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転生者の【胎動】

中編です。

本当は短編にしようと思ったのですが、このサイトでの短編の扱いがあまりにも不遇なのでw

長くはありませんが、しばしのお付き合いをお願いいたします。

 ヒトの人格が過去の記憶や経験によって形成されているとしたら、そのもっとも古い記憶が人格の始点という事になるだろう。

 人格……それは自我と言っても良い。

 つまり、自分が覚えている一番古い記憶こそが自我の始まりという事だ。

 自我が芽生え、そこからの知識や経験の積み重ねによって現在の自分に至る。

 その始まりは人によっては違う。

 【始まり】が、例えば保育園の友達と遊んだことだったり、幼い頃の生家での家族との会話だったり……驚いたことに、人によっては母親の胎内での記憶が【始まり】という者もいる。

 特に幼児に多いのだが……母親の胎内の中での経験、例えばへその緒をいじって遊んだとか、へその緒で縄跳びしたとか……無論そこには幼児特有の空想や夢想もあるのだろうが、幼児は急にそんなことを言って周囲の大人を驚かせることがある。

 だが子供はやがてそんなことを言わなくなる。

 それは周囲が冗談と思って取り合わなかったり、あるいは最初から嘘だったのかもしれないし、本当の事だったとしても本人が忘れてしまうという事もあるのかもしれない。

 だが俺は……その記憶がある。

 というか……俺、今まさに胎内にいるんですけど。

 正しくは……俺、今まさに胎児なんですけど。





『うわっ!! どこここ(DKKK)!? なんで(NND)!?

 い、息ができない……て、あれ? 苦しくないな……』


 などと叫ぼうとして俺は、肺の中まで満たされた温かい液体を口から出す。反射動作で息を吸うと、今度は吐き出した液体が肺の中に入ってゆく。

 完全に呼吸器が水没しているというのに……しかし、苦しくはなかった。

 ふと脳裏をよぎったのは、例のアレだ……うん、なんか汎用で人型のとある決戦兵器のパイロットになった気分だ。

 ほら、例の……ロボットの操縦者の席が、ナントカという液体に満たされているという設定のやつ。

 つまり俺は……何らかの【液体】で満たされた何らかの【器】の中に、押し込まれているのだった。


『……うーん、目は良く見えないけど、たぶん真っ暗だ。

 周りは……なんかぬるま湯の中みたい。

 【転生の女神】さま……俺を異世界の裕福な家庭に転生させてくれるって言ってたけど、ここは一体どこなんだよ……』


 自分の状態を確かめようとして身体を動かしてみる……しかし、うまく動かない。

 身体が麻痺しているというか……何というか、長時間正座してしびれた足のように、身体が思うように動かせないのだ。

 まるで、【自分の身体じゃない】みたいに。

 と……その時だった。


「まあ!

 ラフィったら今、私のお腹の中を蹴飛ばしましたわ!!」


 若い女の声。

 それが、俺の耳……と言うか、俺の身体全体に振動として伝わってくる。


『お腹の中を蹴っ飛ばした……って、えええええ!!

 それって、俺の事!?

 て事は……え? 俺いま、胎児なのか!?

 た、確かに【転生の女神】さまに転生させてもらったけど……生まれ変わるって、そこから!?』


 俺はそう絶叫(できてないけど)しながらジタバタしてみた。

その俺の身体は、光こそ差さないがまるで温水プールの中に潜っているように柔らかい抵抗と温かい温度で包まれている。


 それはまさしく胎内。

 ネットミームに、『もはや【萌え】を通り越し、母性すら感じる』という意味で、『オギャる』『バブみがハンパない』『俺を産んで欲しい』などのネタはあるが……今の俺はまさに、オギャりバブリ産んでもらえる胎児(存在)だった。

 ……全然嬉しくないよ!!


「ラフィが元気に暴れてますわ……ふふふ、もう出たいのでしょうか?」


 続けて、若い女の声の響きが俺の身体にダイレクトに伝わる。

 なるほど……俺が今胎児として、母親の声は骨伝導的に聞こえてくるものらしい。 文字通り、一心同体だし。

 少し遅れて、ぽんぽん、という優しい振動。 これはおそらく、俺の母親がお腹を叩いて俺に優しく挨拶したらしい。


 ちなみに……その言語は日本語ではなかった。

 聞いたこともない言語……しかし俺はそれを理解できた。

 そう言えば【転生の女神】は俺に異世界の言語や常識をインストールしておく、とか言っていた。

 なるほど、俺の名前は【ラフィ】とすでに決まっているらしい。

 そしてその、『この世界の常識』をもって……なんとなく、理解した。

 ラフィは両性の愛称だ……男だったら【ラファエル】、女だったら【ラファエラ】とでも名付けるつもりらしい。

 つまり、生まれてくるのが男でも女でも両方に対応できる愛称という事だ。

 ……なるほど、そう言えば地球でも海外には人名に男性形と女性形がある地域もある。 それってこういう事だったんだね。

 これは日本にはない概念だな……俺は妙に自分が【異世界転生】したのだと納得した。

 と……俺の母親と思しき女の声に、別の声が応じた。


「あははは……【リーン】、それはまだ早いよ。 リーンも大変だろうけど、もう少し待っててほしいな」

 男の声だった。 その優しい口調は、俺の母親に近しい人間であるらしかった。


『そうか、俺の母親はリーンって名前か……美人かな? それともカワイイ系?』

 心のメモ帳に下線付きで書き込みながら俺はまだ見ぬ母親の顔に思いを馳せる。


 男は、続ける。


「けど……【胎動】か。

 もう五ヶ月だから、そんな時期かな。 早い子は四ヶ月ほどで始まるらしいけど……その辺は誤差範囲じゃないかな。

 まあそれはそれとして、あと五ヶ月は我慢だよ、リーン」


「五ヶ月ですか……そうですね。

 ラフィが生まれるころには私、一七歳になってしまいますね」


『でええええええ!!??』


 リーンさんの言葉に、俺は思わず絶叫(できてないけど)していた。


『お、俺の母親………思い切り未成年じゃないか!?

 誰や誰や、未成年を孕ませた鬼畜な兄やんは!?』


 ものすごく動揺しながら俺は絶叫(できてないけど)を続ける……だけど。

 うん……心のどこかで羨ましいと思ってしまうのが男なのです。


「そう言えばそうだね……僕もその頃には一六歳か。

 けどまあ、ちゃんと一生養えるだけの蓄えはあるよ」


『鬼畜な兄やんはお前かーい!!??

 い、いや……その歳で年上のお姉さんを落としたとか、一生分の蓄えがあるとか……ゆ、【勇者】だ。

 それとも……【異世界】ならそう言うのが普通なのか?

 日本じゃ考えられない……す、すごいな……』


 俺は盛大に突っ込みながらも……目の前(多分)にいる男を尊敬し始めていた。

 そう言えば【転生の女神】は、俺を裕福な家庭に転生させてくれると言っていた。

 て事は……この男、貴族か商人なのだろうか?

 男の言葉に、リーンさんが応じる。


「はい、あなた。

 それに関しては、本当に感謝しています。

 日に三度の食事と、こんなに温かい寝具なんて……まるで貴族さまにでもなったようですわ。

 今までは食うや食わずの生活だったのに……おかげで、ラフィも元気に産んであげられそうですし。

 何より……こんなに幸せな気持ちにしてもらえるなんて。

 私、あなたと一緒に居られて、本当に嬉しいんですよ」


「僕もだよ……そしてこれからはラフィも一緒にね」


「……はい」


 そう言ってゆっくりと……二人は抱きしめ合ったようだった。

 ……ええと、なんというか、お幸せに。

 らぶらぶで結構なことですが、傍観者がここにいることを忘れないでいただきたい。

 その後しばらくして、少し長めの抱擁が解かれた。


 ……おっぱじまらなくて良かったと、俺は安堵のため息を(つけてないけど)ついた。


「……これからもずっと一緒だからね」


「はい」


「ふふふ……楽しみだな。

 ラフィが産まれたら、ちゃんと剣も魔法も教えるよ。

 と言っても……【魔王】は僕が半年前に倒しちゃったから、無駄になればいいんだけど」


『こいつ、マジもんの勇者かよ!!

 て事は……魔王を倒して一か月で俺を仕込んだのか!?

 いや……誤差を考えれば、もしかしたら魔王を倒す前に!?

 すげえ……いろんな意味で。

 勇者ってマジ勇者なんだな……』


「あらあら。

 それなら私も【回復魔法】や【光魔法】を教えますから。

 私だって【聖女】と呼ばれた神聖魔法使いですし」


『いや、【聖女】どころか【聖母】になっちゃってるんですけど!?

 お、恐ろしや……どこかの聖書の大天使でも来たのかよ。

 勇者ってマジ神の使いなんだな……』


 俺は無意識に呟きながら……恐れをなしていた。

 勇者とは、かくも恐ろしいものなのか、と。

 その時……俺のお腹の辺りに生暖かい感触が触れた。


 ……胎児って、じつは普通に胎内でおしっこをする。

 俺は目の前(たぶん)の男のあまりの勇者っぷりに、無意識に、にょーっとおしっこを漏らしていた……。

 貴重なラブシーンが台無しであった。

 そしてさらに、俺の耳に違う声が届く。


「ゆーしゃ! リーン! たっだいまぁー!」


 弾けるような若い女の声。

 悪意など欠片も感じさせない、明るい声だった。

 その言葉の合間に重い扉の開閉音。

 重厚な造りを感じさせる低い音と、それが勢いよく開閉される激しい音。

 それに俺がビクンと身体を震わせていると、すぐに強めの衝撃が来た。

 元気な声の女は、リーンに勢いよく抱き付いてきたらしい。

 女と言うか……どちらかと言えば少女に近い声か。

 続いて、皮膚同士がスリスリこすりあわされるような音。


「ラフィくんにも『たっだいま』!!

 【ンマット】お姉ちゃんだにゃー!!

 ラフィくんのために、魔王軍の残党狩りを早めに切り上げて帰ってきたのにゃー!!」


 その声は、スリスリという音とともに、俺の身体全体にビリビリと伝わってくる。

 声がデカい……と言うのもあるが、察するにンマットと名乗る女はリーンのお腹に頬ずりしながら俺に語りかけてきたらしい。

 その言葉に、勇者as俺のお父ちゃんはおろおろしながら応じた。


「ン……ンマット!

 ラフィがびっくりしちゃうじゃないか!!」


「……ゆーしゃは心配症だにゃぁ。

 あたしたち【猫耳族】の女は、妊娠してても狩りに出かけるし、子供だって産まれてすぐに歩き出すにゃ!!

 へーきへーきにゃー!!」


 ンマットとお父ちゃんの会話に、俺は驚きを隠せなかった。

 ……そういえば、俺は……俺の両親の外観を知らない。


 ということは……え、俺って【猫耳族】ってやつなの!?

 猫耳族……名が体を表しているとしか思えないその言葉。

 少なくともその耳がウサギさんの耳の形状をしている訳ではないのだろう。

 無意識に、俺は自分の耳を触って確認しそうになっていた。


「いや、リーンは普通の人間だから!!

 人間は普通、出産するまでの間は介護がいるから!!」


 叫ぶように言う勇者asお父ちゃん。

 それに俺は、安堵のため息を(つけてないけど)ついていた。

 【猫耳】……あれはあくまで観賞用である。

 生前の俺、いい年をした男が猫耳をつけている姿を連想し、俺は恐怖心にも似た感情を感じていたのだった。

 転生の女神様……俺を【人間】に生まれ変わらせてくれて、本当にありがとう!!

 俺は思わず神に感謝していた。


「ま、まあ、介護まではいりませんけど……でも、ラフィがビクンって、びっくりしていたようですよ?

 ラフィには、もう少し優しく接してあげてくださいね?」


 聖女as聖母asお母ちゃんは困ったような様子でンマットに優しく声をかけていた。


「うん!! わかったにゃー!!」

 わかっているのかいないのか、ンマットはアホの子一〇〇パーセントの元気なお返事をしていた。


「ラフィくんはあたしの大事な家族だから大事にするにゃ!!


 あたしだってゆーしゃの家族、三番目のお嫁ちゃんだにゃー!!」


 なるほど……突っ込みどころは多いが、俺のお父ちゃんがいわゆる【テンプレ勇者】と言う奴であるという事はよくわかった。

大体十話ぐらいの予定です。

よろしくお願いいたしますー♪

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