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【勇者】3

状況説明回?w

「でだ、【勇者】。


 早速、己の力量レベルというやつを上げようと思うんだが……」


 俺は顔を上げながら………【勇者】asお父ちゃんに、ゆっくりと言葉をかけた。


 意図せずそれは……真剣なまなざしになっていただろう。


 己の力量レベルを上げるということ……【レベリング】。


 それはひいては、【聖女リーン】を蘇生させるための。


 早急に、『【魔王討伐】を成し遂げたレベルのパーティメンバー』を蘇生することができるレベルになるための。


 しかし。


 俺の真剣な言葉に………【勇者】とンマットさんは顔を見合わせていた。


 そして……ためらう様子を見せる。


 二人が言葉を継がなかったため、必然的に奇妙な沈黙が発生する……なんだ?


 怪訝に思って俺が問いかけようとすると……【勇者】は一つ咳払いなどして見せる。


「ん、んん。


 あ、ああ……そ、そうだね、ラファエラ。 お前の言は正しい。


 すぐにでも、お前のレベリングを始めないといけない……んだが…………」


 勇者のそのためらいがちな言葉と接続詞に………俺は目を丸くした。


 驚く俺に、さらに遠慮がちになりながら……【勇者】は続ける。


「あの時と……少し状況が変わってしまったんだ……」


「『状況が変わった』……だとぉ!? どういうことだ!!??」


 俺は思わず立ち上がって叫んでいた。


 【勇者】の言葉に……まるで【聖女】のことが大事ではなくなってしまったかのような印象を受けたからだ。


 その時だった。


 もう一度、重厚な造りの扉が開け放たれた。 同時に、叫ぶような言葉が飛び込む。


「ラファエラが目を覚ましたって本当ですの!?」


 この声は……ソフィアさんだ。


 俺は無意識に振り返る。


 振り返って……俺は目をまん丸くして驚いていた。


 そこにいたのは……ソフィアさん。


 ただし……あの日、最後に見たソフィアさんとは全く姿が変わっていた。変わり果てていた。


「そ、ソフィアさん…………そのお腹………」


 思わずそう言いながら俺は……もはや臨月と言っていいほどにお腹をおっきくさせたソフィアさんの姿を呆然と眺めていた。


 俺のその視線は、おそらくソフィアさんを形状変化させた犯人と思しき【勇者】に折り返し、刺さる。


 そして俺の目はさらにもう一度大きく見開かれる。


 よく見れば……勇者の傍らにいるンマットさん、前と違ってゆったり目の服装をしてるけど……お腹のあたり、少しふっくらしていないか!!??


 驚愕する俺の耳に……少し疲れたような、【勇者】の静かな言葉が届く。


「……状況が………変わったんだよ………」


 自嘲するような微かな笑み……【勇者】は静かに呟いていた。


「…………」


 俺はその【状況】に、思わず絶句していた。


 何故か脳裏に……【前田利家】と【育児休暇制度】という、一見全く関係なさそうな言葉が、ぐるぐると回っていた。

「な……な……な……っ……」


 二の句を継げないとは、まさにこのことだろう。


 【勇者】の野郎……俺が寝たきりとなっていたこの一年半、そして【聖女リーン】の喪に服すべきこの一年半の間に、がっつり【子造り】してやがる!!!???


 しかも、二人も!!


 『状況が変わった』と【勇者】は言ったが……いや、変わり過ぎだから!!


 だが……ある部分、情状酌量する余地もあろう。


 アイテムボックスによる人工冬眠中とはいえ……細君を失った【勇者】。 その心情は察して余りある。


 それゆえに……『溺れてしまう』ということもあろうし、『お互いを支え合った』ということもあろう。


 それは、理解できる。 十二分に、理解できる。


 だが。


 どうしても、割り切れない部分があった。


「……ぅ~……っ…」


 微かに呻きながら……俺は思わず、頭を抱えて側にしゃがみこんでいた。


「ど、どうしたニャ!? 頭が痛くなったのかニャ!?」


「た、大変ですわ……きっとまだ、昏睡の影響が……早速、回復魔法使いの手配をっ!!」


 心配そうに俺に駆け寄るンマットさんとソフィアさん。


 それぞれ優しく、そして心配そうに、その場に崩れそうな俺に応対している。


 普通に考えれば、ありがたい話だ……しかし正直、複雑だった。


 誰が一号で二号で三号なのかは知らないが……腹違いの妹や弟を身籠る女性に対して、俺はどういう態度をとればいいのか。


 それは基本的に一夫一婦制である【日本人】には……答えられないことであろう。


 決していないとは言わないが、例えば家庭の事情で畑違いの兄弟姉妹がいる【日本人】も少数だろうし、それが複数の畑である【日本人】なんて、極々少数だろう。


 そして俺は、その極々少数の【日本人】になってしまったのだ。


 ……いやまあ、【転生】して【日本人】ではなくなってしまってはいるんだけど。


 そういう対象に……『仲良く』とか『和気あいあい』とか、【日本人】にできるのか? 【日本人】に『割り切る』ことが、できるのか?


「と、と、とりあえず……さ。 えぇと……なんていうか。


 お、おめでとうございます……二人とも」


 何とかそれだけ口にすると俺は……何とか笑顔を作りながら、二人に声をかけた。


 うまく笑顔を作れたかどうか、まったく自信はなかった。


 しかし……二人の反応は、強烈だった。


 一度驚いた様子で顔を見合わせてから………しばらくしてから、二人は同時に俺を抱きしめていた。 二人で俺の体をプレスするかのように、思い切り。


「うれしいニャ!! ラファエラに祝ってもらえたニャ!!」


「感激ですわ!! ラファエラに受け入れてもらえるなんて!!!」


「…………ムギュー………」


 二人がかりで圧縮され俺は……なんとなく、ブラックなジャックさんのパートナーの娘のキメ台詞を思い出していた。 ……もちろん口は出さないが。

 つまり……つまり。


 パートナーの二人が妊娠してしまったので、俺の力量レベルを上げるという行為に差しさわりが出た、ということなのだろう。


 妊婦二人を置いて父娘二人で【冒険】に旅立つなんて……きっと全方位に敵を作る。


 いわゆる『コレ(小指)コレ(ボテ腹)コレもん(般若面)で』が完璧に成り立ってしまう。


 それゆえの『状況が変わった』という言葉なのだろう……【勇者】は昔の『上司の誘いを断る新婚サラリーマン』かな?


 俺は思わず……二人がかりの抱擁の間でアッチョンブリケイの顔をさせられながらも、深いため息をついていた。


 ただ……視線を【勇者】に向ける。


 真っ直ぐに、視線を向ける。


 無意識にそれは険しいものになってしまっていたのだろう……【勇者】は引きつった笑みを俺に向けていた。

 俺の視線をしばらく受け続け………ふいに【勇者】が、空気を換えようとするかのように咳払いなど一つ見せた。


「ん、んん!!


 い、いや、その………『状況が変わった』というのは……『それ』だけじゃないんだ……」


「いや俺は『それ』って部分が何なのか、まったくわからないんだけど?


 『それ』って部分に関して、まだ何も言ってないんだけど?」


 複雑な心の内を吐露するように、挑発するかのように応じる俺に……【勇者】は困ったように頬をポリポリとやる。


 困ったようにしばらく沈黙してから……おもむろに立ち上がった。


 そしてそのまま……部屋の窓辺にたどり着くと、そのままゆっくりと窓に取り付けられた木製のルーバーを開け放つ。


 森林……窓辺に見えるのは巨大な木々が立ち並ぶ、まさしく森の中、という光景だった。


 ……今更ながら、それは俺がこの世界に来て初めてみた『外の世界』だった。


 俺は今までずっと【聖女リーン】のお腹の中にいて……生まれたのは出産準備室というべき部屋。 そして一年半の間、ベッドに寝かされていたのだ。


 産まれて(・・・・)初めて(・・・)見る外の(・・)光景……しかし。


 俺には妙な違和感があった。


 そうここは森の中……当然、俺が生まれた修道院はない。


 それどころか……あれ? 俺が生まれたのって……【施療院】を併設できるレベルの【修道院】ではなかったか?


 つまりは、規模の大きい修道院……ひいては、それを抱えることのできるレベルの大きな町。


 決して、こんな森の中ではないはずだった。


 驚く俺に向かって……【勇者】は静かな口調で、続ける。


「はっはっは………ちょっと落ちぶれて、都落ちしちゃってね………いや。


 いずれ解ることだから、はっきり言うとしようか。」


 そう言いながら【勇者】は、姿勢を正した。


 そして……神妙な口調で、続ける。


「……正直に言おう。


 ラファエラ……君は教会に【魔女認定】された。


 そして僕たちは……君を連れて、国外に逃亡したんだ。


 当然、僕も【勇者】の資格もはく奪されたよ。


 そして今も逃走生活さ……状況が変わった、というのは……そういうことなんだよ」


「な………っ!!??」


 勇者のその言葉に、俺はもう一度絶句していた。

※前田利家さんという戦国武将は、ロリペド糞野郎として一部の人間の羨望を浴びていますw

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