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ヒーローになる時 それは今

 ほらきた……。

 お約束とも言うべき展開に、涼美は嘆息を漏らす。

「いや、協力したいのはやまやまですが、私に特別な力などないですし、無理ですって……。そもそもなぜ私なんです?」

 この事態を収拾するために協力してください。と、心身ともにボロボロの、ただのくたびれた28歳OLに向かってのたまう自称天使に、当然の質問を涼美はぶつけた。

 オーニスも、その質問は想定ずみだったのか、今度は言いよどむことなく答える。

「さっきも言いましたけど、肉体を持たない我々天使が、この世界で活動するためには、多大なエネルギーを消費するんデスよ。デスので、現地協力者は必須なんデス」

 そういえば、あの私コスプレモードは疲れるって言ってたっけ……。涼美は先程の会話を思い出す。

「受肉していない状態の我々の言葉を聞くことのできるヒトは、そう多くはないんデスね。かといって化身(アバター)は消耗が激しいと。無駄弾は撃ちたくないために、人選は慎重に行ったデスよ」

 どうやら、適当に選んで来たワケではないらしい。ということがわかり、涼美はいちおう聞く態度を改めた。もし「ランダムで選びましたー! あはー☆ミ」なんぞ言おうものなら、即、お帰り願ったのだが。

「先ず、事情を話せば、事態を収拾したい思いや、義憤に駆られて協力してくれる可能性の高い、今回の事象で多大な被害を受けている者」

 確かに涼美は、この事態を解決したいと思ったし、許せないとも思った。

「でも、その条件だったら私以外にもたくさんいたのでは?」

「たくさんいましたよ? でも、あまりの不幸っプリに……その……世を儚んでアレしてしまっていたり、精神を病んでしまっていたり、そもそも次々と襲いくる不幸でお亡くなりになってしまったりとか色々あってデスねえ……」

「うわあ……」

 だから、この事象に巻き込まれても、心身ともに無事な春日さんは、希少な人材なんデス。そうオーニスは続けた。――涼美の心は若干、壊れかけていたのだが。

「次に、多少、常識から外れた体験をしても、パニックを起こさず受け止めることのできる、柔軟な精神を持っているヒト」

 この条件は、読書で非日常に慣れ親しんでいたお陰もあるが、もう何が起こってもどうでもいい。最悪もし死んでも、今の状況から開放される。という、諦めにも似た境地に、涼美の精神が至っていたためでもある。

「最後に、お話をするために必要な依り代である、動物を飼っている者。こんな感じデス」

「なるほど……。ちなみに同条件の人は他にもいたんですか?」

 あわよくば、その人に事態の収拾を行ってもらおうと、淡い期待を乗せて質問を投げてみる涼美。

「幾人かはいたんデスけど……」

「じゃあ」

「ぶっちゃけますと、先程、春日さんと猫ちゃんに施した奇跡で、ほぼ力を使い果たしました! しばらくはこの猫ちゃん暮らしデスよろしくおねがいします!」

「えー!」

 涼美の目論見は、いきなり崩れ去った。完全なる猫質である。

「いやいやいや、さっきも言いましたけど、ホント無理ですって! オーニスさんが力を使い果たしたということは、私が代わりに、超能力とか魔法とかを持っている、ルール無用の悪党をやっつけなきゃいけないんですよね!? 私に力になれることはないですよ!」

 食い下がる涼美に、オーニスは前足を招き猫のように振る。

「またまた御冗談を。先程、少しお話ししましたが、春日さんも我が主の端末の1つ。戦えるよう、今は封じられている大いなる力の一端を、特別に開放してもよい。と、許可はバッチリ得ています!」

「うわー! やっぱりそうきたー!」

 力を与えられ、巨悪と戦う。変身魔法少女モノのお約束である。そして涼美は、その手の知識も有していた。

「そ、そうだ! 神様! なんで神様が直接やらないんです!」

 原因を作ったのは神様でしょう? なら神様が自分でどうにかするのがスジでは!?

 という涼美の悪あがきに、オーニスは深くため息をつく。

「えーとデスね……一言で言うと……雑……?」

「雑?」

「春日さんは、箱舟伝説はご存知で?」

「ええまあ……」

「博識デスね! あれデス。あんな感じになります……」

 堕落しきった人間に怒った神が、地上を、洪水や嵐でダイナミックに洗い流して大掃除したというアレである。

「うわぁ……それ絶対にやらせちゃいけないヤツじゃないですか……」

「デスよね? とにかく! このままでは、春日さんはいつまでも不幸のループから抜け出せませんし、放っておけば、他に犠牲になる無辜の民もたくさん出ます。かといって、我が主に責任を取らせようものなら、スナック感覚でこの惑星をリセットしかねません。もはや頼れるヒトは春日さんしかいないんデス!」

 涼美とて、絶対に嫌というワケではないのだ。不幸体質は、放置することのできない大きな問題ではあるし、まだ怒りに燃える闘志もある。ただ、他にやれる者がいるのなら、自分よりは適任だと思うし、任せたかっただけである。

「わかりました……そこまで言うのでしたら、ご協力いたします。ですが! 万全のサポートをお願いしますよ!? 私、痛いのとか嫌ですから!」

「やってくれますかありがとうございます! ええ、ええ、お約束いたしますとも!」

 のちに……というか直後に、春日涼美(28歳OL)はこの選択を後悔することになる。そう、変身魔法少女モノのお約束、その二である。

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