国の行く末を委ねていた。それでも、予言は変わらずに、尽く的中し続けた。

そんなある日の事だった。巫女である少女の元に男が血相を変えて、走り寄ってきた。「み、巫女様!!大変です!!敵国のやつらが攻めてきました!!どうすればよろしいですか!?予言をお願いします!!」

「任せなさい。私の予言できっと国を救ってみせましょう。しばらく待っていなさい。」この頃には、少女は鏡に全幅の信頼を寄せて、風呂敷を広げるようになっていた。

少女は鏡に急いで話し掛けた。「ねぇ、敵が攻めてきたみたいなの。またいつものようにお願いね。」すると、鏡はこう答えた。

「いいだろう、力を貸してやろう。だが、生け贄をもらおうか。お前の妹の心臓を捧げよ。さすれば、敵を打ち倒して、この国を救って見せようぞ。さぁ、どうする?」

少女は愕然とした。自身の味方だと信じていた鏡の中の自分は味方ではなかったのだ。あれは、きっと鏡に巣くう悪魔だったのだ。都合の良いことばかりを信じてきた自身の愚かさに憤る少女。

しかし、少女は鏡を頼るしかない。今まで、少女は鏡無しでは何もしてこなかったのだ。少女は、愛する妹の命と国を選ばなくてはならなかった。少女は悩んだ。

悩みに悩み抜いた少女は、鏡に向き直る。すると、鏡は少女に語りかける。「ようやく、決心がついたか。さぁ、妹の心臓を捧げよ。さすれば、我が軍を率いて勝利をもたらそうぞ・・・!」

語りかけた鏡に向かって、彼女は大きく手をあげると、一瞬、その手で振り下ろし、鏡を叩き割った。「ど、どうして・・・?」鏡の中の自身が苦しげに問いかける。

「鏡に頼っていた私が愚かだったわ。妹もこの国の人たちも私が救ってみせる!私がこの国の巫女なんだ!私が命に替えて守ってみせる!」

少女は鏡に向かって言い放つと、強い決意を胸に、戦場へと旅立つ。その後、少女は勝利を重ね、その国の真の巫女となる。後世の人々は少女をこう呼んだ。邪馬台国の女王巫女、卑弥呼と。おしまい


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