大切なもの
私には大切なものがある。
大好きな人とお互いに交換した、キラキラしたなにか。
それは、小さな箱に入れてリボンをかけて、棚に飾ってある。
それをくれた人は、遠くへ行くから、待っていて欲しいと言ったきり、連絡が無い。
その人が出かけてしばらくすると、箱は少し重くなったような気がした。
それから2年ほど経ったある日、その人はいきなり私の前に現れた。
そして、海外へ行くから荷物を取りに来たんだと笑いながら言った。
その人の胸元に、私があげたキラキラしたなにかが光っていた。
手早く荷造りをして、その人は、元気でね、と言って笑った。
また遠くへ行ってしまうのか。せめて見送るくらいしよう。
ベランダからその人の後ろ姿を眺める。
その人に駆け寄る人が居た。
そして晴れやかに笑いながら、キラキラしたなにかを交換した。
その人の胸元にあったはずの私のキラキラは、いつの間にか地面に転がっていた。
ああ、そうか。
さよならだったのか、あの言葉は。
ふと思い立って、棚にしまっていた箱を取り出した。
リボンを解いて蓋を開ける。
そして、驚いた。
キラキラしたなにかは、もうキラキラしてなんかいなかった。
黒くくすんで、ひどく醜かった。
こんなものを、どうしてこんなに大切にしていたんだろう。
そう思いながら、地面に転がっている私のキラキラに目をやった。
そこにはもう、キラキラなんて存在しなかった。
分かりたくもないのに、腑に落ちてしまう。
こんなに簡単に分かってしまう。
あの人は、もう私なんて見てないんだ、と。
私の大切なものが消えてしまったのを、ただ受け入れようとして、震えながら、体を丸め、唇を噛んでいる。
大切なものって、どんなものだっけ。
もう、思い出せなかった。